
ロンドンの目抜き通り、オックスフォード・ストリート
オックスフォード・ストリート(Oxford Street)は、ロンドンを代表するショッピングストリートです。SelfridgesやJohn Lewisをはじめ、さまざまな店舗が立ち並び、買い物客や観光客でにぎわいます。
一方で、通りの様子はかなり混雑しています。自家用車、バス、タクシー、観光用の人力車、自転車、電動自転車、スクーターなどが、多くの歩行者と同じ空間に入り交じっています。渋滞税の導入などによって都心部の自動車利用を抑える取り組みが進められてきましたが、大きなダブルデッカーのバスやロンドン名物の黒いタクシーは今も頻繁に行き交います。
買い物客の多い土曜日などは、歩道から人があふれるほど混雑することもあります。通りを南北に横切る道路も複数あり、交差点では歩行者と車両の動きが交錯します。ロンドンを代表する繁華街である一方、歩行者にとって快適で安全な空間とは必ずしもいえません。
歩行者化構想は半世紀以上前から
この通りを改善しようという構想は、過去に何度も取りざたされてきました。1961年には「High Oxford Street」と呼ばれる構想が提案されました。道路の上に高架の歩行者通路を設け、動く歩道などを使って歩行者と自動車を立体的に分離するという大胆な案です。さらに、店舗の上階に接続する歩行者デッキなどさまざまな提案が登場しましたが、いずれも実現には至りませんでした。
その後も、バスによる混雑や限られた道路空間をどう改善するかが議論され、トラムの導入なども検討されてきました。オックスフォード・ストリートの再編は、長年にわたって構想されながら、実現が難しかった課題なのです。
2018年の頓挫から、再び動き出す歩行者化
歩行者化を本格的に進めようとしたのが、ロンドン市長のサディク・カーン(Sadiq Khan)です。カーンは2016年の市長選でオックスフォード・ストリートの歩行者化を公約に掲げ、2017年から2018年にかけて具体的な計画を進めました。大気汚染の改善や歩行者の安全確保、商業地としての魅力向上などが狙いでした。
しかし、2018年には、この地域の道路管理を担うウェストミンスター・カウンシルとの間で合意が成立せず、計画は頓挫します。市長がロンドン全体の交通政策や商業地の再生という観点から歩行者化を進めようとしたのに対し、地元自治体は周辺の交通や地域への影響を重視したのです。大きな構想を実現するには、政策の理念だけでなく、道路を管理する組織や地域との調整が不可欠であることを示した事例です。
今回、実現に向けて進んだ理由
2018年の頓挫を経て、今回の歩行者化計画が進んだ背景には、行政上の体制整備と、段階的に合意を形成するプロセスがありました。
1. 特別機関(OSDC)の設立による管理権限の移管
2018年に計画が頓挫した原因は、道路の管理権限を持つ地元自治体(ウェストミンスター・カウンシル)が計画に同意しなかったこと。
これに対しカーン市長は、英政府の承認を得て「市長開発公社(Mayoral Development Corporation: MDC)」という特別機関を設立しました。これがOxford Street Development Corporation (OSDC)です。これにより、自治体からオックスフォード・ストリート一帯の都市計画・道路管理権限を市(市長)側へと移管しました。
2. 「1日限定」の試験施行
2025年9月21日、カーン市長はオックスフォード・サーカスからオーチャード・ストリートまでの約800メートルを1日限定で歩行者専用にするイベント(試験施行)を実施しました。通りにアート空間やライブステージ、臨時の森(アーバンフォレスト)などを出現させ、「車のないオックスフォード・ストリートがどれほど魅力的か」を市民や事業者が直接体感できるものでした。
3. 世論調査とパブリック・コンサルテーション
2025年後半から2026年初頭にかけて市民や企業を対象とした大規模な意見公募が重ねられました。その結果は、回答者の約3分の2が歩行者化を支持するものでした。これも、一部の反対派政治家(ウェストミンスターの保守党グループなど)が法的手段で阻止しようとした動きを退け、計画を進める後押しとなりました。
こうした意見募集の結果などを踏まえ、2026年には歩行者化計画が具体化していきます。道路の管理・交通規制に関する権限の移管や、OSDCへの都市計画権限の移管も進み、計画を実施するための体制が整えられました。
もちろん、これですべての懸念が解消されたわけではありません。バスの迂回や周辺道路への影響、店舗へのアクセス、歩行者や車いす利用者にとっての使いやすさなど、実施後に確認すべき課題は残っています。
10月26日、いよいよ車両通行止めへ
2026年10月26日(月)から、オックスフォード・ストリートの中心区間、Selfridgesデパートがあるオーチャード・ストリート(Orchard Street)からIKEAがあるあたりのグレート・ポートランド・ストリート(Great Portland Street)までの約1キロメートルで、車両通行止めが始まります。バスやタクシーだけでなく、自転車などもこの区間を通行できなくなり、周辺道路へ迂回することになります。
今回の歩行者化は、一気に恒久的な大工事をするのではありません。まずは「バスや一般車、自転車を迂回させ、道路のレイアウトはそのままに、歩行者へ開放する」という試行。クリスマスライト点灯直前に始め、クリスマス商戦を含む期間に実際の使われ方を確認しながら、改善を進めるという段階的なアプローチです。その結果を反映した上で、2027年末に向けてベンチや休憩場所、植栽、案内表示などの整備、恒久的な工事を進めるという、現実的かつ戦略的なステップを踏んでいく予定です。
この取り組みは、単に車を通さないというだけでなく、通りを買い物や散策、イベントなどを楽しめる公共空間へと、利用者からのフィードバックを反映させながら整えていく試みでもあります。
歩行者化直前のオックスフォード・ストリート
私はエリザベスライン沿線に住んでいるため、ロンドン中心部に出かけるときはBond Street駅を利用することが多く、オックスフォード・ストリートには毎週のように足を運びます。
歩行者化を目前に控えた今日も訪れてみましたが、街の様子はいつもと変わりません。車も自転車も走り、デパートを出てすぐタクシーを止める人がいます。バス停には、さまざまな路線のバスを待つ人たちが並んでいます。この人たちは、数日後にはここからバスに乗れなくなることを知っているのだろうか。そんなことを考えながら、いつもの風景を眺めました。
10月26日から、オックスフォード・ストリートはどのように変わるのでしょうか。車両がなくなることで歩きやすくなるのか、人々が立ち止まって過ごせる場所が生まれるのか。いつものバス停がなくなって困る人や、どこでタクシーを止められるのか戸惑う人が出るのか。そして、迂回するバスや自転車、周辺道路には、どのような影響が出るのでしょうか。
歩行者化が始まったら、改めて現地を歩き、変化を確かめてみたいと思います。
参考:
Oxford Street Transformation, Mayor of London
Oxford Street area works, Transport for London
Pedestrianising Oxford Street, London Assembly
Development corporations, House of Commons Library






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