ギリシャ、クレタ島の物見遊山ホリデー記

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CreteOnar

コロナが流行し始めてから海外旅行は控えていましたが、夏休みに入った7月中旬に、3年ぶりで家族3人のホリデーに出かけてきました。ギリシャのクレタ島に11泊12日した旅行記に合わせ、コロナ禍でのクレタ島の観光業の状況やコロナ後の見通し、オーバーツーリズム対策などについて書きます。

コロナ後のイギリス人ホリデー事情

格安航空便が浸透し始めてからというもの、それまでは国内旅行が主だった一般イギリス人がスペインなど南欧諸国に太陽を求めて海外旅行に行くことが普通になりました。それも、新型コロナウイルスの流行で2年間にわたって下火となっていましたが、今年の夏からようやく通常に戻りつつあります。

イギリスでコロナ感染がなくなったわけではありませんが、いつまでも感染におびえて何も楽しめない生活なんてもううんざりというのがほとんどのイギリス人の思いのようです。ワクチン接種も進んでいるし、コロナに感染しても軽症ですむことがほとんどなので、コロナ慣れしてきたということなのかもしれません。

我が家も2年半、控えていた海外旅行を再開することになり、家族3人でギリシャのクレタ島へ。イギリスからの便は久しぶりのホリデーを心待ちにしていたイギリス人でいっぱいでした。空港でも飛行機内でもマスクをしている人はいません。イギリスのNHS国民医療サービスはデジタル化が進んでいて、自分のNHS番号を入力するとコロナワクチン接種証明をスマホにダウンロードできます。それを準備していたのですが、イギリス出国もギリシャ入国も、検査陰性の証明どころかワクチン証明を見せる必要もなく、少し拍子抜けしました。

ギリシャでも観光地ではホテルやレストラン、博物館や観光地などでマスクをしている人はほとんどいません。でも、地元の人が利用するローカルのバスに乗った時にはマスク着用が義務のようでした。ギリシャ人は公共交通機関などではマスクをするけれど、外国人観光客にはコロナを気にせず観光を楽しんでほしいということのようです。

ギリシャ、クレタ島

我が家ではコロナ前は、日本に毎年2,3度行く以外、7月の夏休みの初め、イタリア、ギリシャ、トルコなどの南欧にホリデーに行くのが普通でした。一般イギリス人同様、太陽を求めての行き先でもあるし、私たちが歴史や古代文明に興味があるため、遺跡などの観光ポイントもあるというのが目的地選びの理由です。

ギリシャは4年前にも家族旅行でアテネ、ペロポネソス半島(オリンピアなど)、サントリーニ島を満喫しました。今回はコロナ後初めての旅行ということで少し短め、クレタ島だけで3か所に滞在する11泊12日にしました。イラクリオン空港発着で、イラクリオンに5泊、ファイストスの近くの田舎に3泊、そこより少し南岸沿いにあるカミラリという村に3泊。イラクリオンではホテル、その後は自炊ができるアパートメントを利用しました。すべて、プールがあることが条件で、2軒目はプールや庭付きの家全部を貸し切り。3軒目では5部屋くらいのアパートメントでプールをシェアしましたが、満室ではなかったし、他の滞在者は近くのビーチに出かけていて、プールサイドは貸し切りでした。

イラクリオンのホテル屋上プールから見えるヴェネツィアン要塞

だいたい2日に一度くらいは朝の涼しいうちに遺跡や博物館に行き、あとはホテルやアパートメントのプールサイドでくつろいで、夜涼しくなったころに散歩がてら晩御飯を食べに行くという、のんびりホリデーです。夏でも涼しいイギリスでは水着姿で外で日光浴したり海やプールで泳げることが少ないので、ホリデー中にそれを楽しむわけです。

が、今年はちょうど私たちがギリシャにいた時にイギリスは記録的な暑さを迎えたということ。イギリスで35度という気温を体験してみたかった思いもあるけど、エアコンなしでは暑すぎたでしょう。昨日イギリスに帰った時はすでに熱波が去ったあとで、20度を切った、いつものイギリスの夏に戻っていました。

クレタ島の観光業

クレタ島は東西に細長く、ギリシャでは一番大きい島です。面積は広島県くらいですが、人口は約63万人と、日本で最も人口が少ない鳥取県や島根県と同じくらい。

産業としては農業が主で、オリーヴの名産地ですが、1970年代頃から観光業に力を入れ始め、その成果が出てきています。初めのうちはビーチを中心にヒッピーが滞在するくらいでしたが、1990年代から一般観光客が増えてきました。1973年には年間訪問者数31,000人だったのですが、外国からクレタ空港への到着者数だけで下記のように増えています。

1990年 150万人
2010年 252万人
2014年 350万人
2017年 425万人
2018年 456万人

Crete Tourism

上記の数字にはギリシャ国内からの到着数や、船での訪問者は含まれていないので、実際には観光客数はもっと多いはずです。

外国人観光客は主にヨーロッパ諸国からで、イギリス、ドイツ、フランス、オランダ、イタリア、北欧諸国などが多いようです。ホリデーシーズンは島の人口が20%増え、ピークシーズンにはイラクリオン国際空港はパンク寸前だということ。私たちが利用した時はコロナ後のホリデー客が本格的に戻る前だったため、それほどでもありませんでしたが、それでも帰りの便を待つ時は待合室はほぼいっぱいでした。

観光客が増えるにつれ、これまでは農業に頼っていたクレタ島の人も観光業に携わる人が増えてきています。2008年には観光産業がクレタ島の経済収入の40%、直接雇用の36%を占めるに至っており、他のサービス業の多くも観光客に頼っているということ。

イラクリオン以外のクレタ島の滞在地は丘の中腹の田舎にあり、かつては農業従事者しかいなかったようなところです。村のはずれにあったレストランは、家族経営で、自分たちの農場で取れた野菜や果物、家畜を使った地元料理、おばあさんが作ったパンやチーズを、その娘や孫などが運んできてくれました。2年前レストランを開いた直後にコロナ禍となり、観光客が来なくなって家族じゅう大変な思いをしたそうです。でも、今年の夏からはやっとこれまでの苦労が報われそうだとうれしそうに語ってくれました。

家を一軒貸し切りにしたVilla Onarは、イラクリオンの大学教授であるというホストが祖父母から受け継いだ田舎の古い家を修復したもの。周りに何もない、人口100人くらいの村は過疎化が進んでいて、なかば廃墟となった空き家が結構ありました。そんな中、彼のような世代が村に再び息を吹き返そうと古い家を修復して観光客を呼び寄せています。彼は古い家の雰囲気を壊さないように心をこめて修復したのが自慢のようで、数百年経った石のアーチが残る壁を指さし「これを見て。漆喰を塗るとき、オリジナルのデザインを残そうと工夫したんだ」と説明してくれました。

CreteOnar

Villa Onar, Kalochorafitis, Crete (https://www.booking.com/hotel/gr/villa-onar-kalokhoraphites.en-gb.html)

 

家は古くても、インターネット接続も問題なく、機能は最新で快適でした。各部屋にエアコン付き、洗濯機も使えるし、キッチンには大きな冷凍冷蔵庫が付いていて「買い物に行かなくても大丈夫なように」と冷蔵庫には手作りだというトマトやきゅうり、ピクルスにオリーブ、それからメロンやスイカに卵、飲料水やワイン、ジャガイモ、ガーリック、ハーブ、オリーブオイル、ビスケットなど何でもそろっています。おかげで、買い物に行かずともホストが残してくれた食材で3日間自炊することができました。

家の外には花やハーブの鉢植えででいっぱいの庭があり、日よけのパーゴラの下にあるダイニングやラウンジエリアが3か所あり、好きなところで食事したり、くつろげます。10メートルくらいのプールもあって、プールサイドにはパラソルやビーチチェアがあって日光浴も楽しめました。

こんなに快適なアパートメントに修復したのに、コロナ騒ぎが始まったので観光客が来なくなり、ホストは仕方なく自分自身が週末にワーケーション先として使うしかなかったと語っていました。久しぶりの宿泊客を歓迎してくれたということもあったのか、ホストは到着時に冷蔵庫をいっぱいにしてくれただけでなく、帰る時には自家製のドライハーブの詰め合わせや古代クレタ文字を模したお土産までプレゼントしてくれました。

この村では他にも、同じようなアパートメントを経営している地元の人と話しました。この人も古い家を観光客用に修復するためにせっかく投資したのに、コロナで収入がゼロになり一時はあきらめかけていたといいます。でも、今年は既に予約がいっぱいになりつつあると言っていました。観光客を呼び込もうとする前にはこのまま過疎化して消滅してしまうのではないかと危惧していた村に、よく来てくれたと感謝されました。この人のところには泊まらなかったのですが。

クレタ島のオーバーツーリズム対策

これまで産業といえば農業と漁業くらいしかなかったようなギリシャの島で観光業が急激に伸びたことで、特に人気のある観光スポットではオーバーツーリズムの懸念も無視できません。

コロナ前に訪れたサントリーニ島はクレタよりもっと小さな島だということもあり、観光客の数が多すぎてせっかくの景観が台無しになっているように感じました。遺跡好きの我々としては、紀元前1,500年の火山噴火で埋もれてしまったアクロティリ遺跡を見ることが主な目的だったので、それだけで満足したのですが。

とはいえ、わずか76平方キロの小さなサントリーニ島の年間宿泊客数は2017年に550万人にも達し、水やごみ処理などのインフラが追い付かず、地元民との軋轢も生まれていました。それで、ピーク時に1日18,000人に達していたクルーズ客を1日8,000人に制限する案が2019年に導入されました。

一足早く中~北ヨーロッパ人のホリデーリゾートとして開発されつくした感があるスペイン海岸部のリゾートでは、ビーチ沿いに高層ホテルやアパートメントが立ち並び「プライヴェートビーチ」としてフェンスで囲まれて、一般の人が海岸部に立ち入ることができないようなところもあります。

このような規制のないリゾート開発によってせっかくの景観が損なわれないように、クレタ島では様々な対策が導入されています。

たとえば、現在では観光客用のホテルやアパートメントの高さは3階までに制限されています。とはいえ、古い建物や地元住民用の住居はそうではないし、ギリシャは一般的に都市計画の分野ではそれほど規制が厳しくないため、せっかくの景観が損なわれている事例もよく見かけるし、道路の交通状況も整備されていないところが少なくありません。それでも、海岸部や丘の中腹に次々と新しく建てられるホテルやアパートメントの高さが低く抑えられていることで、自然風景に溶け込んで、遠くから見てもなじみのいい景色となっています。

スペインなど古くから開発されている海岸部の観光地で、観光公害の一種として時に問題になるのがプライヴェートビーチです。ホテル業者などが海岸部の土地を買い占めてビーチを囲い込み、滞在客や有料客だけに利用可能にすることを禁止している国も多いのですが、ホテルがフェンスを建てるなどして、一般人が通れないようにしているところもあります。

クレタ島でも2014年にホテル業界がビーチの一部をホテル利用客専用にするという法案を通そうとしたのですが、地元で反対の声が大きく上がり、この案は断念されました。このため、クレタ島のビーチは誰にでもアクセスできるように開かれており、ホテル宿泊客でなくても砂浜や遊歩道を自由に散策することができます。

さらに、訪問者が観光地だけを訪れてそのまま日帰りしてしまうのではなく、地元に収入をもたらしてくれるように努力もなされています。たとえば、最近「スピナロンガ」という、ハンセン病患者の収容所施設跡がある島への観光が人気なのですが、島に行く船に乗る観光客を運ぶバスは船の発着時間に合わせて客を港からすぐ連れ帰っていました。これをよしとしない地元の港町の事業者たちは反抗して、バスが通る道路を封鎖してしまいました。

それでバス会社は地元のビジネスと交渉をして、スピナロンガ島から戻る船が着いてからバス発車まで1時間ほど時間の余裕を持たせることを約束しました。それ以降、観光客は待ち時間を利用してこの港町で飲食したり買い物したりするようになり、地元に観光収入が落ちるようになったのです。

日本の滞在型ホリデーリゾート

日本型の「物見」中心の旅行と異なる欧米型の「遊山」ホリデーの違いについては以前にも書きました。欧米人が好む滞在型のホリデーに対応する滞在先やサービスが日本の地方にあったら、週単位で滞在したいと思う外国人客は多いはずです。そして、そのようなホリデーを経験したら日本人の中にもその良さに気づく人が出てくるでしょう。

そのためには、美しい自然風景に囲まれ、伝統的な建物を修復してあったり、地域の特色を持つ建築スタイルで建てられた良質の滞在先があったらいいと思います。ホテルもいいのですが、プライヴァシーを好む人たちには、家族だけで貸し切りできたり、小規模なアパートメントタイプの宿泊先が適しています。

夏はもちろんですが、比較的暖かい地域では、春から秋にかけても泳げたり日光浴ができるので、小さくてもいいからプールが付いていたらもっといいと思います。そういう所があったら、個人的にもワーケーションとしても利用してみたいです。おすすめがあれば教えてください。

ギリシャは野菜や魚介類など、食べ物もおいしかったのですが、日本食ならなおさらうれしいですものね。

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