タウンセンターと大型ショッピングセンター②イギリスでは

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Merry Hill Shopping Centre

前記事タウンセンターと郊外型大規模ショッピングセンター①で米国と日本における大規模ショッピングセンターについて書きましたが、こちらではこの課題に対するイギリスの取り組みについてご紹介します。イギリスでは郊外型の大規模商業施設を厳しく規制する方針がありますが、それはどうしてでしょうか。そしてその規制をどのように行っているのでしょうか。

イギリスの郊外型開発

イギリスはロンドンなどの都会をのぞけばほとんどが車社会で、それは日本以上と言ってもいいでしょう。
ヨーロッパ諸国の中でも、イタリアなどシティー・ウォールに囲まれた狭い地域に密集して住むのではなく、庭付き一戸建てにこだわって郊外に住みたがる国民性もあり、ロンドンなど一部の例外をのぞき、もはや日常の生活は車なしには成り立たないという人は多いのです。

一家に自家用車が2台あるのは普通で、通勤だけでなく買い物、子供の学校や習い事、交遊の送り迎えなどにも車がないと生活に支障をきたすことが少なくありません。かくいう我が家にも車が2台あります。

こういう生活なので、駐車場付きの大きなスーパーマーケットがかなりあり、郊外型の大規模ショッピングセンターも大きな街には一つくらいあります。この手の商業施設は小規模店舗に比べ完成した暁には大きな収益が見込まれるので建設を希望する業者は多いのですが、それが許可される可能性はかなり低いのです。

それは、イギリスの都市計画の基本として「タウンセンターを守る」ということが大切に考えられているからです。

国家都市計画ガイダンス

イギリス政府が発行している国家都市計画政策枠組(National Planning Policy Framework)の2番目に掲げられている目標が ’Ensuring the vitality of town centres ‘「活気あふれたタウンセンターを確保する」です。

各地方自治体は競争力があるタウンセンターを促進し、育て、維持するためにローカルプランを立てるべきとしています。

タウンセンター・ファースト

商業、レジャー、オフィス開発など通常タウンセンターにあるべきとされる開発計画がある場合、まずその開発が既存のタウンセンター内でできないかということを考えなければなりません。このような考え方を「タウンセンター・ファースト」と呼びます。

開発計画をする者は早い段階で該当する自治体の都市計画課と話し合い「立地テスト」(Sequential Test) を行う必要があります。その開発を行うにあたって下記の順番で立地を考えるというものです。

  1. タウンセンター内
  2. タウンセンターに隣接する場所
  3. タウンセンター外でタウンセンターからのアクセスがいい場所

まずはタウンセンター内に適切な場所がないかどうかを検討すべきなのですが、それに必要な情報を地方自治体は開発希望者に提供しなければなりません。どうしてもそういう場所がない場合にはタウンセンターに隣接する場所を探す、そこにもない場合にはじめてタウンセンター外の場所を検討するという順番です。それも、できたらタウンセンターから公共交通機関などでアクセスがいい場所が優先的に選ばれるべきという考え方です。

タウンセンター外の計画がタウンセンターに及ぼす影響

上記の立地テストで候補地がタウンセンター外にしかないと地方自治体が認めた場合、今度は「影響テスト」(Impact Test)を行う必要があります。

ローカル・プランに即しないタウンセンター外での商業、レジャー、オフィス開発の計画の許可申請があったときは(各自治体で定めた規模、または2,500平方メートル以上の開発が対象)その計画が既存のタウンセンターに与える影響をさまざまな視点から検討しなければならないのです。たとえば下記の点などについて考えなければなりません。

  • タウン・センター内の既存の、または計画されている公共・民間投資にどのような影響を及ぼすか
  • タウンセンターの活力と生存力にどのような影響を及ぼすか
  • 地元消費者の嗜好
  • タウンセンターにある既存の事業の種類

そして、その新規開発事業が今後5年間(大規模な開発の場合は10年間)の期間においてタウンセンターに悪影響をもたらす可能性がある場合は開発を許可すべきではないとしています。大規模な開発の場合は、その自治体内だけでなく、隣接する自治体に与える影響も考えなければなりません。タウンセンターは多様な人々が織りなすコミュニティーの大事な要と考えられているのです。

タウンセンターを守る

このような既存のタウンセンターを守るという方針は、ただ単に地元の商店街を維持するという商業的な意味合いだけではありません。タウンセンターはショッピングをするという役割だけでなく様々な用途を持つととらえられています。

多様な店舗、飲食店、娯楽施設、教育施設、役所や警察、図書館などの公共サービス、銀行や郵便局、病院や医院、教会、広場、駅やバス停、中心街の裏や端にある公園、つまり「人が集まる」ところなのです。

老若男女、様々な人が様々な時間帯に様々な方法や目的で訪れる場所がタウンセンター。住んでいる場所や生活スタイルは違っていても、多様な人が交わるところがタウンセンターです。街から離れた田園地帯に住む老人も、タウンセンターのアパートメントに住む若者も、郊外に住む子持ちの家族もみんなが集まる場所。もし、車で郊外のショッピングセンター、レストラン、映画館にだけ行くというのでは自分と同じような人としか交わらないということにもなりかねません。

多様な機能を持つタウンセンターを守ることはイギリスの都市計画の原則中の原則とも言えます。各地方自治体も地域の経済を支え、そこに住む人、働く人に社会的な恩恵を与えるタウンセンターのさまざまな機能を守ることを第一の方針にしており、地域のローカルプランにも明記しています。

郊外型商業開発を避ける理由

先にも述べたように、車社会のイギリスでは広く無料の駐車場がある郊外の大規模ショッピングセンター、スーパーマーケット、娯楽施設がある商業施設などは人気があります。特に、家族連れは週末になるとこういう施設を利用することが多いのです。イギリスの天気が悪いことは有名ですが、雨が降ったり冬の寒い時期にはことさら室内の商業施設は魅力的です。また、イギリスでは最近日曜日に店舗が開くようになりましたが昔は休みだったし、今でもタウンセンターの店舗は夕方6時には閉まってしまうことが多いのです。これに比べ、郊外型の店舗は営業時間が長いのも人気の理由です。

けれどもこの手の商業施設は多くが不便な場所にあるため、車がないとアクセスが難しいのは日本と同様。そうなると、学生や車を持たない高齢層は低所得者層はこういう施設を利用することが難しくなります。車を持つ人達には便利な施設でも、そうでない人が利用できないというのは公平ではありません。こういう商業施設ができることによって既存のタウンセンターの競争力が弱くなり、店舗などが閉まることになると困るのは車がない人たちです。

こういった理由からイギリスでは本来タウンセンターにあるべき機能は守るべきであるという考え方なのです。それでなくても昨今オンラインショッピングなどの影響でタウンセンターにある店舗が閉店することが少なくありません。最近ではイギリス中に支店があったBHSというデパートやMothercare という子供用品ショップの経営が破綻しあちこちのタウンセンターで閉店しました。その空き店舗がそのまま残っている街もたくさんあります。

郊外型大規模商業施設が許可される場合

そんなイギリスでも郊外型の大規模商業施設が建てられる場合もあります。何と言っても商業的には大きな収益が見込まれるため、開発業者には魅力的なのです。しかし、そういう開発が許可されるためには上記に挙げたような厳しいテストに適合する必要があります。

例外としては、サッチャー時代に都市計画の緩和をすすめた「エンタープライズゾーン」制度を利用してメリーヒル・ショッピングセンターという大規模商業施設が建てられたことがあります。その結果、古くから地元の中心地であった、ダドリーというマーケットタウンはすっかり衰退してシャッター街と化してしまいました。詳しいいきさつは郊外型ショッピングセンターによる地方商店街への影響:イギリスDudleyの事例をご覧ください。

まとめ

車社会である上、天気の悪いイギリスで郊外型商業施設は人気があります。けれどもそういう施設を実際に利用する人でも、タウンセンターを守らなければならないということについては意見が一致しています。それで、こういう施設の開発予定が新しく持ち上がると地元の住民が一斉に反対するのが普通です。いくら便利になるからといっても既存のタウンセンターに悪い影響がないようにコミュニティーのコンセンサスが出来上がっているようです。車社会の影響やオンラインショッピングの台頭などでタウンセンターはそれでなくても脅威にさらされています。それを守るためには政府の都市計画政策、地元住民の強い意志と地方自治体の厳しい都市計画規制が必要なのです。

 

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