近年では 郊外型大規模ショッピングセンターやオンラインショッピングの台頭で従来、商業やサービスが集まっていた中心市街地(タウン・センター)が衰退しシャッター街となっていく現象が各地で起こっていますが、イギリスにもそういう事例があります。ここでは、郊外型ショッピングセンターを拒みタウンセンターを魅力的にする方針をとったことで成功した街を、その逆路線をとって失敗した街と比べてご紹介します。
ベリー(Bury)
ベリーはマンチェスタ―の北12kmに位置する人口約7万8000人の街。産業革命の頃から綿工業で栄えた街ですが、産業の衰退とともに数多くあった工場は閉鎖されています。今ではメトロリンク(トラム)で約30分ほどの位置にあるマンチェスターのベッドタウンとしての役割を増してきています。
ベリーはマーケットタウンとしても有名で、ベリー・マーケットは今でも街の一番の人気ポイントとなっています。「世界的に有名な」と冠されるベリー・マーケットはイギリスのベスト・マーケットに選ばれたこともあり、近隣エリアだけでなく、長距離バスでやってくる訪問客もいるほど。
ベリーの街には他にも美術館や保存鉄道などの観光ポイントがあるし、映画館などを備えたショッピングセンターもありますが、街じたいはよくある地方の小都市で特に特徴もありません。それで、タウンセンター(中心市街地)を活性化するために地元の自治体が力を入れたのはベリーのユニークポイントであるマーケットをより魅力的なものにすると同時に、他の訪問ポイントや駅や駐車場などのアクセスポイントへのリンクを改善することでした。
ベリーの中心市街地活性化
タウンセンターにあるマーケットは、市の予算500万ポンドで改修されました。魚・肉ホールを新築し、300以上の売店を数年かけて改築・改善。日々の営業活動になるべく影響しないように行った再開発プロジェクトは市や関係者、業者一人一人の協力が必要だったが、そのかいがあってマーケットはさらなる魅力を増したのです。
ベリーはさらにマーケットと駅・バス停・駐車場などのアクセスポイント、また隣接するショッピングセンターや美術館、アート・センター、保存鉄道などへのリンクをスムーズにするための取り組みを行いました。
そのほかにも、ベリーでは快適な徒歩空間を確保するために、既存のショッピングセンターの要所要所に屋根をつけたり、ショップモビリティーというサービスで車いすやスクーターの貸し出しも提供しています。
この結果、ベリーはメトロリンクやバスで到着し、またはリングロードの外の駐車場に車を置いたら、どこにでも快適に歩いて行ける街としてタウンセンターを機能させることに成功しました。
タウンセンターでの新開発誘致に成功
一連の取り組みの結果、ベリーの中心市街地の魅力はさらに増し訪問者が増えました。これまでアウトドア・マーケットが開かれる水、金、土曜日以外は静かだった街に毎日近郊から人が訪れるようになったのです。
ベリーの魅力は街がコンパクトにまとまっていて、メトロリンクやバス、あるいは車でアクセスした後は徒歩で必要な場所に行けることです。マーケットやショッピングセンター、銀行などのサービスや飲食店、市役所や医療機関、観光ポイントにも歩いていける距離にあります。スーパーマーケットや中規模店舗はリングロードすぐ外に駐車場と隣接する形で位置します。自家用車で街に来る人はここに車を置いて徒歩で中心市街地に行き、帰りにスーパーで買い物をして帰るといった具合です。
この魅力に目をつけたディヴェロパーによって2010年にはタウンセンター内の低利用地に新しく「ザ・ロック」ショッピングセンターがオープンしました。ベリーの中心市街地にこれまでになかった中~高級デパートやブティック、映画館に加え、住居、飲食店など新しい機能も併設した開発です。
この新しいショッピングセンターも既存の中心市街地から歩いて行ける距離にあり、タウンセンターから自然に足が向くようにデザインされています。
この開発のおかげでベリーへの訪問者はさらに増え、訪問客が落とす金額は2009年に2億3800万円だったものが2012年には3億200万円に増えました。
ベリーの成功の理由
ベリーの成功は、かねてからタウンセンターを重要視するベリー市のマスタープラン、そして自治体と街のビジネス、市民、ディヴィロパーが作り上げたパートナーシップ関係が大きな要因となっています。
イギリスの多くの街と同じく、ベリー近郊の他の市では郊外型の大型ショッピングセンターが進出するのを許可しました。時には「客を隣町にとられないために」競争のような形で大規模ショッピングモールがつくられたのです。高級デパートや高価格帯の店舗がないために、地元民が特別なショッピングのために遠出してマンチェスターや大型ショッピングセンターに行ってしまうからというのがその理由です。
そんな中、ベリー市ではタウンセンターを守るために郊外型ショッピングセンターの都市計画申請を退け続けました。住民から広く意見を求めて策定された市のマスタープランにもそのポリシーは明確に記されています。そしてタウンセンターをより魅力的にするために既存のマーケットや商店街、パブリックスペースを改善することによって、逆にタウンセンターに新しいショッピングセンターを誘致することができたのです。
タウンセンターをコンパクトにまとめ、誰でも車なしで歩いて移動できる街にすることで、郊外型ショッピングセンターに客を取られることなく街を活性化した例といえます。
タウンセンターが衰退した失敗事例
ベリーの近郊にはベリーと同規模、またはもっと大きい街がいくつかあります。ボルトン、ロッチデール、ウィガン、オールダムなどです。これらの街にもそれぞれ昔から栄えていた中心市街地がありましたが、近年はおしなべて寂しい様相になってきており、空き店舗率が20%以上になっています。
ベリーと同じような地理条件に位置し、同様に地域経済の衰退を経験してきたこれらの街はベリーとどう違うのでしょうか。
これら近郊の街はタウンセンターから遠い所にある郊外型ショッピングセンターを許可したのです。その結果、大きな無料駐車場付のショッピングセンターに人が集まり、既存の中心市街地から客足が遠のいていきました。
タウンセンターには駐車場が少なく駐車料金も必要なことから自家用車保有率が高い地方の街ではどうしても郊外型のショッピングセンターに買い物客は流れていきます。その結果、鉄道駅やバスセンターがあり公共交通機関に頼る人にとって便利なタウンセンターから店舗やサービスが消えていくと言った現象が起きてしまったのです。
まとめ
郊外型の大規模ショッピングセンターが既存のタウンセンターを衰退させてしまう現象はイギリス各地で問題となってきました。このため、ここ数十年間イギリスの地方自治体ではタウンセンターを重視する政策に切り替わってきています。
けれども、民間ディヴェロパーにとっては地価が安く大きな駐車場を作りやすい郊外型開発は制約が少なくコスパがいいため、タウンセンター内の開発より魅力的です。また、車社会となった地方の街ではそういうショッピングセンターに買い物客からも人気があります。
そのような圧力に対抗し既存の中心市街地を守るためには、自治体の明確な意思にもどづいた政策とそれを支持する住民のコンセンサスが必要となります。衰退しつつある近隣の街と対照的に既存のタウンセンターを活性化したベリーはそれを教えてくれる格好の成功事例と言えるでしょう。
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