コロナの影響でイギリス人は都会から郊外や地方へ脱出傾向

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イギリスではロックダウン緩和と共に、都会から郊外や田舎への脱出傾向が見え始めています。ロンドンを中心とした都会住民が職も住む場所も都心から離れたところでと都会脱出を目指しているのです。このような傾向はイギリスだけでなく米国やオーストラリアでも同様です。

イギリスでロックダウン緩和後の家探し

新型コロナウィルスの影響でイギリスは3月23日からロックダウンとなり、外出制限のため身動きできなくなった生活が続きました。それが5月下旬から徐々に緩和されるようになり、比較的早い段階で営業が許可されたのが不動産業です。

コロナの影響で経済的な不安がある人にとっては新たに家を買うどころではありませんが、比較的余裕がある層では、この日を心待ちにしていた人たちも多かったようです。そして、家探しもパンデミック前とは異なる傾向がみてとれます。

コロナの影響

イギリスでは過去にもパンデミックや産業革命後の都市の環境悪化のために都会から富裕層が脱出するといった歴史を繰り返してきました。たとえば1665年にロンドン住民7万人を死に追いやったペストが流行った時、国王チャールズ2世はハンプトンコートに引っ越し、持てる者はみな田舎へ脱出。国会さえオックスフォードに移転しました。

今回の新型コロナウィルスの場合も人口密度の高いロンドンでは被害が事のほか大きく、死者は8月末までで約6800人です。人口密度が高く、公共交通機関の利用者も多いし、職場やレジャー目的の社会的接触も多い都会でウィルスの流行が広がりやすいのは当然です。

さらに、ロックダウン中に明らかになったのは狭い住宅環境から起こる問題、庭やバルコニーがないことで外気に触れるのも困難なこと、自然に触れる機会が少ないことなどが生活の質に大きく左右するということでした。

在宅勤務をするにしても大きい家に住んでいる人なら専用の書斎や客用寝室を使えますが、狭いアパートだと仕事をする場所がないとか、zoom会議に家庭音が入り、子供が突然画面に現れるというようなことも起こります。

外気にふれたくても庭がある人はいいのですが、庭のない環境に住んでいるロンドン住民も多く、アパートメントにバルコニーさえついていなかったり、半地下の暗いスペースに住んでいる人もいます。

ロックダウン中も運動不足にならないため、散歩やジョギングのために公園などに外出することは許されていましたが、公園やオープンスペースの近くに住んでいない人もいるわけです(イギリスは都会でも日本に比べると公園が多いほうですが)。

コロナ前もロンドンは不動産価格が高騰していて、家やフラットを買うのも借りるのも高くなってはいました。ロンドンは住宅家賃がヨーロッパで一番高いのです。(次に高いイギリスの都市はマンチェスターの30位、バーミンガムの36位です。)

このため、家族を持ち始める30歳代の人たちが都会を出る傾向はありましたが、今年はその傾向がコロナで急に拍車がかかっています。

都会から郊外や田舎へ

ロンドンの住宅委員会の調査によると、

  • 新型コロナウィルスが原因でロンドンを離れたいという人は14%
  • ロンドン住民の33%は引っ越したいと考えている
  • 上記のうち、ロンドンにとどまりたい人43%を出たい人46%が上回る
  • 上記のうち、1年以内に引っ越す予定の人が3/4
  • 住居環境に重要な要素は庭やバルコニーの有無、近くに公園があるかなど

ロンドン住民でロンドン以外で家探しをしている人の数は2020年4月に2倍になったということです。ロンドンに通勤できる範囲内の郊外は特に人気で、バッキンガムシャー州やサセックス州などに引っ越したいと希望する人が増えています。

マンチェスターやバーミンガムなどの都市でも田舎に家を探す人が増えています。家探しをする人の20%が大きな街ではなく小さい村に住みたいと考えています。そして、イギリスの若者の71%が庭などの野外スペースを希望しているのです。

職場もロンドン脱出

イギリスではロックダウン中は在宅勤務をせざるを得なかったわけですが、ロックダウン緩和後も在宅で仕事ができる人は継続してリモートワークをしています。ヨーロッパのほかの諸国に比べてもイギリスの労働者はロックダウン緩和後に在宅勤務を続ける人が多いのです。

Twitter社など、職場によっては希望者はずっと在宅勤務を続けることを許可しているところもあります。ロンドン商工会議所の調査ではロンドン企業の13%が今後、在宅勤務を基本にすると答えています。

新たに仕事を探す人もロンドンから離れて働きたいという人が増え、今の職場が都会にある人でも在宅勤務ができることを条件に職探しをする人が多くなっています。キャリアサービス会社の調査によるとロンドン外の仕事を探していると答えた人は20%から51%と2倍以上に増えました。

これまでも歴史上パンデミックやテロ事件などで都心から人が出ていくこともありましたが、しばらくすると仕事がある都会に人は戻ってきていたものです。けれども現在はITなど技術革新のおかげで在宅勤務ですむ仕事が増えています。そういう仕事についている人にとって都会に戻る必要はあまりなくなってくるし、企業も不動産価格が高い都心に高い賃料を払い続けることに疑問を感じるようになるでしょう。

米国やオーストラリアでも

コロナで人や仕事が都会から出ていく傾向はイギリスだけではありません。米国でも同様の傾向が報告されています。コロナ被害の大きかったニューヨークをはじめ、サンフランシスコやボストンなどでは都市脱出をする人が増えて都会の平均家賃が去年に比べて5%減少しました。

理由としてはイギリスと同じくコロナ感染を避けるため、また在宅勤務をする人が増えたことがありますが、米国の都市では治安の悪化ということもあり、犯罪や暴動など安全面での懸念もあるようです。ニューヨークでは7月に殺人が29%、強盗が43%、銃犯罪被害が85%増加したというのです。

ニューヨークでは3月から5月にかけて住民の5%に当たる42万人が市を離れました。このうち、低所得者層はほとんどが市内に残ったのに対し、富裕者層の40%以上が都心から脱出したということです。

1970年代の不況時や9/11テロ事件の直後にもニューヨークを離れる人はいましたが、その後しばらくすると人は戻ってきていました。でも、今回は様子が違うようです。人が少なくなるだけでなく、経済面での打撃も大きいからです。

たとえば、ニューヨークでは高所得者トップ1%が市の税収の40%を納めているのですが、そういう人ほどさっさと田舎に逃げています。そして、そういう人たちは当分都心には戻ってきそうもありません。税収が激減しては自治体の公的サービスも縮小せざるを得ないという問題があるのです。

米ニューヨークだけでなく、米国のほかの大都市住民も、その54%が都市から引っ越すことを考えているという調査結果もあります。

オーストラリアでもメルボルンやシドニーなどの都会から郊外や田舎に移住する人が増えました。このため、人気地域では住宅価格や家賃が高騰し、不動産市場に出た家がたった一日で売れるほどです。オーストラリアでも都会の不動産価格は高騰しているので、都会民にとっては地方の住宅価格が安いことも魅力にうつるようです。

また、引っ越すとまではいかずともコロナ流行中は安全で快適な生活をしたいと願う都会住民が田舎にあるホリデー用の別荘を月単位で借り、そこから在宅勤務をするというケースも増えています。

コロナで人生観が変わった

イギリス人で新型コロナウィルスの影響で都会脱出を決めたり、目下検討中の人たちの話を聞いていると、単に感染リスクがある高密度の都会暮らしを避けたいということだけではないことがわかります。

高齢者でもない限り今まで考えてこなかった自らの生存危機について気付き、自分たちが死にどれだけ近いのかということに思い至ることで、人生について考えるきっかけを持つとともに、社会、経済、政治システムの脆弱さを思い知るということにもなったというのです。

きらびやかな都会に住み、高報酬の仕事をバリバリこなし、アフターファイヴは友人たちとパブやクラブで遊び、週末はブランド店でショッピングしたり、映画や劇場などのエンターテイメントを楽しむ毎日に満足していた人たち。コロナの流行で職場にも行けず友人とも会えずお店も軒並み閉まってしまい、これまでは寝るためにだけ帰っていた狭いアパートメントに閉じ込められる毎日。

これまで当然と思っていた日常を続けることができなくなり、時折やってきていたスペシャルイベント、結婚式とか誕生日パーティーとかホリデーさえなくなってしまう。ぽっかり空いた時間につくづく考えてみると、自分の人生にとって本当に大切なものは見せかけの富やキャリアなどではないと気が付いてしまうようです。

今まで楽しんでいた娯楽やショッピング、パブやクラブで友人や見知らぬ人と密接に触れ合うこともできないのなら、何のための都会なのか。すべてのシャッターが下り誰もいない閑散とした街を歩くより、家族など大切な人と自然あふれる田舎を散歩するほうが心の平静や幸福感を得ることができると感じる人が増えてきています。

ロックダウン中に公園など野外で楽しむことが増え、家で観葉植物を育てたり、バルコニーや狭い庭で野菜作りをするといったシンプルな楽しみを初めて発見した都会人の知り合いもいます。そうした人たちが、これまで楽しいと思っていた都会の生活より田舎や郊外でゆったりした暮らしをしたいと思うようになったのです。

ロックダウン終了後もコロナと共存

新型コロナウィルスの流行がおさまり、ロックダウンが終わったら生活はすべて元通りになるという人もいます。けれども、イギリスに関してはどうやらそういうわけにはいきそうもありません。

9月に入り、政府も国民に学校や職場に戻るようにすすめてはいますが、人が活動を始めれば感染はまた流行していきます。今のところ感染は広がっても死者数が急増したりはしていません。とはいえ、効果的なワクチンの開発もそうすぐにはできないのですから、当分はこの厄介なウィルスとつきあいながら共存していくということになるのです。

とりあえずは様子を見ながら規制を導入したりゆるめたりしてやっていくしかないでしょう。イギリスでは地域的に感染が急増したところでだけ飲食店閉鎖や大人数での集会禁止などの限定的な規制をしながら、できるだけ通常の生活を続けることができるようきめ細やかな対策を試行錯誤で行っているところです。

このような状況の中、もともと田舎好きが多いイギリス人は前にもまして自然回帰するむきがあり、都会脱出の傾向はこれからも続きそうです。

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