通勤時間短縮やリモートワークのためのフレキシブルワーキング

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Work

日本の都市部で働く人は長時間労働に加え通勤が負担になっている人がかなりいます。イギリスでは、通勤時間を短縮したり、リモートワークを可能にするためのフレキシブルワークの制度が浸透しています。働く個人に便利な制度であるばかりでなく、通勤による公共交通機関や道路の渋滞緩和、環境負荷の軽減など社会全体に恩恵があることも理解されています。


イギリスの通勤事情

日本の都市部では片道1時間かけて通勤するのは特に驚かれませんが、イギリスでは通勤時間が片道30分を超えると長いと感じる感覚です。日本の都市部ではそれが2倍くらいになるのかもしれません。

都心の小さいフラットは敬遠され、郊外の庭付きの家に住みたいと希望するイギリス人は多く、特に家庭を持つとその傾向は増します。ロンドンに限っていうと、もはや狭いフラットでも平均収入層には手が届かない値段に高騰していて経済的にも手が出ないという人も少なくありません。

その上、子供のために評判のいい公立学校があるところを探したり、共働きともなると両親共に職場のあるところがかけ離れていたりして、どこに住むのか、通勤はどうするのかという問題は大きなものとなります。

さまざまな事情で職場から離れたところに住まざるを得ない人たちがよく利用するのがフレキシブルワークの制度です。通勤時間短縮のためだけでなく、育児や介護を含むいろいろな目的のために労働者が利用する制度として浸透しています。

イギリスのフレキシブルワークの制度

イギリスではワークライフバランスを実現するためのフレキシブルワーキングが政府によっても推奨されています。これは単に育児や介護のためだけにはなく、全ての労働者(その雇用者のもとで26週間以上働いている人が条件)がフレキシブルな働き方をすることを雇用者にリクエストする法律上の権利があり、雇用者はそのリクエストを「リーズナブル」なやり方で検討する義務があるとしています。

フレキシブルワーキングの例としてはジョブシェア、在宅勤務、フレックスタイム、またそれぞれの労働者が働きたい時間や曜日、期間を選ぶ方法などがあります。要は与えられた仕事さえできるのなら、一人一人が自分にあった多様な働き方を選ぶことができるということです。

その様々な形態を私が知っている事例も含めてご紹介します。

ジョブシェア

これは一つのフルタイムポストを2人がシェアすることで、通常は2日半ずつという方法になりますが、2日と3日というようにシェアすることもあります。

子どもが行っていた小学校のレセプション(幼稚園年長にあたる5才児クラス)の担任の先生がジョブシェアで、2日半ずつ受け持っていました。イギリスの小学校にはティーチングアシスタントと呼ばれる副担任のような先生がいて、その人がフルタイムだったこともあり、特に問題はありませんでした。

在宅勤務

ITが整備され、ミーティングさえオンラインですることができる今、どこにいても仕事ができる世の中になりました。都心にオフィスを持つとコストがかかるために地価の安い郊外にサテライトオフィスを持つところも出てきましたが、リモートワークを自宅でする労働者がいるというのはサテライトオフィスを無数に持つのと同じこと、しかもコストはゼロです。

私が働いていた職場(地方自治体の都市計画課)では毎日自宅で勤務という人はいませんでしたが、週に1~数日だけ家で働くという人はたくさんいました。私も産休のあと職場復帰するときに週に一度は家で働くという選択をしました。

また、一人で集中してしなければならない仕事があるときだけ家でするということもよくありました。オフィスにいると電話は鳴るし同僚が話しかけたりしてなかなか集中できないこともあるし、通勤時間が長い人は時間もかなり自由になります。電話もeメールもあるので、在宅でも連絡がつかないということもありませんから、特に困ることもありません。

職場では各人のスケジュールをコンピューターで共有していて、そのスケジュールを見れば今日は誰が休みで誰が在宅勤務なのかということがわかります。そのため、いちいち本人に確認しなくてもその人のスケジュールを見てあいている時間にミーティングを予定することもできます。

フレックスタイム (Flex Time)

フレックスタイムというのは働く人が一定の時間内であれば何時から何時まで働いてもいいというシステムです。

私の職場では7時から19時までだったので、私は普通7時から15時くらいまで働いていました。途中で引っ越したために通勤に車で1時間もかかり、朝はその時間帯でなければ交通渋滞に巻き込まれてもっと長くかかってしまっていたためです。逆に帰りも15時に出ればすいすいですが、16時半以降出ると渋滞したので、助かりました。

フレックスタイムでは1日少しずつ多めに働いてその過剰時間を貯金していき、それが1日分になったら1日有給休暇を取ることができるというようになっていました。これは通常の有給休暇に加えて毎月1日ほどずつ余分に休めるということなので、ホリデーや日本に帰るときなど1日休暇がプラスされて重宝しました。

コンプレストアワーズ (Compressed Hours)

これはフルタイムの時間を週5日たとえば7時間半ずつ働くのではなく、週4日だけ長い時間働くというものです。週の労働時間は35時間から38時間が普通なので1日9時間を4日働くと週36時間のフルタイム勤務になるというわけです。

私の周りにはこの選択をする人はいませんでしたが、平日どうしても働けない曜日があるという人には便利な選択肢といえます。

タームタイムワーク (Term-time Work)

これは特に子供を持つ親のためのシステムで、学校の学期中だけ働くという選択です。学校が春休み、夏休み、冬休みの期間は子供と一緒に過ごし、子供が学校に行っている間だけ働くことができます。
そのために1年を通しての勤務時間が短くなる場合はそれに相応して給料もパーセンテージで少なくなるということになります。

共働きの場合、子供が長期休暇に入ると誰が面倒を見るかということが問題になるのでこれはそういう両親にとっては便利なシステムです。

一人一人に合った多様な働き方

ほかにもさまざまなフレキシブルワーキングの方法があり、各職場により多様な働き方をする人がいます。

私の同僚には忙しい職場でばりばり働いたあと定年で退職したものの「ずっと家にいるのもつまらないので」パートタイムとして働くことになった男性がいました。職場としても専門的な知識や長年培われた経験をすでに持つ人材を比較的低コストで獲得することができたわけで、双方ともにメリットがあった事例です。彼は田舎に古いコテージを買って修復をしていたため、週に3日だけ職場に通っていました。

大学で働く私の友人は「趣味のアートや旅行を楽しむため」フルタイムから週4日勤務に変えてもらうようにしたそうです。給料は基本給の4/5となりますが、彼女にとってはお金より時間が貴重なのでそれがちょうどいいバランスだと考え、そうしたそうです。

以前は専業主婦にならざるを得なかった子育て中の女性でも、フレキシブルワークのシステムを利用することで働き続けることを選択する人が多くなりました。また、産休を終えて職場復帰する母親に変わって父親がフレキシブルワークを選ぶことによって交代で育児負担をするカップルもいます。

上司や一緒に働く同僚がそういう個人個人の事情や状況に理解を示してくれるのも、プライベートライフや個人主義を尊ぶ英国人ならではのことでしょう。イギリスよりもっと先を行っている北欧諸国なども含め、ヨーロッパでは当たり前になりつつある自由な働き方という考えは労働者のベネフィットというよりは働く人の権利であると考えられています。

社会全体への恩恵

フレキシブルワークは働く個人に便利な制度であるばかりでなく、労働者の満足度を高め、労働生産性を上げるシステムとして理解され、イギリスでは労働者が受けるべく当然の権利として浸透しつつあります。求人広告にも「フレキシブルワーク可能」を宣伝しているものをよく見かけます。

また、通勤による公共交通機関や道路の渋滞緩和、自家用車による通勤の軽減により環境負荷が減るなど、社会全体に恩恵があります。

そして都心にある職場ではなく、労働者の自宅がある郊外や地方などで働くことによって、地域の活性化にもつながる利点もあると様々なメリットが期待されています。

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