イギリスで家を売る:決めては手作りジャム

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Balfour Road house

イギリス北西部にある地方都市に15年住んでいますが、その間ずっと住んでいた家を売ることにしました。築後100年以上たつ一戸建てのヴィクトリアン住宅です。その事例を紹介しつつ、イギリスでの中古住宅の売買というものはどのように行われるのかを説明します。

イギリスの中古住宅売買プロセス

少し前に大学生の息子のために家を買うことについて書いた記事で、イギリスでの住宅売買について少しお話ししました。

イギリスでの家の売買は中古住宅が主流。100年以上たつ古い住宅でも維持改善しながら使うため、古い家でも快適な上に人気があります。新築住宅もあるにはありますが、古い家に比べると材質など薄っぺらに見え、素人目にも安普請という印象を与えてしまうようです。

我が家もですが、1900年前後に建てられたヴィクトリアン住宅は特に人気があり、不動産屋の広告には「Period Property」と書いてあります。下記は全国の売り家情報が載っているサイト。家の内外の写真や見取り図、説明が掲載されています。(庭など、敷地が載っていないし、ガレージについての言及もないのは不十分ですが)

https://www.rightmove.co.uk/properties/131642000#/?channel=RES_BUY

(注:このリンク先は家が売れた後は見られなくなってしまうと思います。)

15年前にこの家を買った時、今私たちがその家を売るためにしているのと逆の立場で、買い手としてたくさんの家を見に行きました。その頃はオンライン情報がなかったので、不動産屋に行って上記リンクにあるような家のチラシを何枚ももらい、そのうちこれはと思う住宅を見つけると不動産屋に見学のアポイントメントを取ってもらいます。

その中で気に入った家を見つけたら「この価格で購入したいです」という「オファー」を出し、それを売主が受諾したら売買のプロセスが始まります。売主は不動産屋と相談して希望販売価格を提示していますが、それよりも安い値段でオファーを出す人が多く、それに対して逆オファーを提示したりして最終的に中間くらいの価格で折り合うということが普通のようです。

15年住んだ我が家

我が家は100年以上たったヴィクトリアン住宅とはいえ、15年前の購入当時は修復改善工事をされた上に壁紙やペンキなど内装も完璧に仕上げたばかりの状態でした。ヴィクトリアン住宅というと、ぶあつい絨毯に壁紙といった重厚なインテリアスタイルの家が多い中、天然オークの床にニュートラルな壁で仕上げてあるデザインが気に入り、ここに決めました。

前の所有者がかなりお金と時間を投資して現代のライフスタイルに適した家に改善したあとなので、特に何もしなくてよかったということもあります。窓はオリジナルのステンドグラスが残るもののほかは、ガレージやアウトハウスまですべてUPVC樹脂の2重窓になっているので、防寒・防音・安全性も完璧。家全体を温めるセントラルヒーティング完備、キッチンやバスルームも最新式、昔は暖炉があったところには暖炉に見える電気ストーヴが備え付けてありました。

完璧な状態で買った家も、DIYが苦手で子育てと仕事に忙しい私たちは何も手を入れなかったため、今でもそのままのインテリアが年月を経て薄汚くなっています。また、単に薄汚いだけではなく、さまざまなところがいたんでしまっています。たとえば、煙突の外壁に草が生えていて、そこから水がしみ込んでしまうようで、部屋の壁にしみができています。そして以前バスルームで水漏れが起きた時にはがれてしまった1階天井の壁紙やペンキもそのまま放置状態。

このため、内装をやり直したり、15年経ったキッチンやバスルームを新しくしてからではないと家が売れないのではと不動産屋に相談しました。すると、そのような工事にお金と時間をかけても、買う人の趣味に合わないこともあるので、値段を安くしてそのまま売った方がいいのではないかということでした。こちらもその方が気が楽だし、買う人が自分の好きなテイストに変えるための土台として買う家にしてもらえればいいと思い、市場価格より安めの値段で売ることにしました。

家を見学に来る人達

売ることを決めたら、不動産屋が家のサイズやレイアウトをはかり、写真を撮って上記リンクにあるようなページを作成して公開されます。不動産屋から写真を撮りに来た人が「庭が広いですね」と写真を撮っていたのですが、冬なのであまりに殺風景。

「夏は花がたくさん咲くんですけど」と言うと、その写真を送ってくれというので、私が夏に撮っていた写真を提供したところ、不動産サイトに追加したようです。藤棚の写真など夏と冬とでは大違いで対照的。

Wisteria Pergola Winter Wisteria Pergola Summer

家の前に「For Sale」の大きな看板を出す人もいますが、家探しをしている人は不動産屋の情報からも売り家を見つけるので、今のところはそこまでしなくてもいいと思い、看板はことわりました。それほど興味がない人にまでじろじろ見られるのもいやなので。

そんなこんなで、売りに出てからすぐに見学の予約が入り始め、1週間で6組が家を見に来ました。その都度、家の中外を案内し同じことを説明するのですが、これを何度も続けなければならないのかと思うと、面倒でもあります。というのも、本気で買う気がないのに興味本位で見に来ているんじゃないかと思うような人もいるのです。とはいえ、私たちも家探しをする時、何十軒も家を見に行ったので、お互い様ということでしょうか。

私にとって残念なのは、庭に興味を持つ人があまりいないことでした。15年かけて育ててきた庭には愛着があるので、そういう人たちに渡したくないという思いがわきあがり、プランBを思いつきました。それは大きすぎるほどの南向きのガレージ(藤棚の後ろにある)を小さい家に改造し、道路からそこにつながるアプローチと裏庭部分を独立した敷地にして、自分たちがそこに住むというもの。これには都市計画許可が必要なので時間はかかりますが、近所にもそのような開発は時々見かけるので、許可はもらえそうな気がします。家にはかなり大きい前庭があるので、それだけでも十分だと思う人はいそうです。家部分だけ売るか貸すかしたらガレージ改造の費用もまかなえます。

手作りジャムで家を売る

このようなプランBを考えている時に、マークとアンという60歳前後の夫婦が家を見に来ました。今はマンチェスターに住んでいるが、今年リタイア予定なので、ゆったりした静かなところに引っ越したいということで家探しをしているそうです。2人暮らしならこの家は大きすぎるのではないかと思ったのですが、マークは趣味のコミックブックが数万冊あるため、広い家が必要なのだそう。

2人は家探しのため、あちこちの地域を回ったそうですが、なかなか理想の家に出会えていないということ。これまで見たところの多くはキッチンやバスルームがモダンスタイルでぴかぴか、庭はウッドデッキやコンクリードで埋め尽くされ、人工芝で覆ってあったりして気に入らないのだそう。この2人にとっては、薄汚れて見える我が家のキッチンが理想にかなうのだということで、モダンなキッチンがトレンドの今、人の趣味は千差万別だと改めて思いました。

何よりうれしかったのは、庭好きのマークが我が家の庭を気に入ってくれたことです。これまで見に来た人では珍しく庭全体を見たいというので、冬の殺風景な庭を案内し、これはリンゴの木、これは梨、ここは多年草の夏花壇、これは野菜畑、ここはベリーとカラントがあって夏にはジャムが作れると説明して回りました。今年の夏作ったジャムがたくさんあるので、それも一つお土産に渡しました。

翌日、2人はこの家が気に入ったのでもう一度家を見たいと、不動産屋ぬきで訪問。コーヒーを淹れて3人で1時間以上おしゃべりしました。2人の理想の家探しの顛末やマークのリタイア後のガーデニング予定などの話をするうち、この人たちになら、庭を譲ってもいいかなと思えてきました。その気持ちはお互い感じていたようで、その日の夜のうちに2人から直接メッセージが来て、この家を希望販売価格100%で買いたいと伝えられました。「ジャムがとってもおいしかった」とも。

Berry Currant Jam

売買成立までのプロセス

翌日、不動産屋からマークとアンから正式に希望価格通りのオファーがあったという知らせが来て、それを受諾する旨、伝えました。その後は購入者が専門家に家の調査を依頼し、問題がなかったら弁護士を通じて売買プロセスが進みます。自分が今住んでいる家を売り、その資金を使って新しい家を買う場合はプロセスが複雑になりますが、マークとアンは購入資金を既に銀行口座に持っているキャッシュバイヤーなので、シンプルです。

もちろん、家の調査によって思いがけない欠陥などが見つかるかもしれないし、査定価格が下がるかもしれず、まだどうなるかはわかりません。でも、このままスムーズにいけば、2か月くらいで引っ越しとなってしまう可能性もあります。となると、庭が美しい時期だし、今年は藤棚の藤を見ることができなくなるのかもしれないと思い、心が少し乱れます。花盛りの庭を手放すことはつらいだろうからと思って、家を売りに出す時期を冬にしたのですが、そろそろ春の兆しも見え始めて、そわそわしてしまうのです。

さて、これからどうなるのか。15年ぶりの引っ越しとなるのか、どうか。また経過を報告します。

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