「保育園落ちた」少子化なのに待機児童が減らない本当の理由

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毎年冬の終わりの時期に話題になるのが保育園の入園可否(入れるか入れないかの)の通知についてです。4年前の今の時期に「保育園落ちた、日本死ね」という言葉が話題になったので、ご存知の方もいるかもしれません。子供を保育園に預けたかったのに入れることができなかったことを匿名で発信した母親の言葉です。


「保育園落ちた」

Hoikuen

 

言葉は乱暴でも、子供を保育園に入れて働きたいのにそれがかなえられないという悔しい気持ちがにじみ出る文章に、つい同情してしまいます。同じような思いを持つ保護者はたくさんいたようで、この投稿の賛同者から27,000あまりの署名が集まったそうです。

あれから4年たちますが、今年も「保育園落ちた」の悲痛なコメントがSNSにたくさん上がっていました。

妊娠中の2018年に20以上の保育園見学に行き、出産後2019年10月から待機して、13園申し込んだのに全部落ちたという人。無認可保育園にさえ落ち、託児所も全滅で、復職をあきらめるしかないということです。

シングルマザーなのに保育園に落ちたのでどうやって生計を立てていけばいいのか呆然としている人もいます。

また、すでに職場復帰済みで今のところは何とか託児所を利用してしのいでいる母親もだめだったとか、さまざまな「保育園落ちた」ストーリーが聞こえてきます。

保活と待機児童

子供を持つ母親が働くために保育園を探しても、空きがないため、「保活」という言葉があるほどです。入園を希望する子供の数より認可保育園の定員が少ない以上、どうしても椅子取りゲームになってしまうのです。

保育園だけではありません。首都圏では、学習塾やスイミング教室などの習い事、学童保育の確保も難関となっています。

東京では子供向けの水泳教室は100人待ち、数年待ちという状況なので生まれたらすぐウエイティングリストに申し込む人もいるそうです。

厚生労働省の発表によると、保育園を希望するのに入れない待機児童問題の数は、2017年から多少減ってはいます。

21,371人(2014年)
23,167人(2015年)
23,553人(2016年)
26,081人(2017年)
19,895人(2018年)
16,772人(2019年)

2019年の保育所等利用定員、289万人(前年比8万8千人増)に対し、保育所等を利用する児童数は268万人(前年比6万5千人増)です。働く母親が増えているため、定員が少しくらい増えても追いつかない状況のようです。

政府は少子化対策の一環として幼児教育・保育無償化を導入しましたが、そもそも保育園に入れなければなんの恩恵もないこの制度に疑問の声も出ています。
無償化よりそのお金で保育士に十分な給料を払い、離職率の高い保育士不足問題をこそ解決すべきだという意見はもっともです。

待機児童は都市の問題

ここまで聞いて待機児童問題ってなんのことと思う人もいるでしょう。

というのも、この問題は国内でもばらつきがあって、全国の80%に当たる地区では待機児童はゼロなのです。

これに対し、都市部では70%が待機児童を抱えています。例外的に地方でも待機児童問題があるところもありますが、おもに都市部やその通勤圏内の地区に多いのです。

東京だけ子供の数が増えている

どうして都市部でだけ待機児童が問題になっているのでしょうか。これは働く母親が増えているからと同時に子供の数が増えているからというのが理由です。

2019年の14歳以下の子供の数は全国1533万人で38年連続で減少していますが、東京都だけ増えています。

東京都の子供の数は155万人(前年比8000人増)と国全体の約1割に当たりますが、この数は2005年から2015年の間107%増加しています。(東京都の子供はしばらくは増え続けるけれども、2025年頃には減り始めると予想されています。)

出生率を見ると、東京都は2015年に1.17で日本一低く、一番高い沖縄県の1.94とは0.77の開きがあります。

出生率が低い東京でどうして子供の数が増え続けるのでしょうか。

若い女性の一極集中

それは、出産予備軍の若い女性が他の地方から東京に流入し続けるからです。

都会は結婚率や出生率が低いのに若者(特に出産予備軍の若い女性)を地方から吸い取るマグネットの存在になっています。

都会の待機児童問題や地方の少子化を解決する鍵は地方から都会へ移る若い女性の流れをとめることにあります。

出生率が都会で低く地方で高いということを考えると、若い女性を地方にひきとめる、または惹きつけることは国全体の出生率を上げることになり、少子化緩和の鍵となるでしょう。

少子化のペースが早まっている

2019年の出生数は過去最小の86万4000人となり、初めて90万人を割りました。この数字は2022年に予想されていたので少子化のペースは3年早まっていることになります。

出生数から死亡数を差し引いた人口減少数は51万2000人です。ということは、日本では毎年鳥取県の全人口とほぼ同じ人数が減っていくわけです。

Population

総務省統計局 https://www.stat.go.jp/data/jinsui/new.html

 

日本の人口は2020年現在、1億2600万人ですが、このままいくと2040年に1億人、2110年には5000万人になるだろうと予測されています。

もちろん人口減少自体が悪いことではないのですが、高齢者が増え若者が減るということは生産力が減り、年金などの社会保障制度が危うくなってくるということです。

1965年には高齢者(65歳以上)一人を現役世代(20から64歳)9.1人が支えていたのが2014年は2.2人で支えている事になり、若者世代への負担が増すばかりです。

少子化問題については長いあいだ心配の声は上がっていましたが、問題を先送りするうちに状況が深刻になってきています。

団塊ジュニア(第二次ベビーブーム1971年から1974年に生まれた人たち)が出産適齢期を過ぎた今、すでに人口を増やすことは現実的ではなく、減少を緩やかにすることを目指す段階に入っているのです。

地方は出生率が上がっているのに子供の数が減っている

地方での過疎化を逆転させる取り組みとして子育て支援に力を入れる地方自治体が増えてきています。給付金を支給したり、保育料や子供の医療費を補助するなど金銭的な支援に加え、子育てサポートを充実させたり子育て世代の移住を促進したりするものです。

たとえば人口減少に悩む島根県では2003年に全国に先駆けて少子化対策推進室を設置し、結婚から出産、子育てまで切れ目のない支援に取り組んでいます。

その成果もあってか、2015年の出生率は1.8と全国平均より高い数字を達成しています。それなのに子供の数じたいは減り続けているのです。若い女性人口の流出が出生率の高さをうち消しているからです。

子育て支援の前に必要なこと

都会に比べ地方では待機児童問題も少ない上に、労働時間や通勤時間が短かったりして子育てと仕事を両立しやすい状況にあります。

また家賃や物価が安く、住居や生活環境に恵まれているため子育てしやすい環境もあります。祖父母など身内が孫を世話するなどのサポートがある家庭も多いでしょう。

一見子育てに恵まれた地方で、しかも自治体がサポートに力を入れているにもかかわらず、子供の数が思うように増えないのは、もう一つの大きな問題解決ができていないからです。

子育て支援をする前に、そもそも女性に子供を産んでもらわなければならない、そのためには地方から都会への若い女性の流れを食い止めなければならないのです。

若い女性が都会へ

出生数を増やすために問題となるのは、若い女性が大学進学や就職のために地方から都会に転出しそのまま帰らないことです。

田舎暮らしが嫌いとか、都会に憧れる女性もいますが、仕事や教育の機会さえあれば地方に残りたい、または都会から戻りたい、移住したいという人もいるでしょう。

若いときに都会に憧れて地方を離れた女性でも、子供を育てようという世代になると故郷に戻りたいという人もいます。かと言って地方に適当な仕事がなければそれもかないません。

子育て世帯の誘致を掲げる自治体は多いのですが、その前に、女性へ教育や仕事の機会、また魅力的な生活環境を提供することも考えるべきです。

首都圏で生まれた人の約9割が首都圏で暮らし続けるということを考えると、都会生まれの人に来てもらうよりは、地方の女性に残ってもらう、または戻ってきてもらうことを考えるのが近道でしょう。

若い女性に魅力のあるまちづくりをすることが、地方創生の鍵であるといえます。

「じゃあ、どうしたらいいの?」と頭をひねる自治体その他の意思決定者は具体的に何をしていいのかわからないかもしれません。その多くは中年以上の男性でしょうから。

若い女性に魅力的な地方は?

それでは、地方自治体や地方の民間企業で女性を積極的に雇用することから始めてはどうでしょうか。女性に魅力ある仕事を提供すれば、地元に残ったり、都会から地方へ移ろうと考える若い女性が増えるでしょう。

これは、女性に仕事の機会を与えることだけにとどまりません。日本社会、特に保守的な地方では軽視されがちな女性の地位を上げることにもつながります。

地方社会で活躍する女性を通して、女性や子育て世代の生の声を聞き、具体的な政策に活かすこともできるようになります。そのためには、自治体や民間企業のシニアポスト、マネジメントに女性を抜擢することが鍵となるでしょう。

日本では、特に地方では女性が活躍する場がまだまだ少ないのが現状です。この状況を変えていかなかければ地方の衰退、そして日本の少子化はますます進んでいくことでしょう。

女性の問題

女性の問題については、これまた語るべきことがたくさんあるので、これは次回に譲ります。

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