冬が厳しい北国のフィンランドではマイナス10度の気温でも自転車に乗って通勤、通学する人がいます。2月には冬季サイクリング会議が開催された北カレリアのヨエンスーの様子を紹介します。
冬のサイクリング
2月も下旬になってだんだん日は長くなってきましたが、まだまだ「春は名のみの風の寒さや」
イギリスは北国ですが気温はそう下がらず、今年は特に暖冬で雪もまだ一度くらいしか降っていません。 とはいえ、風が強い日が多く、冬の間はつい家にとじこもり外出も車に頼りがちです。
週末も、天気のいい日は田舎道でサイクリングを楽しむ人が多いのですが、先週末は雨と風のせいで人影が少なかったようです。
でも、イギリスよりもっと寒いフィンランドではマイナス10度の気温でも自転車に乗って通勤、通学する人がいます。
北カレリアのヨエンスー
2月に冬季サイクリング会議が開催された、北カレリアの州都ヨエンスー(Joensuu)はロシア国境から70kmに位置する街で、ヘルシンキからは450km離れています。
2025年までにカーボン・ニュートラルを目指しているヨエンスーでは、この目標を達成するためにも、自動車の利用を減らす必要があり、市民に徒歩や自転車利用を呼びかける取り組みをしてきました。
人口75,500人の街ではすべての交通のうちの20%が自転車で行われます。冬の間はこの割合が半分に減りますが、気温が零下になり、積雪もある地域としては、高い割合といえるでしょう。
自転車利用が多い理由として、地理的に勾配がないという利点もありますが、多くはヨエンスー市の長い取り組みのたまものといえます。その一つには自転車用のインフラが整っていることがあり、街中の道路のほとんどに専用のサイクルレーンが網羅されているのです。
ヨエンスーは積雪が多いところですが、雪は固まるため自転車で走るのは比較的容易です。この町ではサイクルレーンが道路と同じように整備されているからです。
冬季は新しく降った雪をのぞき、表面が滑らないようにみぞをつけたあと、粗い砂がまかれます。気温が零下のままなら雪の上を走るときでも、みんないつものタイヤをつけた普通の自転車を使っています。
ただ、温度が上がったりその後また下がったりすると、滑りやすくなります。このような場合は自転車のタイヤにメタルスタッズがついたものを使用したほうがいいということです。
自転車利用推進の理由
ヨエンスーが市民の自転車利用推進に力を入れている背景には温暖化対策として自家用車利用から排出される二酸化炭素の量を減らしたいということのほかに、市民の健康を願う思いもあります。
ヨエンスーが位置する北カレリア地域は喫煙、また肉や動物性脂肪に頼った食生活のため歴史的に心臓疾患率が高いところでした。喫煙率を下げ、食生活改善や運動推進に務めるなどの取り組みを行ってきた結果、20年間で心臓疾患率80%の減少に成功しました。
ヨエンスーでは自家用車に頼らず徒歩や自転車を利用して移動することを奨励しています。日常生活を送る中、特別な運動のための時間を取らずとも、適度に体を動かす習慣を身につけてもらおうという考えなのです。
フィンランドの取り組み
フィンランドは国全体としても、国民の健康を改善する取り組みを続けています。
フィンランドは国際的に比較して肥満率の割に死亡率が高く、これは心臓病が多いのが原因だとされています。これを克服するために食生活を改善するとともに、国民に運動習慣を身につけさせることに取り組んでいるのです。
フインランド人のサウナ好きは知られており、サウナには心臓疾患になるリスクを弱める効果があるという研究結果も出ています。けれどもサウナだけに頼るのには限界があり、日常生活の移動を車に頼らないことで運動量を増やすことを目指しています。
フィンランド政府は2030年までに徒歩と自転車利用を30%増やすという目標を立てており、そのためにも国民に自転車利用を奨励し、サイクリングレーンなどのインフラを整えることに力をいれているのです。
さらに、フィンランドはカーボン・ニュートラルの達成目標を2030年という早い時期においています。
フィンランドといえば、福祉や教育、女性進出などの分野でお手本とされることが多い国です。
この背景には、日本と同じくらいの面積の国に550万人という少ない人口しかいない小国で、貴重な人的資源をあますことなく活用し、すべての国民に活躍してもらうという考え方が根底にあります。
そのためにも国民一人ひとりが健康を保ち、働き続けて国を支えていく必要があるということでしょう。