パンデミックと都市計画 ②:新型コロナウイルスの都市計画への影響

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Plage of Florence

前回の記事では歴史を振り返ってこれまでに様々なパンデミックが都市計画に与えてきた影響を見てきました。今回は今現在、世界中に蔓延しているパンデミック、新型コロナウイルスが私達が住んでいる街にどのように影響を与えるのかを考えてみたいと思います。

パンデミックが都市計画に及ぼす影響①:6世紀から現代まで

新型コロナウイルスの都市計画への影響

過去を振り返ると、私達が住む街の形や暮らし方はパンデミックによって様々な影響があったことがわかります。2020年の今、新型コロナウイルスが世界中に流行していますが、今のパンデミックが収束したとしても第2波、第3波がやってくるかもしれないし、違う種類のパンデミックに襲われる可能性もあります。

パンデミックが「ニューノーマル」になるかもしれない時代で、都市計画やまちづくりにどのような影響が出てくるのでしょうか。

ソーシャル・ディスタンス

新型コロナウイルスの流行を阻止するために多くの国が取った政策のひとつはロックダウン(都市封鎖)です。

中国の武漢のように文字通り都市を完全に封鎖して人の出入りを国家が禁止した例は極端ですが、最低限必要な移動以外は外出制限を課す政策は多くの国で導入されました。その場合、生活必需品の買い物や運動のために外出する際は「ソーシャル・ディスタンス」と呼ばれる人と人との間の距離を1.5mとか2mとか取るように奨励されています。

ロックダウンが解除されても、このソーシャル・ディスタンス政策を維持する国は多いようで、そうなるとこれからしばらくは都市環境における「空間」の在り方に大きな影響を及ぼすことになるでしょう。

オープンスペース

都市というものは、他人とすれちがったり行きかう人を眺めることや、パブやカフェの狭い空間で社交を楽しんだりすることこそが魅力なのに、ソーシャルディスタンスが重視される中でどうやって人と接すればいいのでしょうか。

ロックダウンが解除されてしばらくしたら公園、広場、広いプロムナード、オープンスペースといったものが重視されるようになるでしょう。そのためには現在私有地とされている空間や自動車のための道路空間などを利用することも考えられます。

現代は、特に都市部では全労働者の80%がサービス業界で働くような時代です。店舗、飲食業、レジャー、サービス業界のうち、コロナの影響ですでに営業不振に悩んでいる企業も多い中、倒産や閉業で消えていくところも多いでしょう。

テナントがいなくなった店舗やオフィス空間、閉鎖されたショッピングモールなどを利用してオープンスペースを確保することを検討することもできるはずです。さらに、テントやプレファブ建築、モバイルカーなどを利用して、屋外スペースを利用したポップアップ店舗のようなものも導入できます。

人々の移動手段

新型コロナウイルスによるロックダウン下の世界中の都市で、自動車をはじめとする交通量が激減し、見慣れていた渋滞が一瞬にしてなくなりました。半面、ロックダウン中でも移動する人たちの中にはバス、電車、地下鉄などの公共交通機関を避ける人も出てきました。

乗客減少にあわせ交通会社が便数を減らしたこともあり、社内でソーシャル・ディスタンスを取ることができずに感染リスクを感じる人が多くなったのです。

自動車通勤に切り替えた人もいるし、渋滞がなくなった道路空間を幸いに、自転車を利用し始めた人もいます。ロンドンやパリ、ニューヨークなどこれまで自動車やバスでいっぱいだった都心部で、すいすいサイクリングする人が増えました。運動も兼ねて普段より長距離でも歩くことにした人もいます。

これを機会に、ロックダウン解除後の交通手段として自動車ではなく自転車、徒歩を推進しようという動きが世界中の都市で起こっており、WHOもそれを推奨しています。環境のためだけでなく健康のためにもメリットがあり、一石二鳥というわけです。

ロックダウン解除後しばらくは電車やバスでもソーシャル・ディスタンス政策を導入せざるを得ないし、公共交通機関利用減少を止めることはできないので、その代わりに自家用車利用増加するのでは何の解決にもならないという考えがその背景にあります。

それを防ぐためには自治体や交通当局による都市計画と交通政策が不可欠であり、社会的距離をとりながら移動できる自転車や歩行者を優先するストリート政策が大切になってきます。

各国のロックダウン中の街ですでに一時的に道路の一部を車両通行止めにしているところもあります。道路にペンキで印をつけたりコーンを置いただけの一時的な措置ですが、都市封鎖解除後もそのままにしておくところもあるでしょう。

バスと自転車がそういうレーンを共用できるようにしたり、デジタルシステムを駆使して緊急時にだけ車両を許可するようにしたりといったフレキシブルな利用方法も考えられます。

各都市の実験的な試みがどのような結果を生み出すのか、人々の移動形態は本当に変わって行くのか、夏の間は良くても冬季もそれを維持できるのかなど、様々な面で政策の振り返りと評価を行っていくべきでしょう。

将来的には、都市では自動運転の電気自動車だけが走り、バスも自動運転、物資の輸送はドローンで建物の屋上に直接といったことも可能になるのではないでしょうか。

都市の住環境

新型コロナウイルスのようなパンデミックは都市再開発のデザインや超高層化についても影響を与えることが考えられます。高層住宅の場合、自然や外気との接触をどう確保するのか、建物の中にいても社会との接触を保つためにはどういう工夫が必要かを検討すべきです。

今回、文字通りの都市封鎖で外出も禁止されたイタリアをはじめ、各国でアパートメントのバルコニーや窓から歌を歌ったり楽器を演奏したりダンスをしたりといった交流の様子が見られました。

普段はさほど気にとめないことかもしれないけれど、窓やバルコニー、屋上や中庭などをうまく建物のデザインに盛り込むことで問題を解決するのも一つの方法となるでしょう。

また、人々がどのように住むかだけでなく、エレベーターや階段など移動の動線や周りの空間との関係についても考え直す必要があります。

さらに、富裕層、中間層だけ健康的で余裕のある環境を享受していたとしても、感染病はなくならないという視点も重要です。当初コロナ感染を封じ込めていたシンガポールで移民街から感染が広がった例を見ると、低所得者層の住環境、ひいては健康を守る必要性が明らかです。

シンガポールの総人口570万人中100万人近くが非熟練労働者、そのうち30万人が移民労働者ということです。これらの人々は建設業などで働き、スラムのような住環境に住んでいるため、一人でも感染者が出ると瞬く間に広がってしまったのです。

中には不法労働者、不法移民なども交じっているかもしれず、これらの人々も含めてすべての住民のための環境整備が不可欠です。将来的には移民労働者に頼らず、AIやテクノロジーを使うという考え方もあるでしょうが、それまでは無視できない問題です。

全市民の住環境改善が必要ということでは、ホームレス問題も同様です。日本でも今回のコロナ休業要請で「ネットカフェ難民」の課題が浮き彫りになっていましたが、このような人々への対応も無視できません。

これまで富裕層やエリート、政治家は難局に直面した時、しばしば底辺層を見捨てることでその場をしのいできたこともありました。けれども感染症はお金のあるなしや身分で相手を選びません。自分たちだけが無事であろうとしても不可能であるだけに、誰をも取り残さない政策が必要になってきます。

都市から郊外・地方への移住

新型コロナ感染者の約95%は都市に住んでいて、世界中で特に被害が大きい地域もほとんどが都市部となっています。米国でもニューヨーク、英国でもロンドンといった都心部で感染爆発が起こり、重症者や死者もたくさん出た反面、地方ではそれほど被害が大きくなりませんでした。これほど都市と地方間の格差をうきぼりにする病気はないともいえます。

中世や産業革命後のスラムに比べて住環境や衛生状態は改善したとはいえ、現代の都会では地下鉄、電車、バスといった公共交通機関、高層ビルのエレベーター内など、昔にはなかったスペースでも人々は多くの人と密接しています。

日本では新型コロナウイルスの感染拡大を避けるために「三密を避ける」というスローガンが有名になりましたが、満員電車に慣れっこになっていた都会人にも「密度」への恐怖がいやがおうにも増して来たようです。

過去のパンデミック後にもその流れがあったように、都会民は過密をおそれ、郊外や田舎に移住するようになるのでしょうか。

感染症リスクだけでなく、メガシティはすでにさまざまな問題を抱えています。高騰する家賃・オフィス賃料や不動産価格、高密度、交通渋滞と大気汚染、経済的格差、インフラ老朽、犯罪やテロのリスク、長時間通勤、保育サービスの確保、自然や外気に触れられるオープンスペースの少なさといった障壁はなかなかなくなりません。

東京をはじめとする日本の都市の場合はその上に地震のリスクも無視できません。新型コロナウイルスの流行中に首都直下地震が起こったら避難所でソーシャルディスタンスを取ることができるのかどうかなど、考えるだけでも心配になってきます。

仕事のために都会に住むしかなかった時代と比べると、今は多方面でデジタル化が進み、今回のコロナウイルスの対策で在宅勤務やリモート学習、オンラインショッピングやオンラインエンターテイメント、リモート医療などが一気に広まってきています。

これまで遅々として進まなかった分野まで、公の届け出、紙の書類にハンコ、手書き申請、FAX、学校でのプリントなどといった日本ならではのガラパゴス障壁がコロナで一気に改革されそうな勢いです。これからもこの動きは進んでいくでしょうし、デジタルやAI、キャッシュレス、自動運転、ドローン、ロボットなどを駆使した革新的な方法も生まれてくるでしょう。すでに世界中でスマートシティの試みが始まっています。

スターバックスCEOのハワード・シュルツは「サードプレイス」としてカフェをデジタル・ノマドワークの空間として提供しましたが、さらに「フォースプレイス」というデジタルコンセプトでインターネットサイトやSNSを使ったバーチャルなコミュニケーションの場の可能性を探っています。

これまでノートPCをスタバに持ち込んで働いていた人たちは今は自宅で在宅勤務をしているし、以前はオフィスで働いていた人たちの多くも同様です。とはいえ、都市部に住んでいる人の住居は狭いことが多く、家族でもいればオンライン会議もままならないということもあるようです。

通勤の必要がなく在宅勤務ですむのなら、不動産価格が安く住環境がいい地方のほうがいいと思う人が出てくるのも自然のなりゆきでしょう。

ロックダウン中のイギリスで在宅勤務をする人々の中でも、地方の庭付き一軒家に住む人は通勤時間が短縮でき、春の陽気を楽しみながら庭にノートPCを持ち込んで仕事をし、もう元に戻りたくないという人が少なくありません。たとえ庭付きの家に住んでなくても、一歩外に出れば公園や野原など多くの人に出会わないで運動や散歩をすることができます。

その反面、都会のシェアハウスに住む若者や狭いアパートメントに家族で住んでいる人たちはロックダウンでかなりストレスがたまっているようです。ロンドンには広い公園や広場があちこちにあるのですが、外気を吸おうと公園に行っても人でいっぱいでソーシャルディスタンスを取るのが難しいというありさまです。ロンドンをはじめとする都市部では新型コロナウイルスによる感染者や死者数が多かっただけでなく、ロックダウン中の人々の不満足度も高いというのもうなづけます。

もともとイギリス人は田舎好き、自然好きでシンプルなライフスタイルを好む人が多いので、コロナを機会に都会から田舎へ移住を考える人が出てきそうです。コロナ不況で飲食店や店舗などでの仕事がなくなることがきっかけになるかもしれません。この機会に都市が様々な問題に積極的に取り組み、人々にとって暮らしやすい環境を提供しない限りは、都市の魅力は薄れていくでしょう。

もちろん、いつの時代も都会に住むことを希望する人はいます。若者をはじめとして大勢の人々と交わい、都市の賑わいや刺激を楽しむ人々にとって都会は他の障壁と引き換えにしても魅力があるでしょうから。日本人はイギリス人と比べると都会の生活を好む人が多いのでそう簡単には都会を離れることもないのかもしれません。

都市への回帰は起こるか?

これまではパンデミック後の都市脱出からしばらくすると人は都市に戻ってきました。元通りの状態になるまで100年以上かかることもあれば、10年もすればすぐに都市人口が回復、または急増化することもありました。仕事があるということもありますが、都市でしか味わえない文化や商業体験、多くの人が集中していることで得られる賑わいや刺激といったものに惹きつけられる人が多くいるでしょう。

かつてアルヴィン・トフラーは『第三の波』で情報革命によるパラダイム・シフトにより人は都市から田舎に移住すると予測しましたが、そうはなりませんでした。米国西海岸やシリコンバレーといった「田舎」でIT関連などの企業が生まれはしましたが、既存のニューヨークなどといった大都市は人口増加が止まらなかったのです。

9/11のような大規模テロ事件のあとも落ち着いたら人々は都心に戻っていきました。新型コロナウイルスの被害もことのほか大きいニューヨークですが、被害が落ち着きロックダウンが解除され、店舗や飲食店などが徐々に開店するようになって元通りになるでしょうか。

日本でも東北大震災のあと福島の原発事故もあり、東京から地方移住が進むのではないかと言われていました。実際に地方や海外にまで移住した人もいましたが、ほとんどの人はそのまま東京に住み続けるばかりか、地方から都心への人口流入はますます進んでいます。

これは逆にいえば都市から引っ越したい、ここに住み続けたいという魅力を地方の町や村が持っているか、またそれを発信できているかにもかかってきます。

そこに、したいと思える仕事があるのか、在宅でできるフリーランスの人にとっても住んで働ける場所があるのか、インターネット環境をはじめとするインフラは整っているか、魅力的な環境、生活に必要なサービス、ヨソモノを受け入れる雰囲気があるか、教育レベル、保育サービスや医療水準はどうかなど。

そういう意味では、地方がすべて同じというよりは、その中でも地元の人だけで成り立ち、若い人が離れ続けてやがては高齢化で過疎化してしまうところと、若者もずっと住み続けたい、または戻りたいと思い、よそからも人が入ってくるところに二極化されるのではないでしょうか。後者になるためには、それだけの魅力を備えていないと生き残ることはできないかもしれません。

新しい生活スタイルにあったまちづくり

これまで多くの人は住むところから働く場所へ通勤してきました。仕事やレジャーで遠くを訪れ、飛行機に乗って国際的に移動するグローバルなジェットセッター生活が普通の人もいました。

かくいう私もイギリスと日本を何度も往復し、それ以外の国を訪れることも多かったし、ホリデーといえば外国に行くのがほとんどでした。けれども、コロナ騒ぎで予定していた日本行きもキャンセルし、夏のホリデーもキャンセルすべきか、次に海外へ行けるのはいつになるだろうかと遠い目になってしまっています。

日常生活にしても、以前のように住宅地から都心に毎日通勤するライフスタイルに戻ると、公共交通機関とソーシャルディスタンスの相性が悪いせいで結果的に自家用車利用がこれまで以上に増えてしまうかもしれません。

これからはむやみに移動することなく、居住地の地元生活圏(英語でいう「ネイバーフッド」)すなはち歩いてまたは自転車で行けるくらい、または小学校区くらいの範囲で暮らして働き、そこで経済活動やレジャーを楽しむことが理想的になってくるのではないでしょうか。

そうなると、都市計画もそれに即した手法が求められます。

コロナ前にも、パリが「15分シティー」メルボルンが「20分ネイバーフッド」を提唱し、歩いたり自転車で移動できる範囲でのライフスタイルを推奨していましたが、今こそそのような考えを他の街でも検討する絶好の機会ともいえます。

思えば通勤であれ旅行であれ物資の輸送であれ、人類がこれほど長い距離を移動し始めたのはつい最近のことであり、このようなライフスタイルは少し前の生活に戻るだけとも言えます。

イギリスで言うと「マーケットタウン」と呼ばれるような中小規模の街があちこちにあり、近隣の住宅地や農村部からマーケットの日に大勢の人が買い物が集まっていたものでした。今ではそのような街のハイストリートには軒並みチェーン店が立ち並び、人々は自動車に乗って街の外に建てられた郊外型ショッピングモールに出かけます。

イギリスのマーケットタウンの一つであるプレストン(Preston)では、かねてから地元で生まれたお金を地元に落とす「地域循環型経済」を提唱しています。グローバルな大規模企業やチェーン店に地元のお金を吸い取られることなく、官民協力して地元企業を支えることで街の経済活性化をはかる「ゲリラ・ローカリズム」の考えとネイバーフッド・リヴィングは相性がいいといえます。

在宅で仕事をして自宅での生活を楽しみ、庭で簡単な野菜を作って生活必需品の買い物は地元ですませるといった生活が普通になると、小さなまちの地域経済もうるおいます。コロナで在宅勤務を始めるようになって初めて地元の商店街で買い物をし、サービスを利用するようになったという人も出てきます。

さらに、長時間の通勤や移動を避けることによって二酸化炭素排出量も減り、気候変動問題解決にも寄与することはいうまでもありません。

パンデミックと共生するための都市計画

歴史家ウィリアム・マクニールは『Plagues and People』で、どれだけ医療が発達しようとも人類は感染症のリスクからは逃れられない存在だと語りました。エボラやHIVを例に取り、現代社会は特にその危険性が高まっているのだと、20年以上前に書かれた本なのに新型コロナウイルスを予感していたような言葉です。マクニールは私たちは感染症をすべてなくすことはできないのだから、共生を模索すべきだと言っています。

都市計画にしても、パンデミックにまで発展するかもしれない感染症のリスクについて常に考えつつ、その時代にあったフレキシブルなオプションを検討すべきなのでしょう。

もちろん感染病だけでなく、気候変動、テロ、移民、社会断絶、格差、コミュニティ破壊、住宅不足、交通渋滞、大気汚染、スプロール、過密、過疎などさまざまな問題の解決を目指すための包括的な街づくりを目指さなければなりません。

次の災害が来る前に。

それはパンデミックかもしれないし、大地震かも、気候変動かもしれません。

【動画:前編】

【動画:後編】

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