イギリスで忌み嫌われるジャパニーズ・ノットウィード

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Japanese knotweed

イギリスでは「ジャパニーズ・ノットウィード(イタドリ)」という雑草が各地で繁殖して問題になっています。この雑草専門の駆除業者ができ、法律でも名指しで繁殖が違法とされ、被害額が年間270億円と言われるほど。日本ではそれほど問題になっていない植物がどうしてイギリスではこれほど目の敵にされているのでしょうか。

ジャパニーズ・ノットウィード

もう数十年前になりますが、イギリスの都市計画課で働き始めた時、自然景観保護専門の同僚からジャパニーズ・ノットウィード (Japanese knotweed) について聞かれました。そのころ、イギリスの野原や公園でこの植物が繁殖して問題となり始めていたのです。私が日本人なので詳しいと思われ、「どうやったら駆除できるのか?」と質問されたのですが、わかりませんでした。

調べてみると、この植物の日本名は「イタドリ」で「スカンポ」とも呼ばれ、薬草にも使われていたし、食用にもされています。繁殖力は強いものの、日本ではそれほど厄介な雑草として問題になっているわけではありません。どうしてそんな植物がイギリスでそれほどはびこっているのか不思議。

日本では外来種の「セイタカアワダチソウ」などの方が深刻な問題となっていて、それは結局、外来種にはその植物を食用とする外敵がいないし、病気も蔓延していないために生き延びる確率が高いということなのでしょう。日本にはイタドリを攻撃する昆虫類や病気があるために、適当にコントロールされているのだろうと推察し、「日本からこの植物を食べる虫を輸入したらいい」と冗談交じりに言ったものでした。「タデ食う虫も好き好き」ということわざについても説明したのですが、よくわかってもらえなかったかも。

その後、この「タデ」問題はイギリスでだんだんと深刻になってきて、専門の駆除ビジネスができ、法律で規制されたり、不動産の価値を左右するほどになりました。タデごときでどうして?

ジャパニーズ・ノットウィードの正式名

イギリスで「ジャパニーズ・ノットウィード(Japanese Knotweed)」呼ばれる植物の正式名は:

 Reynoutria japonica (syn. Fallopia japonicaPolygonum cuspidatum)

日本ではタデ科のイタドリという植物です。名前の「トリ」は鳥ではなく、「痛み取り」から転じているとのことです。根茎を乾燥させたものを虎杖根(こじょうこん)と呼んで、薬草として利用されてきました。「スカンポ」という呼び名もあり、新芽や軟らかい茎を食用にすることもあるそうです。

イタドリは日本原産の多年生植物で、成長がはやく、高さ2メートルほどに達します。夏にピンクを帯びた白い花が咲き、秋冬にはなくなりますが、毎年春になるとまた元気に育ちます。繁殖力が高く、種子や地下に伸びる根茎によって広がっていきます。

シーボルトが日本から欧州へ導入

この植物は、今から170年くらい前、江戸時代に日本に来たドイツ人博物学者シーボルトが日本からオランダに持ち帰ったとのこと。シーボルトと言えば、江戸時代の長崎に滞在した医者で博物学者として知られていますが、彼はプラント・ハンターとしても活動し、西欧では未知の植物を外国で収集していました。彼がまとめた「フローラ・ヤポニカ」にはユリやアジサイ、ギボウシなど日本の植物が150種紹介されています。

ジャパニーズノットウィードも、その美しい葉や夏に咲く花が魅力的だとして、欧州では庭園植物として栽培されました。1850年にはイギリスの植物園にも魅力的な観賞用の植物として導入。イギリス人はことのほかガーデニング好きで、今でもチェルシーフラワーショーなどに行くと新種の植物が紹介され、それを見た人が我も我もと自分の庭用に買って植える傾向がありますが、この植物もそうだったようです。

イタドリはイギリスの気候や土壌に合っていたのでしょう。繁殖力が強いため、庭から川沿い、野原などにだんだんと広がっていきました。雑草として駆除するために地上に出ている部分を切ったり抜いたりしても、地下に残った茎や根が繁殖して簡単には除去できません。草刈をして一見すべてを退治したと思っていても、土の中に地下茎が少しでも残っていれば、後日それが繁殖していくという、厄介な雑草であるということがだんだんわかってきました。

イギリスでの問題

今では、イタドリはヨーロッパ各地で外来種の雑草として問題とされています。国際自然保護連合(IUCN)の種の保全委員会が定めた「世界の侵略的外来種100」リストに入っているほどです。成長が早く、在来種の植生を脅かすだけでなく、コンクリートやアスファルトなどまでも突き破る繁殖力を持っています。ジャパニーズノットウィードはヨーロッパの自然保護地域や野生動植物の生息地で生態系に深刻な脅威をもたらしたため、多くの国で除去活動や管理対策が行われています。

イギリスでも、もう数十年前から自然保護専門家などにとってこの問題は顕著だったわけですが、昨今はその被害がさらに広がってきて、一般的にも知られるようになってきました。というのも、この植物が不動産に深刻な問題を引き起こしはじめたからです。イタドリの根が建築物の隙間に侵入し、根を張り広げた結果、建物の基礎や配管、アスファルトの隙間に損害を与えることも出てきました。このため、敷地内や近隣地にジャパニーズノットウィードがあることで、不動産価値に悪影響を及ぼし、買い手が引き下がることもあります。隣接する自治体所有の土地からイタドリが侵食して不動産価値が下がったと自治体を訴え、訴訟で買った人も出てきました。その自治体は損害賠償として30万ポンド(約5,000万円)を支払う羽目になったのです。

イタドリの被害額はイギリス全国で年間1億5000万ポンド(約270億円)と言われます。そのため、イギリス政府もこれを問題視して、1981年にはこの植物の繁殖させることが違法となりました。この植物を駆除する場合も、その茎や根を捨てるときには特別な許可が必要となります。

また、イギリスでは家を売る際にジャパニーズノットウィードが敷地内にあるかないかを申告する必要があります。ないと申告して、それがのちに虚偽であったとわかったことで20万ポンド(3,600万円)を払うことになった人もいます。

解決策と退治状況

ジャパニーズノットウィードに対する対策は非常に困難だと言われます。一般的な対策としては、適切な除草剤を使用してこの植物の成長を抑制すること。地上に出ている部分だけでなく根を枯らす必要があるため、葉から除草成分を植物内に吸収させ、根まで枯らす、グリホサート系の除草剤が主に使われます。

除草剤を使用してもまた再生する可能性もあるため、定期的な監視と管理が必要であり、早期発見と迅速な対応が不可欠です。これに加えて、一般国民の意識を高めるための啓発活動や、ジャパニーズノットウィードの侵入を防ぐための厳格な規制も必要となります。

イギリスではここまでしてもなかなか効果が拡がらないため、私が昔冗談で言った「蓼食う虫」の活用を本気で始めたようです。イタドリを餌にする虫を日本から輸入して、除去しようという試みです。

この虫は Japanese psyllid (aphalara itadori)、日本語ではイタドリマダラキジラミと呼ばれ、カメムシ目タデキジラミ科の昆虫。北海道から奄美大島まで広く分布します。体長は約2mmで、その姿はセミに似ています。幼虫から成虫までずっとイタドリを餌として生きていて、この虫に汁を吸われたイタドリは枯れていくとのこと。

とはいえ、特定の植物駆除のために害虫を導入するということには現地の生態系に及ぼす影響を注意深く考慮する必要があります。駆除目的である植物以外の生態系にまで悪影響を与えてしまう可能性があるからです。イギリスではこの虫がイタドリのみを加害し、他の植物には害を与えないということを調査した結果、この虫の輸入に踏み切りました。その結果がどうなっていくのか、今のところはまだわからないようです。

とはいえ、イタドリは虫でなくても食べられます。日本では、イタドリ類を「スカンポ」として人間様のごちそうにしている地方もあるとのこと。あく抜きが面倒なようだけど、フキみたいに使えるのでしょう。試してみようかしら。イギリスでもみんなでこれを食べるようにしたら、繁殖防止にも少しは役立つかもしれません。イギリスでよくパイに使われるルバーブ(Rhubarb)にも似ているし。

イタドリに罪はない

ジャパニーズノットウィードは、もともとはその外見の美しさのため日本からヨーロッパへ観賞用として導入された植物です。今はその広がりと繁殖力が問題となっているわけですが、そういう植物に「ジャパニーズ」という名前を付けて忌み嫌うような風潮に、コロナウイルスを「チャイナ・ヴァイラス」と呼ぶような人種差別的なニュアンスも何となく感じて、ジャパニーズである私には嫌な響きがあります。中国でも被害が甚大なコロナウイルスに比べ、日本では繁殖力の強いイタドリでもそれを食べてくれる虫がいるために、被害はそれほどありません。イタドリには罪はないのです。ジャパニーズにも。

問題は植物自体にあるのではなく、ヨーロッパの人々が自国の生態系への影響について考慮せず外来種を安易に導入したことや、その後の管理不備にあります。適切な対策と規制、科学的な研究を通じて、持続可能な解決策を見つけ出し、環境と生態系を保護することが必要。

一般的な教訓としては、どのような地域でも、植物であれ、動物であれ、外来種を持ち込むのには注意が必要だということ。自然の生態系というものは絶妙なバランスによって保たれているのだということを改めて認識させてくれる話ではあります。

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