まちづくりの手法:BID(Business Improvement District)とは?

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Southport

BID(Business Improvement District)とは街づくりや地域活性化の仕組みの一つで、世界中に広がっています。「ビジネス改善地区」という名前が示すとおり、商業的な発展に重きをおいているのが特徴です。ここでは主にイギリスのBID制度について説明します。

基本と歴史

BID(Business Improvement District)とはまちづくりや地域活性化の制度のひとつで、1960年代にトロントで始まり1980年代にアメリカに広まった。その後BIDの仕組みはイギリス、ドイツ、アフリカなどにも導入されて世界中に広がっている。それぞれのBIDの形態には様々なものがあるが「ビジネス改善地区」という名前が示す通り、区域内の商業的な発展に重きをおいているのが特徴だ。

BIDがそれまでの街づくりの仕組みと一線を画するのは、BIDとして指定された区域内の受益者(事業主または土地や不動産所有者)全員にその活動資金を支払う義務が基本としてあるということ、そしてBID設立のために投票を行って多数決で決めることだ。

これまでの街づくりの考え方や制度は主に行政が主体となって行うもの、ボトムアップ方式で住民やコミュニティーが行うもの、パートナーシップとして官民が協力して行うものなどがあるが、BIDにおいては区域内の不動産所有者や事業主がお金を出し合って自らの事業エリアの環境改善や治安警備、マーケティング活動などを行うのである。その背景には政府や地方自治体が公共投資を減らし、地域経済や環境が衰退する中、事業者たちがいつまでも「お上」に甘えて何かをしてもらうのを待っているのではなく、自分たちで自らのビジネス街を守り改善していこうと考え協力しようとしたことがある。

BIDの有名な例の一つしてはニューヨーク市のタイムズスクエアがあげられる。このあたりは治安が悪くかつては独り歩きができないと言われたほど荒廃した地区だったが、BIDを通じて警備を強化し安全なまち作りを目指したのだ。結果としてBID区域の治安が向上し訪問者が増えたことからブロードウェイの活性化につながった。区域内のビジネスも上向き、地域経済が向上して賃貸料も上がったことから、BID内の不動産所有者も事業主もその投資のリターンが十分にあったと言える。

イギリスのBID法

BID制度は国や地域によってさまざまなものがあるが、ここではイギリスにおいて法律で定められているBID制度について説明する。

イギリスにはBIDに特化した法律である ’The Business Improvement Districts Regulations 2004’ によってその設立や運営方法、権限や義務などが定められている。この法律でBIDは指定された区域内の不動産所有者や事業主に課されるBID負担金を資源とし、そのBID区域で必要とされているサービスを行う組織であると定義されている。

BIDの設立方法

BIDはビジネス事業者、土地や不動産所有者、地方自治体など誰でも提案することができる。提案者はBID区域、事業計画、収支計画表などを盛り込んだ提案書を作成し、指定区域内の受益者全員にBID設立について提案する。

BIDを設立するためには、BID区域内の受益者全員による投票が必要となる。投票数と事業規模の両方で過半数の賛成を得ればBIDを設立することができる。

BID期間

BID期間は5年が基本である。5年が過ぎたらBIDを存続するかどうかをBID内の受益者が再び投票して決める。この投票で過半数が得られなければBIDは5年で終了となる。

ちなみにイギリスではBIDの2期目以降の継続率は90%を超えるという。BID負担金を支払っても継続したいということは1期目の5年間で何らかの利益を感じている事業主が多いということを物語っている。

BID運営資金

BIDが通常のまちづくりや地方活性化制度と大きく違うのは、その運営資金を公の補助金やチャリティーなどに頼るのではなく、BID区域内の受益者(住民はのぞく)が自ら負担するという点だ。そして特筆に値するのは、この場合の受益者というのは原則としてBIDに指定された区域内の全員であり、BID設立投票で反対に投票したものも含まれるということである。(逆に言えば、この支払義務があるために民主的な投票というプロセスが必要になってくるのだ。)

BIDが設立されれば区域内の受益者はすべてBID負担金を支払う義務が生じるわけだが、その金額はそれぞれのBIDが定めるもので法律で決められているわけではない。イギリスの場合、通常は不動産評価額のパーセンテージで決められる。一般的には不動産評価額の約1~1.5%を支払うことにしているところが多い。つまり、ビジネスまたは不動産の規模に応じて負担金を支払うことになるのだ。

BIDによっては、負担金を支払う義務を除外する枠をもうけていることもある。例えばチャリティーや教育機関、資産価値が一定以下(サウスポートの場合2000ポンド)の場合などだ。BID区域内に住宅がある場合、住民はBID負担金を支払う義務はない。実際にBID負担金を支払うのは、イギリスの場合は不動産所有者よりもビジネス所有者(事業主)が多い。

BID負担金徴収の仕組みとしては、地方自治体が徴収するBusiness Rate(事業用固定資産税)に上乗せする形で委託請求、徴収される。徴収後、自治体はBID負担金分だけBID機関にまとめて支払うのである。このため、地方自治体の既存の会計プロセスで処理することが普通で、BID運営組織への事務負担が少ない。また、負担金だけを単独で徴収する方法に比べ、不払いや支払い遅延などの問題も起こりにくいと言える。

BID運営組織

BID委員会

BIDの組織はそれぞれ異なるが、一般的にはBID負担金を支払う事業者や地権者を代表する委員が複数選出され、それらの委員によってBID委員会が作られる。委員の数や選出方法もそれぞれ異なり、特に法律で定められているものではない。通常はBID区域内の主な事業主や不動産所有者複数が委員となる。地元の地方自治体や警察など公的機関の代表も委員として参加することが多い。委員は通常ボランティアまたは各組織から派遣された人々であり、BID運営資金から委員に報酬を出すことはない。これらの委員が定期的に集まり委員会でBID運営について話し合い、意思決定をする。

BID負担金を支払うすべての受益者の個々の意見を聞くことは実際上むずかしいので、区域内の様々な利権を複数の委員が代表するようにバランスのある人選とすることが求められる。これは政治で言うと間接民主主義のようなもので、地方選挙で地方議員を選出するようなものと思ってもいいかもしれない。

BID運営チーム

BID委員会で決定された運営内容を実際に実行にうつすのは専門的な実務知識を持つBID運営チームである。運営チームの人材はBID委員会が募集採用し、雇用契約を結び、BID運営資金の中からその人件費をまかなうことになる。日々の運営、委員との連携、決められた活動内容の実行、区域内の各事業主との協力、内外への活動報告、収支決算までありとあらゆることを担当するのがBID運営チームだ。

その規模はBIDの規模や種類によっても異なるが、小さなBIDではBID運営マネージャーとアシスタントの2人だけというところも多い。通常はタウンセンターマネジメントや都市計画、プロジェクトマネジャーなどの経験があるプロフェッショナルが担当する。イギリスでBIDが導入されてから10年以上たった今では、他の区域でのBID運営の経験がある人材やBID専門コースで学んだ者もいて、かなり専門性が高い人々が存在する。

このようなプロフェッショナルを雇うことの利点はBID事業計画の策定から、実行、評価に至るPDCAのサイクルを理解し、経営的なアプローチができる人材がフルタイムでBIDに特化した活動をすることだ。コミュニティー主体の活性化活動では他に仕事がある人がボランティアでこのような役割をすることがある。中には自分の時間を割いて地域に貢献する優れたリーダーがいる場合もあるが、そうでない場合も多い。そんな場合、重要な役割にコミットすることが難しいばかりか、経験、知識、専門性のない素人が慣れない取り組みをして試行錯誤することも多い。また、BID専門チームを構成する人材はそれを仕事として行うプロフェッショナルであり、区域内の不動産所有者や事業者でない第3者なので個々の利権がからまず、BID全体の利益を考えることができるのも利点といえよう。

BID活動内容

では、BIDではどのような活動を行うのだろうか。これも、それぞれのBIDの設立目的によって異なる。BIDを設立するにあたってBID区域の経済や環境などの分析をした上で問題点を解決しポテンシャルを最大化するためにそれぞれの事業計画を策定し、必要な活動内容を決定するのだ。

「ビジネス改善地区」という名の通り、その多くは区域内のビジネス収入を上げ、不動産価値(賃貸料)を高めるのが究極の目的であることが多い。そのためにそれぞれのBID区域で何をどのようにしたら目的を達成することができるのか、経営的アプローチで問題解決方法を探り、改善すべき事項を優先する。区域によっては治安が一番の問題かもしれないし、老朽化した建物や環境を改善することが必要かもしれない。または、BID区域のマーケティングやプロモーションを行って外部からの訪問者を増やすことが一番効果的な手段かもしれない。

一般的にBIDは下記のような活動内容を含むことが多い。

  • 環境改善(建物や道路、公共スペース、緑化など)
  • 交通改善(道路や歩道、サイクリングレーン、駐車場)
  • 治安警備(パトロール、CCTVカメラなど)
  • 清掃活動(道路や歩道、公共スペース)
  • 地域経済発展活動(イベント、マーケティング、プロモーションなど)

ほかにもBID設立の目的を果たすためなら、活動内容はまさに何でもあり得る。とはいってもBID活動は地方自治体、警察など法律で定められている行政のサービス義務にとって代わるものではない。たとえば本来自治体がするべき清掃活動を行わないからBIDが代わりに行うということはしない。あくまで、行政が義務として行う基本的なサービスにプラスアルファする活動という認識だ。

アカウンタビリティ

BIDに参加するのは主にビジネスの事業主や不動産所有者であるので、投資とリターンのバランスについては厳しい。投票で過半数を取ればもともと反対派だった事業主でもBID運営資金を支払わなければならないとなればなおさらだ。BID委員会やBID運営チームはBID区域内の資金負担者全員に投資のリターンを確保する責任があると言えるし、それを期待されてもいる。

このため、BID運営チームはモニターの仕組みを日々の活動に組み入れる必要がある。定期的にBID区域内の改善度をチェックしBID運営の収支を報告するためにBID事業レポートを作成し内外に公表するのだ。具体的には街への訪問者数の調査をしたり、訪問者へのヒアリング調査を行ってBID活動が効果を上げているかどうかを評価し、報告するのである。

BID制度の利点と特色

BIDが従来の地域再生プロジェクトと大きく異なるのは、自治体など公的機関がトップダウンで行うのではなく、民間のボランティアがリーダーとなってボトムアップで行っているのでもないことだ。前者の場合、受益者であるコミュニティーは何かしてもらうことを期待して待っているということになりがちであり、後者の場合は誰か特定の数人の無償行動に頼りがちになってしまうことが多い。

BIDの場合、受益者全員が事業資金を共同で負担しそのベネフィットを全員が享受するということで、1人1人のBID活動への関心とコミットメントはとても深いと言える。誰でもそうだが、特にビジネスをやる人は損得にシビアで、コストに対する費用対効果を常に考えている。金を出すからには成功させようという気合が違ってくるので、BID活動に積極的に協力するし意見や要望も口に出すことが多い。

投票で過半数をとると、BID設立に反対だった人でも否応なしに負担金を支払わなければならないという点に抵抗があるという声もあるが、この方法だと何も負担しないで利益だけは受け取るフリーライドの問題がなくなるのが利点といえる。結果として多くのBID区域では区域内の事業主の期待も高いが満足度も高いというのが一般的な感想のようだ。イギリスにおいてBID2期目以降の継続率が90%を超えるというデータがそのことを裏付けしていると言っていいだろう。

 

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