イギリスのパークランと村上春樹の神宮外苑ラン

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土曜日に朝の散歩に行くと、公園などでたくさんの人が走っているのに出会います。そういえば先日、村上春樹がいつもランニングしていた神宮外苑が変わってしまうことについての感想を語っていました。思えば、東京には新鮮な空気に包まれて走ることができる広い公共空間が少ないことに改めて思いをはせました。

イギリスのパークラン

イギリスでは2020年の3月からコロナによる外出制限が導入されましたが、戸外での散歩やスポーツは許可されていました。それまではプールやスチームルーム付きのジムに車で行っていた私は、これを機にライフスタイルを改めました。運動と気分転換のために朝の散歩をすることにして、今でもその習慣は続いています。それまでは10分以上の距離だと車に頼っていましたが、歩くのが苦にならならくなったため車には乗らなくなり、のちに売ってしまいました。

散歩に行くコースはいろいろありますが、そのうちの2か所で、土曜日の朝、たくさんの人が走っているのに出くわすことがあります。一つは家から東方向に歩いて15分くらいの公立公園、もう一つは我が家で「恐竜公園」と呼んでいる徒歩5分くらいの西方向にある野原。それぞれ、老若男女入り乱れ、プロ級の走りっぷりの人もいれば、子供連れ、ベビーカーを押しながら、あるいは半分歩いているような人も。聞いてみると、これらは、‘parkrun’(パークラン)という、ヴォランティアによるランニングイベントで、毎週土曜の9時から行われているということを知りました。

「パークラン」はもともとは2004年にロンドンで13人の参加者が始めたものですが、それが大規模になって全国に広がり、今ではイギリス各地1000か所以上で行われています。誰でも無料で参加できて、5㎞のコースを走るもの(2㎞の場合も)。さまざまな公園やオープンスペースなどで行われていて、係員などはすべてヴォランティア。子供からお年寄りまで、みんな楽しそうにおしゃべりしながらランナーを見守ったり応援したりしていて、コミュニティイベントとしての役割も果たしています。

「パークラン」はイギリスだけでなく国際的にも広がっていて、パートナー国は今では20か国に上っています。2019年には日本にも上陸していて、二子玉川公園を皮切りに全国35か所で開催されているということです。

村上春樹と神宮外苑

フルマラソンにも参加することで有名な村上春樹は、毎日1時間8~10キロくらい走るそう。世界各地で走ってきた彼ですが、ヤクルトスワローズのファンでもあることから、東京にいるときのランニングコースは神宮外苑だとのこと。若いころこの周りをよくランニングしていたという彼が、神宮外苑再開発のことを聞いて、個人的に強く反対していると語っているのを聞きました。

緑あふれる気持ちのいいあの周回ジョギングコースを、そしてすてきな神宮球場を、このまま残してください。

一度壊したものはもう元には戻りませんから。

村上RADIOで、本人の声を聞くことができます。

都市の公共オープンスペース

イギリスで私が住んでいるのは地方の小さい街なので、公園も、公共の緑地も、誰でも歩き回れる野原もあり、散歩コースには事欠きません。そしてロンドンのような都会でも、中心部にまでハイドパークなどの公園やオープンスペースがあり、ランニングをしている人をよく見かけます。

日本では、都会を離れるとオープンスペースが多いのですが、東京などの都市で排気ガスにまみれずに走れるところはそう多くはないようです。代々木公園、皇居外苑、上野公園などがあり、神宮外苑も貴重なジョギング空間となっているんですね。

地価の高い都会では緑やオープンスペースが少ないのが当たり前だと思いがちですが、そういう国ばかりではありません。世界にはグリーンな都市もあります。公園や広場といったパブリックオープンスペースが都市の総面積に占める割合を見てみると、ノルウェーの首都オスロには実に68%もの緑地があります。シンガポール、シドニー、ウィーンなども緑が多い都市です。大都会のロンドンでもパブリックオープンスペースは33%、ニューヨークには27%あります。緑が少ないと言われ、オープンスペース率が9.5%しかないパリも、五輪をきっかけにして都市の緑化プロジェクトをすすめています。

では、東京はどうでしょうか。公園や広場のようなパブリックオープンスペースはほんの7.5%しかありません。それなのに、その貴重な空間も日々開発の波に迫られつつあります。パリのイダルゴ市長は2024年パリ五輪のレガシーとして「パリをグリーンでクリーンなシティーに生まれ変わらせる」という理想を掲げていますが、小池知事の東京五輪のレガシーは「神宮外苑の杜」を「高層ビルの杜」にすることだったという対照的なものになっています。

都市の公共空間の好影響

日本の田舎は山がちなところが多いということも手伝って、いたるところに緑があるために、都会にはそれがないのが当たり前と思っている人が多いのかもしれません。けれども、庭もない狭い居住空間で暮らす人が多い都市だからこそ、誰でもアクセスできる公共の屋外空間は貴重なものです。散歩やランニングなど運動をする場所を与えてくれるだけでなく、忙しい都会の生活からひとときの安らぎを得たり貴重な自然に触れる機会を、誰にも等しく提供してくれます。グリーンスペースと精神疾患リスクの関係についての調査からも、緑地が住民に与える影響は無視できないものです。

さらに、気候変動の影響もあって年々気温が上昇している今、都市の緑化は夏の高温を抑え、都市住民の健康にも寄与します。ヨーロッパの都市の樹木割合を今の14.9%から30%にした場合、夏の気温を0.4度抑え、暑さ要因の死亡を39.5%減らすという試算も出ています。  樹木割合が低い街では暑さによる死亡率が高いということを、夏の高温に悩まされる昨今の東京ではことのほか実感するのでは。

室内で涼しく過ごすために冷房で電気を無駄使いして温暖化の要因にもなる二酸化炭素を排出し続け、暑い外に出るのは避けるという生活をいつまで続けていられるのか、今一度、本気で考え直す必要があるのではないでしょうか。

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