少子化理由の一つ若い女性の海外流出:私が日本を出たわけは?

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2022年の出生数は過去最少となり、出生率は1.26と少子化の加速は止まらない状況です。その理由については未婚化、晩婚化、子育てコスト、若者の貧困化や非正規雇用化などが挙げられますが、若い女性の数の減少があり、それに貢献しているのに若い女性の海外脱出があると言われて自分のことかと思いました。

2022年の出生数と出生率

厚生労働省が発表した2022年人口動態統計によると、2022年に生まれた日本人のこども(出生数)は77万747人で、統計を始めた1899年以降で最少となり、初めて80万人台を割り込みました。1人の女性が生涯に産む見込みの子どもの数を示す「合計特殊出生率」は1・26に落ち込み、データのある1947年以降では2005年と並んで過去最低の水準。

出生数は前年より4万875人少なく(5%減)、7年連続で減。同じく過去最少を更新した21年は前年比約2万9千人(3・5%)減だったので、減少幅も広がっています。合計特殊出生率は前回の1・30より0・05ポイント低下し、7年連続の低下。過去最低だった05年と同水準まで落ち込んでいて、少子化の加速は止まらない状況です。

少子化の理由

少子化の理由はさまざまで、よく言われるのが未婚化と晩婚化。婚外子が少ない日本では結婚した夫婦は子供を産む傾向にあるので、その人たちに3人目を産んでもらうのが問題解決の近道だという考えもあります。日本の出生数の減少が婚姻率の低下によってもたらされたというのはその通りなのですが、ずっと高かった完結出生児童数(結婚している夫婦の最終的な平均出生子ども数)も、2010年には2人を切っています

さらに追い打ちをかけているのが、第2次ベビーブーム世代の団塊ジュニア(1971~1974年生まれ)が出産適齢期を過ぎてしまい、第3次ベビーブームが起きなかったということ。これからは出産予備軍である若い女性の分母そのものが減っていくので、いくら出生率が上がろうと生まれてくる子供の数が減るのは自然なことなのです。

若い女性の数そのものが減っていること、そしてその多くが出生率が比較的高い地方から出生率や婚姻率が低い東京などの都会に出て行ってしまうことも少子化に拍車をかけています。

女性と少子化と地方創生

若い女性の海外流出

朝日新聞が「わたしが日本を出た理由」という記事を連載しています。全部を読んでいるわけではないのですが、「静かなる流出」という言葉を聞いて「私のことかな」とちょっとどきっとしました。

日本から海外に移住する人が増えていて、海外永住者の6割超は女性。特に若い女性の海外永住が増えているそう。ちなみに永住者というのは現地で永住権を取得した人のことで、留学やワーキングホリデー、海外派遣などが目的の「長期滞在」とは異なります。長期滞在先はアジア諸国が多いのですが、永住先は欧米諸国が多いということ。イギリスに住む私もその一人です。

なぜ「静か」なのかというと、こういう海外流出が多くの日本人が知らないうちに起こっているから。私も心当たりがあるのですが、海外移住というと日本の人からは国を捨てるのかと否定的な反応をされることもあるので、その本当の理由について日本に向けて語ることは少ないのでしょう。

ではどうして若い女性は日本から出ていくのでしょうか。勉強や仕事、国際結婚など理由はいろいろですが、多くの女性にとって、その根底にあるのは日本社会の閉塞感、ここでは自分の人生をまっとうすること、やりたいことをやって輝くことができないというあきらめがあるのだと思います。言葉も文化も異なり、現地での困難、時には孤独感、貧困や差別にもあいながら、それでも海外永住を選ぶほど、日本は若い女性にとって生きづらい社会。それは、イギリスで出会う多くの日本人永住者(ほとんど女性)と話すたびに感じます。

私が海外永住を決めた理由

私個人の場合、日本からイギリスに来たのは都市計画の勉強をすることが目的で、日本が嫌だというわけではなかったし、意を決して日本を出たいと思ったわけではありません。とはいえ、その背景には若い女性として日本社会で生きていくことが何となく合わなかったということもありました。当時は「まだ結婚しないのか」「そろそろ結婚しないと売れ残る」「若いうちに子供を2人は作らないと」などと言われることが普通だったので、その気が全くない私には居心地が悪かったのを覚えています。

イギリスに来て言葉もしゃべれないし、慣れないことだらけなのに、こちらの社会にすんなり溶け込めたのは、自分が「若い女性」としてではなく「一人の人間」として扱われることが心地よかったからです。女性だから外国人だから若者/中年/高齢だからと属性でカテゴライズされることなく、一個人としての生き方や意見を尊重され、自分がやりたいことを自分が好きな方法でやっていけばいいし、人と違う意見を言っても(賛同されないにせよ)聞いてもらえて議論ができるというのも私には合っていました。

大学での都市計画の勉強が終わった後、日本で働くことを選ばなかったのは専門の仕事が東京にしかなかったというのが大きな理由です。東京にあるコンサルタントから仕事のオファーもあったのですが、地方にはそういう仕事がなかったのです。別に出身地である必要はなかったのですが、緑が少なく庭も持てない東京にはとても暮らせないと思い、ずっとイギリス暮らしです。

イギリスの地方自治体で都市計画のキャリアを進み、3つの異なる自治体都市計画課で働き、その合間には子供も産みました。出産・育児休暇を1年近く取り、その後はフレキシブルワーク制度を使って働きながら子育てをして充実した生活を送りました。残業もなく、コロナ前も週1度は在宅勤務で、家事育児は連れと半々で分担。有給休暇も年間30日あって海外旅行を楽しんだり、日本に一時帰国したりもしました。大きな庭のある家に住み、週末は庭仕事をして気分転換。

あの時、東京での仕事を選んでいたらとてもできなかった生活だし、日本人男性と結婚していたら家事も自分だけに重くのしかかり、子供も産まなかったのではないかと思います。大きな声では言えないけど、私にとっては日本脱出が正解だったというのが本音。

日本で議論される少子化解決策

日本では少子化やそれに伴う人口減少・国の高齢化が問題だということが議論され始めてからすでに数十年がたっていますが、傾向は悪化をたどるばかりか、少子化は加速しています。解決策として提案されるのは「地方に帰って結婚・出産したら奨学金減免」などという、家父長的な「産めよ増やせよ」的施策。これでは若い女性にとっては逆効果です。選択式夫婦別姓も進まず、避妊・中絶制度などで女性の自己決定権をせばめたり、男女の賃金・機会格差や女性の非正規雇用を是正しようとしないのも、女性を家に閉じ込めるためにやっているのではと勘ぐってしまうのも無理はありません。

せっかく若い男女が新しい価値観を持って育ってきているのに、いつまでたっても男女の役割分担が固定化し、過酷な長時間労働が常態化しているのも問題。女性は仕事も家事育児介護も負わされ、男性は名ばかりの育児休暇制度があっても使えず、長時間労働の故、家庭や育児に参加したくてもできない状況。これでは、価値観があう若い男女が一緒になって、仕事も家庭も子育ても協力して生きていこうという、欧米では当たり前のライフスタイルを送ることができません。

女性の就業率と出生率

少子化はもちろん日本に限ったことではなく、地球規模の傾向です。世界的にみると1950年の出生率は4.7でしたが、2017年に2.4とほぼ半減。途上国では経済発展によって女性の教育機会や社会進出が進み、避妊へのアクセスが浸透したことで出生率が下がりました。飢餓や貧困が深刻で子供の死亡率が高かった地域では歓迎すべきことでもあります。

先進国を見てみると、どこでも軒並み出生率が下がり続ける傾向。その中でも、男女が不平等な国ほど出生率が低いという傾向が見られます。女性の社会進出が進むと出生率が下がるのではと考えられていたのは少し前のこと。

The Economics of Fertilityによると、OECD諸国を比較したところ、1980年頃は女性の就業率が高くなると出生率が下がる傾向にありましたが、最近では女性の就業率が高い国ほど出生率が高いという相関が見てとれます。

日本やスペイン、イタリアでは男女の役割分担意識が根強く残っていて、男性は外で働き、女性は家で家事子育てをする、働く場合もパートタイムという傾向が高いのですが、そういう国では出生率は下降傾向。このような国では男性の家事育児参加率も低く、男女が協力して家庭を築こうという意識が希薄です。

逆に、男性の「家庭進出」が盛んな北欧を中心とする諸国では、出生率が上向き傾向。このような国では男性の家事育児参加率や育児休暇取得率も高く、男女が仕事も家庭も半分ずつ平等に担当して男女で協力して家庭を築いていこうという姿勢が見られます。

男性が長時間労働もいとわず家庭を養わなければならないという負担や責任がないだけでなく、時間とゆとりさえあればこれほど楽しいことはない子育てという経験ができるのは、男性にとってもメリットが大きいはず。女性が一人で家庭を背負わなければならないという肉体的、精神的負担もシェアできて、家族の結びつきも深まり、親子全員の幸せ度もアップすることでしょう。

男女が幸せでゆとりのある生活ができ、共に家庭を作っていこうと思えてこそ、子供を持とう、育てたいという気持ちになるのではないでしょうか。子供の数を増やすことばかりを追い求めるのではなく、若い人たちが幸せに暮らせる生き方、働き方を整えるほうが大事なのではないかと思います。

私のように、若い女性が「静かなる流出」をするのでなく、日本にいるままでそのような生き方が実現できるような社会になってほしいと心から願います。

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