ガーデニングのすすめ:週に10分で死亡リスクが18%減?

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Gardening

世界各地からはらはらするニュースが毎日のように入ってくる中、正気を保つのが難しくなる時もあります。そんな時はPCもスマホもしまって、外に出るのが一番。空を見上げ、体を動かして外の空気を吸ったり、花や葉などの自然に触れることで心身の健康が保たれている気がします。

ガーデニングとイギリス人

イギリスに来てからどっぷりつかってしまった趣味がガーデニング。最初はたまたま買った家にかなり大きな土地が付いてきてご近所の手前、庭の手入れをしなければならないと思ったのがきっかけでした。ガーデニング大国でもあり、街の景観に気を遣うイギリス人は、低い塀から見える前庭のありさまを気にします。別に荒れ放題だからといって小言を言われるわけではないけれど、よそさまの家は少なくとも道路から見える部分はきれいに整っているので無言のプレッシャーを感じます。

庭仕事というものは、やり始めるときりがなく、はまってしまうと深みから出られなくなります。というのも、自分の手や体、五感を通して自然との対話を味わえるのが無上の快感なのです。土の豊かさ、温かさを自分の手で感じるたびに子どもの頃の泥遊びを思い出して、時間を忘れて遊んでいた童心に戻ることもしばしば。庭仕事を始めると、少し前に思い悩んでいた複雑な問題を忘れることが多いです。その上ごほうびとして、新緑が芽吹く瞬間やお気に入りの花がつぼみを付ける様子を見たり、土を掘り返したことで表に出てきたミミズをついばみに来る小鳥に出会ったり、庭の野菜や果実を堪能できる収穫までついてきます。

私が庭に足を踏み入れる瞬間は、まるで新たな世界が広がるような感覚。というのも、季節の移り変わりやその日の天候によって、庭は毎日違う顔を見せてくれるから。冬のさなかにスノードロップが顔を見せたり、まだかまだかと待っていた花が咲く喜び。小さな種をまいたり、新しい苗を植えることで生まれる期待感。キッチンの野菜くずや集めた落ち葉がコンポストビンの中でふかふかの腐葉土になっていたり。庭のおかげで日常生活が特別なものになります。

文化と社会

ガーデニングは、個々のスタイルや好みを活かした創造的な場でもあります。様々な植物やデザイン要素を組み合わせることで、独自の芸術作品を作り上げるプロセス。自分の好きな花、カラースキーム、組み合わせ方で自分だけの世界を形作ることができるのです。イギリスの住宅街を散歩していると、低い塀越しに前庭が見えますが、一つずつそれぞれが違っていて、あきません。きれいな芝生にカラフルな一年草、木や常緑の低木でグリーンが主流のもの、煉瓦が敷き詰められたローメインテナンスガーデン、前庭にまで野菜や果実を育てるポタジェ風のものなど。

イギリスでは、このようなガーデニングが日常の一部となり、人々の生活を豊かにしています。ガーデニングはそれに携わる一人一人だけでなく、広く私たちの文化や社会にも多大な影響を与えています。庭園は文化の一環として、美的・精神的な価値観を形成し、特定の時代や場所の特色を反映します。例えば、日本庭園は風雅と調和を重視し、自然の美を表現する独特のスタイルで知られています。大きな自然を盆栽などでミニチュア的に表現する手法は、外国にもファンが多い、日本が誇る芸術と言ってもいいでしょう。

また、ガーデニングは地域社会やコミュニティ文化にも大きな影響を与えています。公共の庭園や公園、コミュニティの緑化プロジェクトは、地域の人々を結びつけ、共有の空間を提供し、コミュニティの結束を強化します。例えば、イギリスでは近隣の人々が一堂に会して庭や公共空間で植物の世話をすることを通して、友情や協力をはぐくむことがよくあります。一人暮らしの老人など孤独になりがちな人が仲間を作り、他人との交流を深めるかけがえのない場を提供します。

イギリスでは、アロットメントと呼ばれる市民農園の活動がさかんです。古くは戦時中に食糧不足のために始まった市民農園ですが、今では自宅に庭がない都会民や人との交流を求める市民の憩いの場として機能しています。コロナの流行で外出制限が導入されたとき、散歩や庭仕事で外に出ることは許されていたので、アロットメントを希望する人が急増して、ウエイティングリストが長くなったそうです。市民農園では思い思いに野菜や花を育てる人もいるし、そこで仲間と出会い、世間話を楽しむために通う人もいます。

心身の健康への影響

世界中の9万人を対象に行われた研究では、ダンスや散歩と同様に、ガーデニングを1週間に10〜59分やるだけで、死亡リスクの18%低減したという結果が出ています。1週間に150〜299分 運動すれば、死亡リスクが31%減るということで、これはジムのワークアウトと変わりない効果ということ。

また、庭の中での軽い運動やストレッチは、筋力を増強し関節の柔軟性を保つのに役立ちます。これにより、身体的な健康が維持され、日常生活における活動がスムーズに行えるようになり、転倒やストレスを減らし、薬の服用を抑えることができると言われています。

イギリスでは、リタイヤした後にガーデニングを楽しむために高齢者施設に入らず、庭付きの家に住み続ける人が多いです。散歩していると、かなりの年齢のおじいさん、おばあさんが前庭で庭仕事をしているのをよく見かけます。近所のおばあさんは庭仕事しているから90歳になっても元気、おじいさんがなくなって一人暮らしだけど、庭があるからさびしくないと話していました。

ガーデニングの効能は肉体的なものだけでなく、精神的な健康にも大きくかかわっています。土いじりをする作業や植物に触れたり水をやったりすることは、ストレスを解消し心を落ち着かせる効果があります。ガーデニングは脳内でセロトニンの分泌を促進し、リラックス効果をもたらします。人は自然と触れ合うことで心が安定し、気分が明るくなるものです。

また、植物や花の世話を通じて、責任感や達成感を得ることができるため、自己肯定感の向上にもつながります。仕事をやめて社会的なつながりがなくなった人でも、大人の世話が必要な子供でも、庭仕事をすることで、やりがいや自分自身への誇らしさを感じることができるのです。

緑の豊かな庭が提供する酸素は、呼吸を整え、体の健康を保つ役割を果たします。土に触れることで生まれる独特の安心感は、日々の喧騒から解放される助けになります。デスクワークで運動不足になりがちな現代人にとっては、適度な運動にもなって心身の健康をもたらしてもくれます。
これにより、日常の疲れが軽減され、心地よい眠りにつくことができるはず。私も、デスクワークで頭を使った後、なかなか寝付けないことが多いのですが、庭仕事を頑張った日は早い時間に眠くなり、朝までぐっすり寝てしまいます。

ガーデニングと持続可能性

ガーデニングは自然環境を育むエコフレンドリーな活動でもあります。庭に植物が育ち、花が咲くことで、昆虫や小鳥、小動物たちの生息地を提供し、生態系のバランスを保っています。食糧生産のための商業的な農業が、生産性を最大化するために化学肥料や農薬にますます頼るようになった今、公園や個人住宅の庭にある自然環境は様々な生態系にとって、より重要度を増しています。

個人の庭でのガーデニングは持続可能な生活への一環として大きな意義を持っています。環境への配慮がますます重要視される現代社会において、私たちの庭は重要な役割を果たす場所。単にきれいな花を育てるだけでなく、私たち一人一人が、このような側面についても意識しなければなりません。例えば、なるべく除草剤や化学肥料の使用を避け、土壌を改善したり、自家製コンポストを使ったり、雨水を有効に利用したりすることで、化学的、人工的な処理を最小限に抑え、地球環境への負荷を軽減するように努めています。

日本でガーデニングを楽しんでいるという友人は、春になるとつぼみを付けたチューリップなどの球根や鉢植えの一年草を買って、花が終わるとごみ箱に捨てて、新しい苗を買うということを繰り返していました。それぞれのやり方があるので、これはこれでいいのでしょうが、私はこのようなガーデニングは持続可能性という側面からは疑問に思っています。せめて捨てるのならコンポストにしてほしいと思ったり、ただ花壇をカラフルにしたいだけなら、造花でもいいのではないかと思ったりしてしまうのです。

ガーデニングは、私たちの環境意識を向上させ、自然への感謝の気持ちを育む活動でもあります。庭を通して植物や生態系の恩恵を受ける一方で、それらを保護し、未来の世代に引き継いでいく使命感を持つのが道理なのではないでしょうか。だからわたしは、ただきれいな花を買って飾って捨てることを繰り返すような、消費行動としてのガーデニングではなく、自らの手で土を耕し、種をまき、育てることで得られる満足感を味わうやり方で庭を楽しんでいます。

昨今、SDGs Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)ということが叫ばれていますが、持続可能なガーデニングは、私たちの地球環境に対する責任感を育み、健全な未来を築く一翼を担う、重要な取り組み。その上で、心身共に健康になって死亡リスクが減る、数百円の種から食べきれないくらいの野菜が収穫でき、きれいな花や葉に心がいやされるとしたら、これ以上何を望めましょう。

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