日本の地方を旅して【外国人旅行者の視点から】観光スタイル:イギリス人がホリデー先として求めるものは?

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今回は外国人(私の場合、一般的なヨーロッパの旅行者)がホリデーに行く場合にどんなことを期待しているのかということをお話します。

ヨーロッパ人のホリデー

ヨーロッパ、特にイギリスやドイツ、北欧など、夏でも気温がさほど上がらず冬場の日照期間が短い国の人達は、主に夏休みを利用して2~4週間の長いホリデーに行く人が多いです。

働いている人は年間20~40日くらいある有給休暇を利用して好きなときに長い休みがとれるし、リタイアして冬場はずっとスペインなどの暖かい国で過ごすというイギリス人もいます。

目的地は南欧が多く、スペイン、ポルトガル、イタリア、フランス、ギリシャ、トルコなど、また地中海やエーゲ海の島リゾートも人気です。少し足を伸ばしてモロッコやエジプトなどの北アフリカ、さらにカリブ海やアジアのリゾートに行く人もいます。

どのようなスタイルのホリデーなのかはもちろん個人差はありますが、多くは1か所に週単位で滞在してゆっくり過ごすものです。滞在するのはホテルだけでなくアパートメントや最近ではAirbnb(民泊)とさまざま。

1週間以上の長い滞在となると、ホテルよりアパートメントタイプを好む人が多いようです。ホテルにくらべ値段が安いことが多いだけでなく、プライバシーが保て、日常生活の便利さも兼ね備えているからです。

アパートメントには調理道具や食器類全般が完備されているキッチンや洗濯機などがついているため、簡単な料理をしたり洗濯をしたりすることもできます。

こういうところに滞在して時間を気にせずビーチやプールで日光浴したり、街歩きや自然を楽しんだりしてゆっくりするのが普通です。その合間にエクスカージョンをして近隣の観光スポットにレンタカー、タクシー、バスや電車で出かける人も。

ビーチホリデーは退屈?

イギリスに長く暮らす私ですが、最初は同じところに1週間、それもビーチしかないようなところにいるなんて退屈そうと思っていました。旅行は好きなのですが、行くからには先々で観光スポットと呼ばれるようなところをくまなく見たあと、一泊して次の滞在先へというような旅行ばかりしてきたからです。

けれども家族で1年に1度はイギリス式のホリデーをするようになってから私の考えは変わりました。最初はまだ息子が3歳だったときに行ったモロッコのマラケシュです。子供連れなので特に観光らしいことはせず、プール付きのホテルで毎日泳ぎ、夕方は広場に歩いて行って大道芸人を眺めたり屋台で夕食を食べたり。

その後も夏のホリデーはイタリア、スペイン、ギリシャ、トルコなど、だいたい2週間単位で1週間ずつ同じところに滞在するというようにしてきました。毎回、遺跡や博物館など観光スポットを訪れるのと、きれいな自然にひたってゆっくりすることを組み合わせるのが定番スタイルになってきています。

たとえばギリシャ旅行はアテネで遺跡や博物館をめぐる5日間、ペロポネソス半島で山間の村や遺跡をめぐる5日間にサントリーニのような小さな島で過ごす5日間を組み合わせるといったスケジュールです。

サントリーニ島のきれいなビーチで泳いだり、カフェできれいな海や道行く人をながめながらゆっくりおしゃべりしたり、自然にあふれた遊歩道を日陰を探しつつ散歩したり、おいしそうなレストランを探して夕日を眺めながらディナーを楽しんだり。

朝起きてその日にしたいことを決め、時計を気にしないで過ごすのがホリデーの醍醐味なのだということが、日本人の私にもようやくわかってきたのです。日本式のツアースタイル観光旅行では若いときでも疲れ切っていたものですが「欧州スタイル」のホリデーを過ごすと、仕事や雑事で忙しい日常を忘れることができ、心も体もリラックスします。

そういえばイギリス人の友人とギリシャ旅行に行ったり、ドイツ人の友人とイタリアに旅行に行ったりしたことがあるのですが、スケジュールをきっちり立てて地図を片手に観光スポットをめぐる私のやり方にうんざりされたのを思い出します。結局、途中から日中は別行動をとるようになったこともあります。今思えばその人達には悪いことをしたなと反省しています。

ヨーロッパ人が日本のホリデーに求めるもの

さて、そういうヨーロッパ人が遠路はるばる高い航空運賃を払って日本に来るとしたらどんな時間を過ごしたいと思うでしょうか。

大抵の人は、それだけのお金と時間をかけるのであるから、数週間は滞在してゆっくりしたいと思うでしょう。そして、その間あちこちの観光スポットを回るのではなく、数カ所に絞って数日~1週間単位で滞在してその拠点から近隣を散策したいということになると思います。

日本でどこに泊まる?

そのような旅行者は日本でどこに泊まるのでしょうか?

私たちは日本に実家があるため、長期間ホテルに泊まることはあまりありません。でも、日本国内を旅行していろいろなホテルに泊まってきました。その中で、数泊以上してもいいなと思うところはほとんどありませんでした。

まず、私たちは温泉好きなので、できたら温泉地にあるホテルに泊まりたいと思います。そういうところは和室で2食付きのところが多いのですが、食事のメニューが選べないところばかりです。

日本人ならお刺身から始まりさまざまな「海の幸山の幸」が提供される旅館の夕食が口に合うかもしれませんが、日本食が好きなイギリス人の連れでも食べたいと思うものは限られています。イギリス育ちの息子などはなおさらです。

また、ヴェジタリアンやヴィーガンその他様々な理由で食事制限をしている人もいますが、そのようなメニューも用意されていないことが多いのです。

また、連泊するとなると毎日同じメニューを出すわけにもいかないでしょう。それよりはホテルに普通のレストランがあり、好きなものを選べるほうがいいのではないかと思うのですが、ホテル内にレストランがないところも多いようです。

食事のメニューに限らず、食事の時間も同様です。ホリデーに来ているのだから普段と違う時間に寝たり起きたりご飯を食べたりしたいと思う人は多いのですが、食事の時間も決められていて自由にならないのは不便です。

私たちの場合はできるだけ食事がつかないホテルを選び、夕食は外のレストラン、朝食はカフェですますことが多いです。

長期滞在するのであれば欧米にあるようなアパートメントスタイルの宿があればいいと思いますが、まだまだ数は少ないようです。

うちの連れと息子はサイクリング好きでロードバイクで旅行することもあるので「宿で洗濯ができたらいいのだけど」と言います。自転車旅行なのでできるだけ身軽でいたいため、着替えを持ち歩くのは最低限にしたいというのです。

日本の「おもてなし」

日本ではよく「おもてなし」という言葉が使われ、ホテルなどでも一見とても行き届いたサービスが受けられるように感じられます。けれども、日本人が期待する「おもてなし」が外国人にとって意味がないものであることも少なくありません。

たとえば、前回泊まった温泉ホテルでは浴室に行く時、その前にホテルの従業員が一人ひとりに「どうぞ」とタオルを配っていました。私は無駄なサービスだと思ったし、連れはその係をしている60歳くらいの男性従業員を指して「あれはきっと失業対策にちがいない」と言っていました。

数年前に旅した能登半島の和倉温泉はきれいな海沿いにある魅力的な町でしたが、閉鎖したホテルも目につきました。私達が泊まったホテルも大きな建物なのに客があまりおらず、寂しい雰囲気。
チェックアウトのあと、従業員一同が玄関で深々とお辞儀をして「お見送り」をしてくださったのが窮屈に感じられ、そそくさと退散してホッとしました。
お辞儀というものは日本人にとっては嬉しいサービスなのかもしれませんが、外国人にとってはあまり意味がなくイギリス人に「これでは生産性が低くてホテルが潰れるのも仕方ない」と言われる始末です。

こういう「おもてなし」はすべてホテル側目線での画一的なサービスの押し付けであり、個々の客の多様なニーズに基づいていないものだと感じられるのです。
それよりも私たちにとってありがたいのは、選べるメニューがあるレストランだったり、部屋にお茶だけでなく美味しいフィルターコーヒーが用意されているとか、ホテル近隣の観光スポットやおすすめ散歩ルートの地図があるとかということです。

古い温泉街と星野リゾート

山口県長門湯元温泉「星野リゾート 界 長門」

さて、先日は知り合いに車で山口県の長門湯本とその近くにある俵山温泉に連れて行ってもらいました。長門湯本には数年前に泊まったのですが、その時は寂しい感じのする温泉地でした。

けれども2020年3月に星野リゾートホテルがオープンすることになり、町全体も整備されつつあります。町中を流れる音信川ぞいに建てられた「星野リゾート 界 長門」はすでに完成しているようです。ホテル前の橋や道路、川沿いの遊歩道の工事が進行中でした。

長門湯本とそのお隣にある俵山温泉は昔からある由緒ある温泉地ですが、山に囲まれアクセスが難しいこともあり客足も遠のいていました。そこに長門・俵山道路が整備されて車でのアクセスが改善されたのです。長門からのアクセスがずっとよくなり、ラグビーW杯でカナダチームのキャンプ地となった俵山スパスタジアムへもすぐでした。

湯治町とリゾート

1000年以上の歴史を持つ俵山温泉は916年に発見され、江戸時代には長州藩毛利家直営の湯治場となりました。自炊ができる旅館に長期滞在する湯治客が町にある共同の温泉に通うという昔ながらの湯治町の風情が今も残っています。白狐の湯という温泉に入りましたが、かけ流しのぜいたくなお湯を堪能できました。

俵山温泉

山口県長門市俵山温泉

湯治という習慣はほとんどなくなってしまいましたが、考えてみればヨーロッパのリゾート地でアパートメントに泊まって自炊するのにも似ているなと思います。

木造旅館が軒を並べてタイムスリップしたような景観が心落ち着く俵山温泉、こういう旅館に外国風アパートメントとして泊まれるのなら、ゆっくり週単位で滞在してみたいなと思いました。私ならパソコンを持ち込んで仕事の合間に散歩や温泉を楽しみたいし、連れや息子は自転車で長門の海岸や青海島などにサイクリングをすることでしょう。

忙しい現代人から忘れられたがゆえに、ひっそりとその魅力を保ち続ける、このような場所が日本の地方にはあちこちにあるのだろうなと思うと、日本列島が宝物の宝庫のように思えてきます。

そういう場所こそ、その雰囲気を大切にしつつ現代のスタイルに合わせて改善するところはアップデートして、外国からの客に「ほんものの」日本の良さを味わってもらいたいものです。

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