アジアの伝統的家族観と少子化について英紙が提言

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英紙エコノミストに、日本、中国、韓国、台湾といった東アジア諸国について書かれた「アジアの新しい家族」という記事がありました。経済的繁栄の陰で少子化や人口減に向かう儒教国家に共通する要素についての警告。その提言がイギリスから日本を見ている私にはもっともだと感じるものでした。

New Asian Family

イギリスの週刊誌であるエコノミストの記事 ’New Asian Family’「アジアの新しい家族」は、アジア諸国、特に日本、中国、韓国、台湾といった東アジアの国について外から見た客観的な視点で書かれています。その社会で生きていると自然に受け止められ、または何となく違和感がある人も明確にそれと異なる意見を言い出しにくい状況にある中、外からの提言は参考になるでしょう。

この記事は、かつてアジア的な価値観はその国の指導者に広く支持されていたという話で始まります。自由奔放な西洋的価値観のせいで様々な社会問題が起こっている欧米に比べ、日本や中国、韓国、台湾の若者はまじめで勉強熱心で働き者、親や目上の人を尊敬し、礼儀正しく、社会は秩序を保っているというわけです。

そのおかげで、日本はその中でもいち早く急速な経済成長を遂げ、他の国もそれに続いているかのように見えます。けれども、その日本もバブル後は長い停滞が続き、その後、今に至るまで成長を遂げていた中国でも影が見え始めています。

その背景にあるものとして、この記事では、これらのアジア諸国に共通するもの、すなはちアジア的な家族観をあげ、これが今の若者たちに支持されなくなっている点について指摘しています。

伝統的な家族観に縛られる若者たち

日本、中国、韓国、台湾に共通するのは、儒教的で保守的な家族観が今でも社会を覆っていることです。家父長制にもとづき、男女は結婚して、男性は外で働き、女性は家を守って子供を育てるという、固定的な役割を担うことを期待されています。

けれども、これらの国で生まれ育った若者の多くは、今では欧米風の価値観に親しみを持っていて、自由や個人の選択を重視します。親や目上からの「いつ結婚するのか」「いつ子供を持つのか」という期待はいらだちどころか、重荷となっているのが本音。多くの若者が経済的に困窮していることも結婚をためらう要因となっています。

昔なら専業主婦になることを期待された女性も今では高い教育を受け、キャリアを持ってずっと働き続けることを望みますが、職場や社会の慣習はそれを許しません。これらの国はいずれもジェンダーギャップが大きく、男女間の賃金格差も縮まっていません。

さらに問題なのは、これらの国では婚外子へのタブー意識が根強く残っていること。OECE諸国では婚外子の割合が40%なのに、日本、韓国、台湾では5%にも達しません。若者たちにはもはや結婚がそれほど重要視されていないのに、社会がそれを期待しているために、出生率が落ち続けているのです。韓国の出生率が世界最低の0.78であり、台湾もそれに近く、日本や中国もそう高くないことがそれを物語っています。

これらの国の政府は移民の受け入れにも消極的だということもあり、結果として、東アジア地域の人口が2020年から2075年の55年間で28%減少するという予測もあります。

政府は減税や結婚費用補助といった経済支援によって若者を結婚させようとしていますが、ほとんど効果は出ていません。世論や若者の希望に反して保守的な政策に固執し、ひとり親や未婚カップルに支援を拡大することはせず、「少子化はフェミニズムが原因だ」と決めつけています。

台湾だけは、同性婚を法制化するなどの進歩が見られますが、その結果はまだわかりません。

結果的に、これらの国では若者が今の時代に合った価値観と時代錯誤の伝統の間で苦しみ、結婚して子供を持つよりも、1人で自由に生きる道を選ぶことが多くなっているのです。

欧州諸国の前例

実は、東アジアの国々で結婚する人が減っている現象は、1960年代から半世紀で婚姻率が半減した欧州諸国に似ています。

欧米では結婚する人は減りましたが、男女の恋愛が減ったわけではありません。成人になると家を出て独立するのを期待される社会では、経済的に余裕がない若者は1人暮らしよりもハウスシェアやカップルで住むことを選びがち。結婚に縛られずとも、いわゆる「事実婚」で子供は持つことが普通だし、それを政府も支持して、経済的支援も制度的な仕組みも、結婚か事実婚かによって差がつかないように変えてきています。

同性婚も認められ、最近では、同性婚のカップルが養子縁組で子供を育てることも増えてきました。

欧米諸国でもかつては、儒教的な規範と似たように、キリスト教的価値観に基づき、男女が結婚して子供を育てることが普通でした。が、ヒッピー世代の若者が伝統的な慣習に反旗を翻して、新しい家族の在り方を選んだのです。そして、社会や政府もそれを認め、法律や制度を柔軟にアップデートしてきました。

たとえば、カトリックの戒律が厳しいアイルランドでは、つい最近まで中絶が禁止されていたし、避妊さえタブーだったこともありました。知り合いのアイルランド人は10人兄弟の1人ですが、そういう家族も珍しくはないのです。

そのアイルランドでも、若者を中心として伝統的なカトリックの教えに背を向ける人が増え、2018年には国民投票で妊娠中絶を認める決定をしました。経済的におくれを取っていた小国アイルランドが今ではEUきっての経済成長を遂げているのは、古い価値観にとらわれず、時代に合わせた改革を進めている背景があるからでしょう。

エコノミストの記事では、東アジアの国々も「新しい家族」を再定義すべきだと提言しています。

政府や社会が伝統的な価値観をアップデートして、若者と同じ視点に立ち、事実婚や同性カップルなどを認め、支援を非伝統的なカップルにも拡大し、同性カップルが子供を育てることを認めたり、家事育児における男女の固定的な役割分担をなくしたりすること。政府としてできることは、法律や制度を変え、男性が子育てに参加できるような仕組みを作ることなどがあります。

板ばさみになっている若者たち

欧米から東アジアを見ると、若者たちが実におとなしく従順に見えます。皆、高い教育を受け、まじめに働き、親や社会の期待に沿うべく、与えられた役割に合うようにふるまっているようです。

けれども、彼らは幸せなのでしょうか。自分たちが本当に欲する自由な生き方を選びたいのに、儒教的な価値観に縛られそれを親や目上の者、政府や政策決定者に言い出せない葛藤が内にひめられているのかもしれません。かといって、かつての欧米のヒッピー世代のように新しい家族や生き方を再定義することもできず、ただ、自由とも呼べる孤独を選んでいるのでは。結婚率や出生率の低迷はそのあらわれなのでしょう。それで、彼らが幸せならそれでもいいのでしょうが、どうもそのようには見えません。若者の孤独、時には自殺にまでつながる社会問題がそれを物語っています。

政治も会社も年功序列、しかも男性優先で政策決定者が決まるのがお定まりの家父長制的儒教社会では、若者たちのそのような苦しみを理解しないままに「産めよ増やせよ」的な少子化政策をおしつけるのがまかり通っているようです。

この記事は、そのような社会に異を唱えることができない若者に同情し、彼らの欲する新しい価値観、家族観を社会や政府が認め、社会の仕組みをアップデートするべきだと提言しています。そうすることで、これらの国で苦しい思いをしている若者や女性、マイノリティに属する人々を解放し、自由な生き方を選ぶことができるようにするべきなのだと。

東アジアの若者たちは「新しい家族」を選び取ることができるのでしょうか。それには、政府や社会全体が時代に合わせて考え方をアップデートしていくことが必要です。少子化・人口減を克服するため、若者たちが自由で幸せな人生を送るために、皆が「アジアの新しい家族」を再定義するときが来ています。

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