ロンドンの自動車規制:ULEZ(超低排出ゾーン)は選挙にも影響

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ロンドン中心部の交通渋滞を緩和するために渋滞税が導入されてから20年。2030年までにネットゼロを目標に掲げるロンドンでは、さらに「ULEZ」という交通規制が設けられましたが、今年このエリアが拡大されることになり、賛否両論。国会議員選挙の結果を決定づける争点ともなった規制とはどのようなものなのでしょうか。

欧州のLEZ

欧州各地で導入されているLow Emission Zone(低排出ゾーン)という都市交通政策は気候危機対応の重要政策の一つで、自動車交通からの排出量を削減するのが目的です。

国や都市によりその運用方法や制度は様々ですが、ディーゼル車や温暖化ガス排出量の多い旧型の車両の走行を禁止したり、段階的に規制対象エリアを拡大したり、規制対象の車両タイプを広げていくなどの施策がとられています。たとえば、オランダの首都アムステルダムなど、すでに古いディーゼル車の走行を禁止しているところもあります。

このような政策は、電気自動車などの購入助成もあいまって、新車販売に占める電気自動車やプラグインハイブリッド車のシェアが急拡大している理由の一つにもなっています。さらに、これまでの車重視の方針に背中を向けて、自家用車の代わりに徒歩や自転車利用を推進する国や都市が増える傾向にあることもその背景にあります。モータリゼーション以前からの歴史を持つ古い街が多いヨーロッパでは、こうなるのが自然の流れだったともいえるでしょう。

ロンドンの交通規制:渋滞税(CC)

2030年までに、CO2排出量を実質ゼロにすることを公約しているロンドン。この目標を達成するには、車の交通量を27%以上減らさなければならないと試算されています。今現在ロンドン市民が車を利用する移動のうち、1/3は徒歩で25分、2/3は自転車で20分以内のものであることからも、カーン市長は自家用車の利用を減らして、徒歩や自転車での移動を優先するという施策を導入しています。

ロンドンには2003年に導入されたコンジェスチョン・チャージ(CC/渋滞税)があります。ロンドン中心部に侵入する車両が対象で、当初は、車種を問わず一律5ポンド(約910円)でしたが、徐々に値上げされて今は15ポンド(約2700円)を支払う必要があります。はじめは平日(月曜日~金曜日)の朝7時から夕方6時30分でしたが、今はクリスマス以外毎日7:00~22:00の時間帯に料金が課されています。

それ以前のロンドン中心部の交通渋滞はひどいものでしたが、この税金導入のおかげで当初は渋滞が緩和され、バスやタクシーがすいすい走るようになっていました。けれども、そのうち交通は復活し渋滞が戻り、値上げしてまた少し渋滞が緩和されるものの、少し経つとまた元通りといういたちごっこ。渋滞税で徴収された税金はバスや地下鉄などの公共交通改善のために使われているので、貴重な収入源とはなっていますが、これだけでは渋滞は解消しないし、中心部の大気汚染も改善しません。

ロンドンのULEZ

この渋滞税に加え、ロンドンは2019年、市内中心部に「超低排出ゾーン(ULEZ)」を導入しました。対象となるのは一定の排出ガス規制を満たさない車で、12月25日クリスマス以外毎日24時間、対象区域内に乗り入れる場合に課金されます。排出ガス基準としては、ディーゼル車はユーロ6規格、ガソリン車はユーロ4規格に満たないもの。具体的にどのような車が規制対象になるのかは、ロンドン交通局サイトで確認することができます。

規制対象となる場合、3トン以下の車両は1日あたり12.50ポンド(約2300円)、大型車は大きさや種類により100~300ポンド(約18000~55000円)が課されます。この規制導入により、ロンドン市内中心部に乗り入れる排出ガス量の多い車は、1日あたり13,500台減ったそうです。

これまで、渋滞税とULEZが課税されるのはロンドンの中心部の小さい区域だけでした。けれども、カーン市長はULEZの対象区域を2023年8月29日から拡大すると発表しました。新エリアは、ロンドンの環状線的存在であるノース・サーキュラーロード(A406)とサウス・サーキュラー・ロード(A205)で囲まれた、M25高速道路内側ほとんどの市内全域となります。

https://tfl.gov.uk/modes/driving/ultra-low-emission-zone/ulez-expansion-2023

https://tfl.gov.uk/modes/driving/ultra-low-emission-zone/ulez-expansion-2023

交通局は、ULEZ対象エリア拡大によって、ロンドンのCO2排出量を13万5千から15万トン削減できると試算。また、ロンドンを走る排出ガス量の多い車は、1日あたり2万から4万台減ると推測。カーン市長は、これにより、渋滞が緩和され、大気汚染が改善し、ロンドン市民の健康に大きく寄与すると強調しています。

ULEZ拡大に賛否両論

カーン市長の肝いりでULEZの拡大が進められる一方、規制対象となる車に乗っているロンドン市民からは大きな反発の声が上がっています。特に、ロンドン郊外M25のすぐ内側にあるような場所に住んでいるマイカー族で、通勤や仕事のために車を日常的に使っている人にとって大きな問題であることは想像がつきます。

7月20日に、国会議員辞任を余儀なくされたジョンソン元首相のUxbridge選挙区の補欠選挙がありました。ジョンソン議員の後釜となる右派保守党候補はULEZを選挙の争点に大きく掲げて、左派カーン市長の政策を批判。結果的に、左派労働党候補を破って勝利となりました。この選挙区はロンドンの西側、M25のすぐ内側にあり、マイカー族が多く、ULEZ拡大に反対する人が多かったのです。このところ、イギリスでは世論調査で労働党が大きくリードしていますが、この選挙区で労働党が勝てなかったのは、ULEZが主な理由だと言われています。もともとULEZは保守党政府が導入したのですが、この選挙ではその拡大は左派のせいだとキャンペーンを張ることで票を勝ち取ったのです。

もちろん、ULEZ拡大をはじめとする交通規制や自転車徒歩利用推進派、環境改善や気候変動問題解決に積極的な市民もいます。ロンドンではコロナ以来、自転車利用が急速に増え、配達車代わりのカーゴバイクも普及が加速化。環境保護団体「ジャスト・ストップ・オイル」が道路を占拠するなどの抗議運動を各地で展開するなど、マイカー派との対決と分断が顕著になってきて、Brextによる分断をほうふつとさせます。

ほかの英都市でも交通規制導入計画

気候変動対策のための脱炭素化はイギリスのほかの都市でも推進されています。ロンドン以外の都市、例えば、バーミンガム、エディンバラ、マンチェスター、オックスフォードなどでも同様の排出ゾーン導入を計画。

グレイターマンチェスターではバーナム市長が一度民営化された市内の交通公共機関を再公営化し、市のシンボルであるミツバチを使ったBEE NETWORKプロジェクトを推進。バスやトラム、電車を使いやすいように整備したり、自転車レーンネットワークを拡大しています。

とはいえ、マンチェスターをはじめ、ロンドン以外の地方都市はどこもマイカー率が高く、ここでも自家用車派の反発は避けて通れないでしょう。ロンドンUxbridge選挙区のように、選挙にまで影響を受けてしまうかもしれないとなると、次回総選挙の勝利を狙う左派労働党はULEZに関してはあまり積極的に声を出せなくなってしまうかもしれません。

Just Stop Oilなどの環境活動団体の道路封鎖デモにも憤って、ドライバーが道路上の暴力行為に至るシーンも出てきています。環境派とマイカー派の対決が、EU離脱の戦いのときのように、イギリスを二分してしまうのではないかという懸念もないわけではありません。

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