地方経済に注力した地方創生成功モデル:海外の最新例(イギリス・プレストン)

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Preston's

グローバル経済の台頭でどの国でも全国規模、国際規模の大企業経済が地方都市の資本の多くを牛耳るようになっています。イギリスの地方都市でも店舗や金融機関、サービス経済において地元の中小企業が苦戦しており、地元に落とされるお金が地元に落ちないという結果になっています。これを地元のビジネスに還元し、それによって地域の経済振興を促すためにはどうしたらいいかを模索したプレストンの成功例を紹介します。

プレストン

プレストンはイングランド北西部ランカシャーにある古い街です。上位自治体であるランカシャー州(Lancashire County)の州都(日本で言うと県庁所在地のような役割)でもあります。2002年に市となりましたが、人口14万人ほどの小規模の都市です。

プレストンは産業革命時は綿工業を中心にして大きく発展しました。その後も電気やエンジニア、造船などの製造業で栄えましたが、1970年代頃からイギリス中に広がった製造業の衰退により地域経済が衰え、1980年の初めには失業者が急激に増えました。

地域経済の衰退と問題

プレストンの地域経済はずっと低迷しているままで、市の貧困率もイギリスの下位20%となっています。平均寿命も市内の裕福な地区では82歳ですが、貧困地区では66歳となっています。(イギリス平均は女性が82.9歳で 男性が79.2歳)また、イングランドの中で自殺率が一位であるという不名誉な記録もあります。

イギリスでは2010年に保守党が政権をとってから地方自治体への公的支出は減り続けており、プレストンも緊縮財政を余儀なくされています。2011年以来政府のプレストン市への補助金は3000万ポンドから1800万ポンドと実に半分近くに減っており、市の財政は大幅にカットせざるを得ない状態が続いています。

保守党政権の緊縮財政の下で地方への補助金が減り、同じような状況にいた他の地方自治体が民営化しようとする中、プレストンは「ゲリラ・ローカリズム」ともいえる特殊な方針を打ち出しました。

ゲリラ・ローカリズムとは

イギリスの他の地方都市と同じく、プレストンでは国規模または国際規模の大企業経済が街の資本の多くを牛耳っています。既存のショッピングセンターに入っている店舗はほとんどがロンドンや海外に本拠を持つチェーン店。飲食店もお決まりのマクドナルドやスターバックスなどが進出していて地元の個人経営店舗は苦戦。金融機関やサービス業経済も国規模、国際規模のものにとって代わっているため、雇用を提供してはくれますが、地元に落とされるお金は地元に残りません。

プレストンはこれを地元のビジネスに還元し、それによって地域の経済振興を促すためにはどうしたらいいか考えたのです。そのために目を付けたのは民間ではなく公的経済です。

プレストン地域の民間経済はしぼんでしまいましたが、市には数々の行政機関や公的機関があり、これらの予算を合わせるとばかになりません。2013年当時、公的機関が持つ予算のうち1/20しかプレストンに残らないということが分かりました。

公的予算を地元に落とす

この問題を何とかしようと、プレストンにある公的機関が協力し、公的予算を何とか地元で使うようにできないかと頭をひねりました。公的支出となるとイギリスおよびEUの規則に準じた、厳しい監査の下で行わなければなりません。このため、一定額以上の支出は競争入札をすることにより公平で一番経済的な方法で行うことになります。

けれどもこのような競争入札をすると、大きな契約は特に大規模な企業が獲得することが多くなり、地元の中小企業が入り込む余地があまりありません。長年の間大きな契約は市外の企業が獲得してきたため、地元の経済は衰退してしまっていて、地元企業は大きな仕事を請け負う力も経験もなかったのです。

競争入札の仕組みを工夫

ランカシャー州は2015年度に学校給食用食料を一つの大きい契約にするのではなく、小さいものに分けることにしてみました。それを競争入札にしたところ、ランカシャー農業生産物を使う地元の会社がそれぞれの契約を獲得しました。その結果、合計で200万ポンド(約3億9600万円)のお金が地元に残ることになったのです。

また別の契約では、競争入札基準にコスト以外の条件、例えば品質、スキルやトレーニング、アプレンティシップへの取り組み、地元の労働者や請負業者の採用、サプライチェーンの長さなどを導入することにしました。

2019年2月に完成した、プレストン・マーケットの改修工事は地元のコンロンという小企業が請け負いました。この契約で、コンロンは地元から5人の従業員と3人の新卒アプレンティシップを雇っています。

外注をインハウスで

コミュニティ・ゲートウェイはプレストンにある住宅協会(Housing Association:公営住宅を提供をする民間の非営利団体)で、6500戸を管理しています。これまでは住宅に関連する様々な仕事のほとんどを市外の大企業に発注していました。地元の弱小企業は大きな契約をとる経験や自信がなかったからです。

今は自社でできる仕事はなるべくインハウスで行うように努力しています。たとえば、これまで管理する建物の修理やガラスを切るのを外部業者に委託していましたが、それを自社でやることにしました。その結果コストはほんの少しだけ上がったものの、質は下がっていないということです。

公的予算が地元に

このゲリラ・ローカリズムに協力している公的機関にはプレストン市の他にランカシャー州、地元の大学、住宅協会、警察など6機関があります。

2013年にこの公的機関がプレストンで使った予算合計は3,800万ポンドだったのが2017年までに1億1100万ポンドになりました。この期間、これらの機関の予算が7億5000万ポンドから6億1600万ポンドに減ったのにもかかわらずです。

プレストン市でいえば、2012-13年予算のうち地元の会社に落ちたのが14%だったのが、2014-15年には28%に増え、たった2年間で2倍になったのです。

地元経済復興政策

プレストンでは地元の経済の復興のために、他にも様々な取り組みをしています。

2009年にプレストン市は北イングランドで初めてLiving Wage(生活賃金)雇用者となりました。生活賃金というのは最低限の生活の質を維持するために必要な賃金額を雇用主が導入する取り組みです。法的義務はないものの雇用主が自主的な取り組みとして導入していて民間企業ではイケア、バーバリー、など、公的機関ではプレストン市、ランカシャー州のほかにも数多くの自治体、教育機関、警察が導入しています。

プレストン市は2018年度、生活賃金として£8.75(約1296円)を定めており、市が雇用するすべての従業員およびエージェンシー・スタッフに適用しています。また、プレストン市にある他の雇用者にもこの生活賃金を適用するように奨励しており、適用企業のリストを公開しています。

地元コミュニティー所有のコープ

プレストンでは地元のコープも推奨しています。全国チェーンの大規模店舗は地方の個人商店を殺し、地元経済に貢献しないと考えているからです。

まず取り組んだのはアート・コープでした。2011年に地元のアーチスト3人がリバプールかマンチェスターにスタジオを持つことを考えていたのですが、市の援助でコープを設立し地元に残ることになりました。市が所有していた建物をアート・スタジオ用に無償で使い、過去数年間補助金なしでシアター、音楽、文学などの様々な展示やイベントを行ってきました。

プレストンでは他にもITや食べ物に関する、新しい労働者コープを設立しています。2017年には地元の労働者所有コープのネットワークを作る取り組みを始めました。

プレストン・モデルの成功

このような政策の結果、プレストンの地域経済は改善し、2010年から2015年にかけて貧困率が改善した地区として国内で2位になりました。

プレストンが地域経済のために行った数々の政策は「プレストン・モデル」と呼ばれ、全国から注目されるようになりました。労働党のコービン首相も称賛し、ロンドンのシンクタンクや他の地方自治体がプレストンを訪れたり、その秘密を教わろうとするまでになったのです。

さらに、プレストンは2016年には住んで働きたい市として北西イングランドで一番に選ばれました。プレストン市は特に仕事の見つけやすさや起業に適する環境があるとして高評価を得ました。

地域経済回復のためのこれからの課題

これまで見てきたように、プレストンでは様々な取り組みによって地域経済が回復し貧困率や失業率が改善してきました。しかし、まだ解決されていない課題はあります。

これまでは公的機関が協力して地元にお金を落とし、地域雇用を促進してきましたが、民間企業は手つかずです。これからは、市内にある民間のビジネスも同様に地元にお金を落とすように奨励していこうとしています。けれども、シティーセンターにあるチェーン店や銀行などはロンドンなど市外に拠点を置く企業やグローバルビジネスで、そのサプライ・チェーンが地元にお金を落とすことは至難の業です。

ますますグローバル化する民間企業が地元経済に貢献するための取り組みはプレストンにとってこれからの大きな課題となっています。

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