少子化が止まらない日本で、明石市の子育て政策に注目

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2021年の人口動態統計によると、日本の出生率は1.30と6年連続で低下しました。出生数が過去最少となった日本ですが、逆に子供の数が増えているのが兵庫県の明石市。泉房穂(いずみ ふさほ)市長が内閣委員会で述べた明石市の少子化対策についての意見が参考になりそうです。

少子化が止まらない日本

6月3日に厚生労働省が発表した人口動態統計によると、1人の女性が生涯に産む子どもの数を示す合計特殊出生率は1.30と6年連続で低下しました。この数字はさらに落ちることが予想されます。というのも、新型コロナウイルスの影響で人に会う機会が減ったこともあり、婚姻率も落ちているからです。人口1000人に対する婚姻率は2019年に4.8だったのが、2020年に4.3、2021年は4.1となってしまいました。欧米と異なり、日本は結婚してから子供を産む人がほとんどなので、この少子化傾向が回復するきざしは見えません。

出生率を年齢層でみると、40~44歳での伸びが一番高く、0・0031ポイント増で、出生数もこの年代だけ増えています。 20~34歳は出生率も出生数も減少しています。出産が最も多かったのは 30~34歳ですが、出生率は0・0058ポイント減りました。出産の高年齢化が進んでいるのは経済要因が関係しているのでしょうか。

死亡数は前年から6万7054人増え、143万9809人と戦後最多を記録。出生から死亡を引いた自然減は62万8205人と過去最大になりました。イーロン・マスクが「このまま日本の少子化が進んだら日本はなくなってしまうんじゃないか」と心配していましたが、その通りになってしまうかもしれません。それでなくてもこの調子で少子高齢化が進めば、近い将来労働人口が減って社会を支える人が減少するだけでなく、医療・介護の担い手も不足し、社会基盤が揺らぐ可能性もあります。

そんな中、6月7日に、参議院でこども家庭庁やこども基本法案について議論する内閣委員会で明石市の泉市長が 参考人として明石市の子供対策について説明しました。

明石市の子供対策

泉市長による内閣委員会での質疑の様子はこちらの動画で見ることができます。

泉市長は「日本の少子化や経済衰退の原因は私たちの社会が子供に冷たいからで、子どもを応援すれば、人口減少の問題に歯止めをかけられるし、経済もよくなっていく」と言ったのち、明石市の子供政策を説明しました。

明石市の子供政策の目玉は「5つの無料化」です。

(1)こども医療科無料(高校3年生まで)

(2)第2子以降の保育料完全無料(親の収入などの条件なし)

(3)0歳児の見守り訪問「おむつ定期便」でおむつやミルクなどの子育て用品を毎月届ける

(4)中学校の給食費無料(所得制限なし)

(5)公共施設の入場料無料(プール、博物館、科学館、親子交流スペース)

上記の子供政策は親の収入などの条件なく、すべての子供が対象です。「すべての子供を対象にすることでお金は余計にかかるが、働く親も恩恵を受けるために出生率が上がり、その結果地域経済もよくなる」と泉市長は語ります。

ほかにも明石市では、こども園やこども食堂、病児保育の提供、児童相談所の拡充など、様々な子供や子育て支援の制度、サービスを整備しています。ひとり親家庭に対し、養育費の不払い分を立て替えて支払い、別居親に対して立替分を督促、回収する事業や、戸籍のない子供への支援、コロナ禍で困窮していた大学生への学費支援、学校で生理用品無料支給など、「誰ひとり取り残さない」きめ細かい対応もあります。さらに「保育施設での使用済み紙おむつの保護者持ち帰り廃止」というのを聞いて、イギリスに住む私は苦笑を禁じ得ませんでした。

「使用済みのおむつを保護者が持ち帰らなくてはならない」などという、不合理・非衛生的、保護者にも保育施設にも過剰な負担がかかる「罰ゲーム」としか思えない苦行を課しているのは日本だけではないでしょうか。それでなくても、明石市がしている子供政策は何らかの形で欧州諸国が全国で普通に行っているものがほとんどです。泉市長も「世界でのグローバルスタンダードを日本だけやっていない。政府がしないから国に先立って、遅まきながら明石がやっている。」と語っていました。

少子化解消・人口増、経済も順調

泉市長は2011年に市長就任、2012年に「こども未来部」を作って子供政策を進め11年経ちましたが、その結果、明石市はどうなったでしょうか。

泉市長就任時には人口減少傾向となっていたのが、その後、9年連続で人口が増加し、その率は中核都市で全国トップです。その中でも、特に子育て層の人口が増加し、親世代25~34歳と子供世代0~4歳が大幅増加して、出生率も1.7と全国平均より高い水準となっています。

明石市は人口が減り続けている神戸市に隣接しています。神戸市など近隣地域から、子供を持つ家庭や出産予備軍の人を中心に、子供政策が充実している明石市に移り住む人が多いだろうと予想されます。

明石市では、市民の満足度も全国トップで、「住みやすい」という市民が91.2%いるということです。

とはいえ明石市の「子供にやさしい政策」は金銭的な負担も大きそうなので、財政面がどうなっているかも気になりますね。泉市長も、最初は市の財政が破綻するのではないかと反対意見が多かったと語っています。けれども10年経ってみると、それとは逆の結果となっています。

明石市では人口が増えたために地域経済が活性化しているのです。明石駅前の図書館、子育て施設や商業施設があるエリアへの新規出店は2倍以上になり、地価は7年連続で上昇。市内の5年前の中古マンションが2倍の価格となっているそうです。この結果、市への税収もアップ。

明石市の税収は8年前より32億円増え、借金も減り、市の「基金残高」も市長就任前より51億円増えました。実質公債費比率(市が自由に使えるお金のうち、借金の返済に使うお金の割合)2.8%で県内トップと市の財政は健全化しています。

子供政策を始めた当初、市内の商店街などからは「子供のことより商店街振興を」との声があがっていました。でも、子供が増えたおかげで街が活気付いて、商店街も儲かり始めたので、今は「もっと子供対策を」と変わったそうです。子供対策費をひねり出すために公共事業費を削ったことで地元の建設業界も怒っていましたが、今は「マンションで儲かりました」ということです。

泉市長に言わせると「お金がないからしないのでなく、お金がない時こそ子供にお金を使うと、地域経済が回り始めてお金が回り始める。」

泉市長から政府への提言

泉市長は政府への提言として「こども家庭庁」で関係省庁の連携強化を進めるとともに、人材育成や予算の増強、国と地方の連携や財源が必要だと強調しました。

「すべての子どもたちを、町のみんなで本気で応援すれば、町のみんなが幸せになる。そのことがまさに国民みんなのためだということ。」

「子どもの未来は私たち自身の未来であり、子どもの未来は日本社会の未来」

明石市の人口が増えたり、子供の数が増えると言っても、神戸市などの近隣地域から人を取っているだけではないかという考え方もあります。けれども、別の考え方をすると、他の地域では育てる自信がないため産めなかった子供を明石市に住むことで産めるようになったとか、一人しか育てられないと思っていたが、2人、3人と子供を持つことができたという人もいるということです。

泉市長によると、明石市の子供対策が成功しているのを見てそれを取り入れ始めた播磨町などの近隣地域でも、同じような効果が出始めているということです。

日本で少子化問題を解決するために

日本では「子どもを持ちたくない」という人がそれほど多いわけではありません。それなのに出生率が下がり続けている主な原因はお金です。

2015年の出生動向基本調査では、妻が30~34歳の夫婦が理想の子ども数を持たない理由として8割が「子育てや教育にお金がかかりすぎるから」と答えました。子供をもちたくても、経済的な理由であきらめている人が多いのです。

それなら、国が子育てを支援する状況を作って、安心して子供を産み育てられる社会にする事が必要です。明石市がそのお手本を示しているのだから、それを国全体で真似すればいいだけです。

「西の明石」と並び、東では、千葉県流山市も「母になるなら流山市」のスローガンのもと、働きながら子育てができる市としての子育て支援策を導入したことで人口を増やし続け、出生率も1.62を誇っています。

このように先見の明がある地方自治体の取り組みを国全体でやれば、今、様々な理由で出産を躊躇している人たちが安心して子供を持つようになるでしょう。そうすることで、日本全体で出生率の底上げができるかもしれません。

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