コロナ後の交通手段は自動車ではなく自転車と徒歩で

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Cycling in Amsterdam

世界中で新型コロナウイルスによるロックダウン(都市封鎖)が続く中、交通量が激減した各都市で自転車利用が増えています。コロナ流行前も自転車利用を推進してきた街も含めて、ロックダウン封鎖後も交通手段として自家用車の代わりに自転車利用や徒歩を推進するために様々な試みが行われています。

新型コロナウイルスの影響

新型コロナウイルスが世界中に蔓延する中、多くの国や街ではロックダウン(都市封鎖)政策を導入し、人々の移動を制限しています。在宅勤務を奨励し市民の生活に欠かせない必要最小限のインフラ・サービスを提供する「キーワーカー」だけが通勤するようになりました。

ロックダウン下の国々では、人々の外出制限・自粛と共に自動車利用が激減しています。

Corona Movement

 

2020年4月21日にWHO世界保健機関は新型コロナウイルスが流行する国々に「できるだけ自転車や徒歩で移動するように」とアドバイスしました。

WHOによると、バスや電車、地下鉄などの公共交通機関を利用すると「ソーシャル・ディスタンス」と呼ばれる人と人との間の距離を取ることが難しいとして、可能な限り移動手段として自転車に乗ったり歩いたりすることで他人との接触を避けることを推奨しているのです。

さらに歩いたり自転車に乗ることは、適度な運動にもつながり、ロックダウンで運動不足になりがちな人にも効果的だと言っています。

中国・武漢からのレッスン

新型コロナウイルスの流行が始まった武漢市では1月23日に導入された都市封鎖により交通量が激減し、大気汚染が大幅に改善しました。

けれども4月8日に2か月半ぶりにロックダウンが解除されたとたんに、自動車利用は24%から66%に増加しました。

自動車利用がこれほど増えたのは、感染をおそれて公共交通機関の利用を避ける人が増えたためと考えられます。新型コロナウイルスと大気汚染の関係も指摘されている中、これでは何の解決にもなりません。

武漢の後にロックダウンを導入し、今まさにその解除を検討している欧米諸国の都市では、このような問題をなくそうと自転車や徒歩を移動の手段として推進する対策を考えています。

Corona Death Lockdown

(DailyMail https://www.dailymail.co.uk/news/article-8146345/Has-UK-lockdown-come-late-Graph-shows-death-toll-allowed-climb-335-first.html)

フランス・パリ

フランスでは3月17日からロックダウンが導入され、かなり厳しい外出制限が続きましたが、5月11日に制限を解除するとの発表がありました。休校が続いていた学校も再開され、店舗も一部開店を許可されます。交通機関は70%の再開となるとのことです。

首都パリでは、コロナ危機の前から市長が2024年までにパリ市内のすべての道路を自転車利用に適したものにするという目標を立てていました。「15分シティー」として生活に必要なものが何もかも自転車で15分の距離にあるというライフスタイルを推進していたのです。

さらに去年は交通機関のストライキがあったため、市民の多くは自転車に乗り始め、その期間パリ市内の自転車利用は2倍に増えました。ストライキの後も自転車に乗り続ける人がいて、ここ1年で自転車利用が131%増えているとの統計があります。

パリではロックダウン解除後に自動車利用が増えて交通渋滞が起こることを防ぐために、かねてからの自転車利用推進計画を前倒しで導入する考えです。

パリのあるIle-de-France地域ではパリ中心部と郊外を結ぶサイクル・ネットワークを推進する RER Vélo プロジェクトを承認し、3億ユーロをインフラ整備にあてるとしました。

この政策の一環として、ロックダウンが解除される5月11日から650㎞の「コロナ・バイク・レーン」を導入します。この自転車ルートはパリ中心部への地下鉄ルートに並行するように配置され、郊外からパリ市内へ通勤する人が公共交通機関の代わりに自転車を利用できるように整備するのが目的です。

イタリア・ミラノ

新型コロナウイルスによる被害が大きかった北イタリアのミラノとその周辺地域はヨーロッパの中でもこれまで大気汚染がひどいところでした。コロナ流行下の厳しいロックダウンで自動車利用は30~75%減りましたが、そのおかげで大気汚染は大幅に改善しました。

ロックダウン解除に際してミラノでは感染の再爆発が起こらないよう、細心の注意をはらうとしています。

ミラノ市長ベッペ・サラによると、新型コロナウイルス流行前には1日140万回あった地下鉄乗車数をロックダウン解除後は40万回に抑える予定です。そのために、バスや地下鉄の座席も人と人の間のスペースを空ける必要があります。

人口140万人のミラノ市は端から端まで15㎞と、小規模で人口密度が高い街。これまで住民の55%は通勤に公共交通機関を使っていましたが、平均通勤距離は4㎞以下と比較的短距離で、これを自転車利用に変えることは現実的と考えられています。

ロックダウン解除後の通勤で、公共交通機関を避けて自家用車利用が増えることを懸念して、ミラノ市では今年の夏の間、自転車利用を推進する政策を導入します。

35㎞の長さにわたる通りを自転車と歩行者専用レーンにし、歩行者や自転車利用者優先レーンを設けます。時速30㎞の速度制限を導入することで自家用車利用を制限すると共に、他の道路利用者の安全を確保することも政策の一環として行います。

主要ショッピング通りである、ブエノスアイレス通りの8㎞を皮切りに5月はじめから自転車専用レーンを作り、歩道を拡張する予定です。道路にペンキを塗るなどして、とりあえず低費用で一時的なインフラ整備をし、成功したらコロナ収束後もそのネットワークを維持する考えです。

交通渋滞と大気汚染に頭を悩ませていたミラノでは長いあいだ自動車利用を減らそうと努力してきましたが、なかなか実現できませんでした。けれども市当局はポスト・コロナ対策としてこの交通政策を一気に進めたい考えです。

ベルギー・ブリュッセル

EUやNATO本部のある人口220万人都市ブリュッセルは観光客や訪問客も多く、長年の交通渋滞で悩んでいました。

市内に住む家庭の半分は車を所有しないのですが、市内への一日の通勤者35万人の半分は自家用車を利用していました。通勤に自転車を利用する人は7~8%しかいなかったのですが、ブリュッセル市ではこれを20%にしようという目標を立てていました。

市ではこの目標に近づけるために、新型コロナウイルスによるロックダウン解除にあたり、郊外から市中心部をつなぐ道路の車線を減らしたり駐車スペースをなくして、40㎞の長さのサイクリングレーンを新たに作るという政策を発表しました。

今年5月から市中心街を時速20㎞エリアに指定し、自動車交通を制限して自転車や徒歩での移動が容易な街を目指します。

市中心に位置する4.6㎢ の歴史地区エリアは、自転車と歩行者の優先ゾーンとして指定されます。

市では「公共交通機関は本当に必要とする人のためにとっておきましょう。健康な人で長い距離を移動しないのなら自転車に乗ってください。そのためのインフラは市が整えます。」と呼び掛けています。

米国・ニューヨーク

新型コロナウイルスによる被害が甚大なニューヨークでは、3月はじめから地下鉄などの公共交通機関を避けるため自転車を利用する人が急増しました。

この需要に応えるため、ニューヨークでは市内の道路のうち少なくとも40マイル(64㎞)で自動車の通行を禁止する方針が発表されました。「外出制限令(Stay at home order)」の発令中、最大約100マイル(161㎞)まで拡張するということです。

人口密度が高く公共のオープンスペースが少ないニューヨークでは、数少ない公園が混雑することを懸念して、道路を運動のためのオープンスペースとして提供する取り組みもなされています。

公園内または隣接している道路、新型コロナウイルスの感染状況が特にひどい地区の道路、BID(Business Improvement Disctrict)内にある道路などで自動車の通行を禁止し、自転車利用を推進するほか、最長2.5マイル(40㎞)で歩道の拡張も検討しています。

イギリス

イギリスはサイクリングギアに身を包んでサイクリングのためにロードバイクに乗る人はいても、カジュアルな移動手段としての自転車利用はあまり浸透していません。

ヘルメットなし、普通の服装で気軽に自転車通勤をする人が多いオランダなどの自転車天国に比べ、ロンドンなどの都市部で自転車を利用するのは一部の人に限られています。

それでもサイクリングを推進しようとする運動は各地で根強く続いており、コロナによるロックダウンを機にこれを一気に進めようという取り組みが見られます。

そのような動きをイギリス政府も後押ししています。

このほど、英政府はTraffic Regulation Orders(TRO) 交通規制制度を変更し、地方自治体が道路閉鎖をする制限を緩めました。以前は自治体が道路を車両通行止めにするためには地元メディアに事前に広告を出さなければならなかったのですが、その条件をなくしたのです。

これをきっかけに道路を車両進入禁止にして自転車や歩行者利用に移行する政策を導入する地方自治体が増えています。

さらにイギリスでサステイナブルな交通手段を推進しているチャリティー団体サストランス(SUSTRANS)は自転車利用推進のためさまざまなプロジェクトに取り組んでいます。

新型コロナウイルスによるロックダウン中、社会に不可欠な仕事をする医療・介護従事者などのキーワーカーに無料で自転車を貸し出したり、自転車関連店舗や修理店での割引制度、それらの情報や自転車ルートをマッピングしたサイトをいちはやく提供しています。

ロンドン

イギリスではロックダウンが3月23日に始まりましたが、ロンドンではそれと同時に自転車利用が急増しました。これまで交通量が多すぎて自転車に乗るのが安全でないと感じていた人たちが、道路がすいているのを見て自転車に乗るようになったのです。

イギリスの春には珍しく、3月下旬から4月中ずっと暖かく晴れの日が多い天気に恵まれたことも幸いしました。

また、ロックダウン中でも通勤を余儀なくされる医療・介護業界などのフロントラインスタッフたちが公共交通機関を避けるために自転車で職場に行く姿も見られます。

ロンドンではかねてから市中心部の通りの半分を自動車進入禁止にする計画を検討していましたが、この機会にサイクリング・レーン政策を一気に進めようという声が上がっています。

レスター(Leicester)

イギリス中部にあるレスターは、中世からの歴史を持つ古い街ですが、モータリゼーションが進んだ1960年代に街をリング道路で囲い、中心部に道路を通したことで交通量が増え、街は次第に自動車に占領されるようになりました。

レスターではここ14年間、市の交通方針を変え、車優先の道路を少しずつ歩行者や自転車に分け与える方針を導入しつつありましたが、その歩みは遅々としてなかなか進みませんでした。

けれども、新型コロナウイルスによるロックダウンで交通量が減少したことで、思いもよらぬ前進が可能になりました。

まずは、NHS国民医療サービス病院の近くの500mの長さの道路に「キーワーカー通り」と名付けた自転車専用レーンを導入しました。

このサイクル・レーンはロックダウン中、病院に勤務する医療従事者などに使われています。今のところ、単にコーンで目印しただけの一時的なものですが、このサイクルレーンを拡張し1キロの長さにする計画があります。

レスター市では自動車の交通量が減少すると同時に公共交通機関の利用も減り、自転車を利用する人が増えています。

市当局は現在自転車を使っている人がロックダウン解除後も継続して自転車を使えるようにしたいと考え、さまざまな方策を検討しています。

現在のサイクルレーン延長計画のほかにも、道路の信号のタイミングを変えることで自転車利用者や歩行者を優先するようにしました。

マンチェスター

グレイター・マンチェスターでは過去3年間「ビー・ネットワーク」(Bee Network)と名付けられた自転車プロジェクトを手掛けています。これはマンチェスターのサイクリング協会と元五輪選手のクリス・ボードマンが推進するもの。

1800マイル(約2900km)のサイクリングルートを導入し、自転車利用を推進することで交通事故の減少、環境改善、健康増進を通じ、NHS医療サービスにかかる費用の減少を目指すことを目標にしています。

マンチェスターはロンドンと違って未だに市中心部での運転が無料でできることもあり、通勤やショッピングに自家用車の利用率が高いのが悩みです。バスや電車、トラムなど公共交通機関の利用も多く、主要通勤ルートは交通渋滞がひどくて安心して自転車に乗ることができませんでした。

ロックダウンで交通量が減少した機会に、ロンドンと同様に自転車を利用する人が増えたことで、市当局はサイクリングの推進をこれまで以上にサポートする考えです。

その他の街

イギリス中で、同様にサイクリングを推進する取り組みが行われています。

たとえば、海辺の町ブライトンは海岸沿いのマデイラ通りを朝の8時から夜の8時まで自転車と歩行者専用にし、エジンバラは毎月一日自動車利用禁止デーを導入しています。

さらにブリストル、ヨーク、バーミンガムなどの街が自動車利用を制限する政策を発表するなど、自転車・歩行者を優先する政策を多くの街が打ち出しています。

自転車利用はコロナ後も続く?

これまでに紹介した例だけでなく、世界中で自転車・徒歩利用を推進する取り組みが行われています。

数十年前から自転車利用に力を入れているオランダやデンマークでは、年間を通して通勤、通学、日常生活での移動にサイクリングが使われています。たとえばアムステルダムでは自転車による通勤が72,000と自動車利用の2倍の数字に上っています。

昔からずっと「自転車天国」だった街も、コロナのロックダウンでサイクリング熱が急上昇した街も、ロックダウンが解除されコロナ流行が収まった後もコロナ・サイクリングブームを維持できるかどうかが注目されます。

ここで紹介した多くの政策はコロナによるロックダウン中にフロントラインスタッフが徒歩や自転車で通勤するため、またソーシャル・ディスタンスを取りながら運動をしたい市民のために導入された一時的なものですが、うまくいけばウイルスが去った後も、存続されることが期待されます。

これまで自動車に依存していた人も、バスや地下鉄などの公共交通機関を利用していた人も、これを機会に自転車に乗ったり以前より長い距離を歩くことで、それまでに感じていた違和感やおっくうさがなくなるかもしれません。さらに、適度な運動や戸外を風を切って移動する心地よさを発見して、これまでの習慣を変えるきっかけになることもあるでしょう。

新型コロナウイルスというパンデミックは世界中に被害をもたらしましたが、その渦中から車に占領された街を人間の足を使った移動手段のために取り戻すという快挙を成し遂げることができたらと願います。

コロナ後の交通は自転車と徒歩で:海外の事例紹介

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