英ジョンソン首相の肥満解消策は?:サイクリングでコロナ対策

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • Pocket
  • LINEで送る
Boris cycling

イギリスのジョンソン首相は自らがコロナで重症になった理由の一つが太りすぎであったことを認め、イギリス人の肥満問題を解消する様々な政策を導入しましたが、その目玉が自転車政策です。具体的にはどのような政策が考えられているのでしょうか。

ジョンソン英首相のコロナ重症要因は肥満

イギリスのボリス・ジョンソン首相が新型コロナウイルスにかかり、ICU集中治療室に入るほど重症化しましたが、その理由について「太りすぎが一つの要因である」と自ら認めています。ジョンソン首相はコロナに感染する前、身長175㎝で体重111キロ、BMIが36.2だったということなので太りすぎと言ってもいいでしょう。

新型コロナウイルスにかかって重症化する人の特徴として年齢や基礎疾患の有無のほかに肥満が挙げられています。イギリスでは集中治療が必要な患者のうち7割以上が肥満、または太りすぎで、BMIが30以上の人はコロナで死亡する確率がそうでない人より33%高いということです。

生死をさまよう体験の後、ジョンソン首相は肥満問題に取り組むことが重要だと身をもって理解したわけですが、一国のトップらしく、やるからには国の政策にしようとしました。というのも、米国ほどではありませんが、イギリスもここ最近肥満や太りすぎの人が増えていて問題になってきているのです。

イギリス政府の肥満対策

肥満対策、特に子どもの太りすぎはイギリスで特に問題にされていて、労働党政権時代にはソフトドリンクにかける砂糖税などの政策が導入されました。けれどもジョンソン首相は政府が国民の自由意思に対して過保護的な政策をとることを「Nanny State」と呼んで反対していました。その自説を変えるほどの威力を自らのコロナ経験が持っていたと言えます。


ジョンソン首相は退院後、早朝の愛犬との散歩で走る習慣を続けて、1ストーン(6.35キロ)は痩せたと語りました。
朝いちばんの運動は健康面だけでなく、精神的にもいいと言い、国民にも「みんなでやせよう!」と呼びかけています。

肥満対策としてイギリス政府は様々な案を検討しています。たとえば:

  • TVやオンラインのジャンクフード広告を夜9時まで禁止
  • 健康的でない食べ物の「二つで一つの値段」セール禁止
  • 外食メニューにカロリー表示義務
  • アルコールにもカロリー表示義務を導入予定
  • NHS国民医療サービスの肥満対策を拡充

このほか、イギリスが導入しようとしている肥満対策として目玉ともいえるのが自転車政策です。

イギリスの自転車政策

ジョンソン首相はロンドン市長時代も俗に「ボリス・バイク」と呼ばれるレンタサイクルを導入するなど、自転車好きで知られていましたが、この機会にイギリス中で自転車利用を広めたい考えです。

自転車に乗ったり歩くことは健康にも環境にもいいことだ。
イギリス政府は自転車政策に20億ポンド(約2千700億円)をあて、新たなサイクリングレーンを導入したり、自転車教室を提供して、みんながもっと自転車に乗るようにする。

これを受けてイギリス運輸省もさっそく新しい自転車政策について発表しています。

イギリス運輸省「サイクリング&ウォーキング革命」

  • 自転車に乗ったり歩いたりしやすいインフラを整備する
  • 交通量を減らし空気をきれいにする
  • 健康的でアクティヴな国民に

具体的な自転車政策

イギリス政府がこれから5年間で20億ポンド(約2800億円)かけて導入する自転車政策は次のようなものです。

自転車インフラ改善

イギリスには自転車レーンと言っても名ばかりで、道路にペンキを塗っただけのものも多いのです。それだとマナーの悪い運転手が法律を無視して自動車を駐車してしまうことが多く、それをよけるために自転車に乗る人が道路にはみ出さざるを得ず、かえって危険になることがあります。

これからは、ペンキだけを塗り物理的な障壁がないもの、また十分な幅が確保されないもの、さらに歩行者と共用するデザインの自転車道には公的な資金が配分されないことになります。

このような方策を徹底するために、自転車道のインフラやデザインを監視するための機関であるActive Travel Englandが新たに設置されます。この機関が自転車道の基準が守られているかどうかを評価したり、公的資金配分の任務を請け負います。

自転車関連法律の整備

自転車利用者がより安全に道路を使えるよう、道路交通法が改正されます。これまで、自動車運転者の利便に重きを置かれていた法律を自転車利用者や歩行者、乗馬をする人といった道路上の弱者を優先した法律に整備し直すものです。

たとえば、車のドアを開ける時にはドアから遠いほうの手を使って開けることを義務化することで、後方を見る習慣をつけることを運転手や乗客に課します。これにより、自動車のそばを通る自転車が突然開く車のドアに衝突する事故を防ぐことになります。

自転車利用の促進

サイクリング政策として新たな自転車専用道をイギリス中に整備するといったことはもちろんですが、今回はこれまであまり自転車を利用していなかった人でも自転車に乗ってみようという動機づけをするための対策がいろいろ考えられています。

たとえば、医者が肥満の人に治療の一環として自転車利用をすすめるようにしたり、子供から大人までを対象にサイクリングレッスンを提供するなどです。

さらに、さび付いたりパンクしたまま車庫に眠っているような中古自転車を修理、メンテナンスして活用してもらうために、自転車修理クーポン50ポンド(約6800円)を配布することも発表されました。

このクーポンは専用の申し込みサイトを通じて申請した人全員に配布される予定だったのですが、申し込みスタートと同時にアクセスが殺到してサイトがクラッシュ。その後再開されたものの、用意されていた5万のクーポンが数時間でなくなってしまったのだということで、人気度がうかがえます。

似たようなクーポン制度はフランスでも一足先に導入されましたが、こちらでも申し込みが殺到してパリでは自転車修理屋のウェイティングリストが長くて数か月待ちになっているとも聞きました。

イギリスのサイクリング熱

早くから自転車政策を導入してサイクリング先進国となっているオランダや北欧諸国に比べ、イギリスの道路ではまだまだ自動車が幅をきかせています。国内に大きな自動車産業があるのもその一因かも知れません。

イギリスでは自転車利用者は原則として自動車と同じように道路を通行しなければならず、いくら幅が広くても歩行者専用の歩道や車両通行止めとなっている道を通ると厳しく罰せられます(子供は歩道でも自転車通行を許されています)。

田舎道ならともかく、交通量の多い道路で自転車に乗るのは慣れない人には不安なものです。そのため、サイクリングギアに身を固め高価なロードバイクで突っ走る熟練サイクリストはいても、ママチャリのようなタウンバイクを「足」として短距離移動のために使う一般国民は少ないのが現状です。

イギリスではかねてからSUSTRANSなどのサイクリング推進団体やマンチェスター地域のサイクリング政策を手掛けている元五輪選手クリス・ボードマンなどの個人が、スポーツサイクリングだけでなく日常的な自転車利用が一般国民の間に広まるようにと様々な運動を続けてきました。

そのような地道な活動はこれまでなかなか日の目を見ませんでしたが、新型コロナウイルスの流行によって今、急に自転車利用にスポットライトが当たっています。

ロックダウン中に自動車交通量が減って安全になった道路でサイクリングを始めた人もいるし、ロックダウンが緩和されてからも公共交通機関を避けて自転車通勤するようになった人もいます。この機会をとらえて自転車利用を広めようとする人々にとっては、ジョンソン首相のサイクリング政策発表はまたとないニュースだったでしょう。

クリス・ボードマンはジョンソン首相の自転車政策発表のあと「この活動を20年続けてきたが、この日が来るとは思ってみなかった」と語っています。

ジョンソン首相の熱い自転車熱が追い風となりイギリスで自転車利用者が一般国民の間に広まるようになれば、たくさんの死者や重症者を出し、経済的にも大打撃を与え続けている新型コロナウイルスの影響としては数少ない「幸い」となるかもしれません。

https://globalpea.com/corona-taffic

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • Pocket
  • LINEで送る

SNSでもご購読できます。

メルマガ登録フォーム

* indicates required




コメントを残す

*

CAPTCHA