『2030年の世界地図帳』落合陽一著とSDGs(書籍解説)

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落合陽一の「2030年の世界地図帳」はSDGsについて語られている本で、それに関連してたくさんの情報や落合陽一なりのユニークな視点が書かれています。この本の主なトピックを取り上げ、私なりの解説を添えます。

SDGsとは?

この本の題名がなぜ「2030年」なのかというと、SDGsの目標が達成されるべき年だからです。
ではSDGs(エス・ディー・ジーズ)とは?

これは ‘Sustainable Development Goals’ の頭文字を取った略語です。

日本語でいうと「持続可能な開発目標」ということになります。

2015年9月の国連サミットで採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」にて記載されたもので、2030年までに持続可能でよりよい世界を目指すための国際目標です。

その前には2001年に策定されたミレニアム開発目標(MDGs)があったのですが、その後継となっています。

SDGSは17の大きなゴール、すなはち目標とそれらを達成するための具体的な169のターゲットから構成されています。

SDGS

このように、開発途上国から先進国まで、世界中に住む人みんなに関わりがある、包括的な目標だということがわかります。

このゴールを達成するために、国連では地球上の「誰一人取り残さない(leave no one behind)」ことを誓っています。

SDGsはすべての国の、政府だけでなく、民間企業や住民全員が取り組むべきユニバーサル(普遍的)なものなのです。

日本でも、政府を筆頭として数多くの民間企業や団体組織がこのゴールに向けての取り組みに参加しています。このロゴがついたポスターやバッジを見た方も多いのではないでしょうか。

この本はSDGsについてのくわしい解説本ではありません。その背景となる世界のさまざまな課題について、地図や表などの視覚的なデータを交えて書かれていて、抽象的な話にとどまらないため、難しい本を敬遠してしまうような人にも興味を持たせるような内容です。

5つのテクノロジー

落合陽一は5年以内に世界を変えるであろう、5つの破壊的テクノロジーをあげ、それぞれが私達の生活をどのように変えていくのかを説明しています。

その5つとは下記のものです。

1. AI(Artificial Inteligence)やRI(Remote Inteligence)
2. 5G
3. 自動運転
4. 量子コンピューティング
5. ブロックチェーン

このようなテクノロジーは食料、健康、資源、都市、労働などに大きな影響を及ぼすと、さまざまな例を上げています。

たとえば、培養肉が商品化され、農業ロボットにより農業が無人化され、医療業界でもロボットが手術をするようになる、太陽光や、風力、水素などの代替エネルギーが使われるようになるなど。

労働面では、AIやRIで先進国の中間層は仕事がなくなるため、格差が広がるだろうと予想しています。

また、少子化により日本全体で2033年に空き家率が30%を超え、2035年には地価の大暴落が起こるだろうとの予想もあります。その反面、大都市は密度の度合いを増し、AIによって管理され、自動運転や飛ぶクルマが実現化するというのです。

人口動態とGDP

彼は世界の人口動態を人口ピラミッドから予測し、各国のGDPの順位のランキングも2030年、2050年の予測を上げています。

GDPを見ると2016年では米中日の順ですが、2030年には中国が米国を追い抜いて1位になり、インドが3位になります。2050年には日本はインドネシアに抜かれ、ブラジルもおいついてくるだろうということです。

けれどもこれはあくまで予測とした上で落合陽一は自分なりの勢力図を披露するのです。

4つのデジタル・イデオロギー

彼はデジタル・イデオロギーを4つに分けて解説します。

1.アメリカン・デジタル
2.チャイニーズ・デジタル
3.ヨーロピアン・デジタル
4.サードウエーブ

アメリカン・デジタル

アメリカン・デジタルはイノベーションを中心とする自由資本主義のイデオロギーです。

それを代表するのはGAFAMと呼ばれる企業です。GAFAMはGoogle, Amazon, Facebook, Apple, Microsoftの略で「ビッグ5」と呼ばれる世界的なテック企業を指します。

チャイニーズ・デジタル

アメリカン・デジタルに対抗するのはチャイニーズ・デジタルです。国家の強力なバックアップのもと、デジタル技術やテクノ地政学を使いテクノロジーの覇者であろうとする中国。

これを代表する企業はBATHと呼ばれる巨大IT企業で、下記の4社を指します。

Baidu(百度、バイドゥ)、Alibaba(阿里巴巴集団、アリババ)、Tencent(騰訊、テンセント)、Huawei(華為技術、ファーウェイ)

ヨーロピアン・デジタル

アメリカン・デジタルとチャイニーズ・デジタルに対して第3の道とも言えるのがヨーロピアンデジタルに基づく資本主義です。

歴史が長いヨーロッパで培われた民主主義であり、新しいものを大量生産、大量消費して利益を追求するのではなく、法と倫理をもとにし環境や人権といった価値に重きをおき、量産よりも付加価値やブランドを重視するイデオロギーです。

サード・ウエーブ

4つ目は新興国で起こりつつあるイデオロギーで、アフリカや南米諸国などこれまで開発途上国とされてきた国々で作り出されているものです。

たとえば、先進国では金融市場やクレジットカードが発達しているがゆえにそれほど普及していないスマホ決済やキャッシュレス送金が、ケニアのMペサで代表されるようにアフリカ諸国で発達しています。

こういう、一歩先を行く技術が逆に先進国に輸入されるというリバースイノベーションさえ起きているのです。

既存の社会インフラが整備されず、「近代」がなかったからこそ、先進国が持っている技術よりも新しいテクノロジーが出現する可能性を秘めているのがこのサードウエーブであり、リープフロッグLeapfrog型の発展とも呼ばれています。カエルがぴょんぴょんはねているイメージですね。

 ヨーロピアン・デジタル

SDGsに沿った考え

この後、ヨーロピアンデジタルについてもう少し詳しい説明があります。というのもヨーロピアンデジタルは国連のSDGsの理想に沿ったイデオロギーなのです。

これまで、アメリカと中国は市場経済を重視して世界のトップに君臨し続けていますが、それに対抗するのがヨーロピアンデジタルの考え方です。

SDGsもその一例です。利益至上主義の市場経済ではなく、地球上のすべての人が面するさまざまな課題を解決していこうという包括的な考え方なのです。

これは、自国や一企業の利益のためなら環境が破壊されたり、個人の自由が制限されたり、労働者が搾取されたり、人権が無視されたり、格差が広がってもやむを得ないとするような利益至上主義の資本主義に対抗するイデオロギーです。

パリ協定

これに対してアメリカは反発しており、気候変動への国際的な取り組みを決めたパリ協定に関してもトランプ政権は離脱を通告しました。

トランプ大統領はガスや石油、石炭の排出を制限する協定は自国の利益に反するという考えを持っています。

GDPR

ヨーロピアンデジタルのもう一つの例として挙げられているのがGDPRです。これは ’General Data Protection Regulation’ の略で「EU一般データ保護規制」のことです。

EUがつくった個人情報保護の法律で、簡単に言うと、欧州連合内に住んでいる人にサービスを提供する企業が個人情報を勝手に持ち出すことを禁じるものです。

イギリスのEU離脱国民投票の際、Facebookが個人データを利用したことで問題になりました。このように、これまでGAFAMで代表されるITプラットフォームは私達の個人情報を集め続けているわけですが、これに対してアメリカ政府は特に対策をしてきませんでした。

そこで、ヨーロッパとしては個人の権利を守ることが大切だとして、反旗を翻したわけです。

これはGoogleやFacebookなどの企業への宣戦布告と言ってもいいかもしれません。というのも、違反すると全世界の年間売上の4%または2000万ユーロ(約26億円)という多額な制裁金が課されるのです。

ESG投資

昨今は資本主義といえども利益だけを追求するのではなくSDGsのゴールに沿ったやり方が優先されつつあります。

例えば「ESG投資」と言って「Environment 環境、Social 社会、Governance 企業統治」と言った観点からの投資をしようとする動きが広まっています。

具体的にいうと地球環境や労働環境、社会的倫理といった観点を重視し、持続可能性のある経営を行っている企業に投資しようという考え方です。金儲け目的だけで、崇高なビジョンを持たない企業は排除されていくというのもヨーロッパ的な考え方といえます。

このように考えると、これからの時代はヨーロッパ型のデジタルテクノロジーがリーダーシップを握るようになると考えられます。

日本が取るべき道は

落合陽一は日本がこれから取るべき道について自分なりの考えを展開します。

日本は米国や中国のように、世界を牛耳るプラットフォームや世界の工場となるべき産業を起こすのは難しいし、アフリカのように豊富な資源があるわけでもありません。

これまでのようにコストで競争する大量生産型の産業で、米中の開発戦争に参加して勝とうとするのはもう無理でしょう。

それよりも、それとヨーロッパ的な理念との間にあるブルーオーシャンを見つけ、そこで独自のテクノロジーにローカルな文化で付加価値をつけてブランド化していくのがいいだろうというのです。

それにはただ安いものをつくるのではなく、世界に通用するブランド、「資産」となり売るものを作って勝負すべきであるとし、スイスをお手本に上げています。

時計産業など、コストを下げて量産するのではなく付加価値をつけて高級ブランド化し、高い利益率を実現する産業構造をまねようというのです。

スイスには長い伝統があり、その伝統から生み出される商品は時がたつにつれて上がり、世界に通用する資産として扱われていますが、日本にも伝統や独自の文化があるのでそれが可能だと言います。

彼は「デジタル発酵」という言葉でテクノロジーと伝統を融合させ、既存のものから新しい価値を醸成するやり方を提唱しています。

きゅうりを糠につけるともともとのきゅうりとはひと味違った新しい美味しさが生まれるという感じでしょうか。

思えば、日本には昔から職人文化がありました。今や、百円ショップで日用品を買い、安い衣料品を買い続ける安物大量消費のもとで、そういう文化はすたれつつあります。

けれども日本に必要なのはそういう文化を大切にしつつ、それを今のテクノロジーや理念で「発酵」し続け、美味しいぬか漬けを作ることなのでしょう。

ところで、大量生産、大量消費にもつながりますが、日本人は新しいもの好きで服も家も車も新しいものが好まれます。

ヨーロッパでは、古いものを大切にして使い続けるという文化があります。家にしても新築の家は好まれず、古い建物に手を入れながら住み続け、生活スタイルが変わったら他の人に売り、新しい住人がまたその人なりに手を入れて何百年も住み続けます。

限りある資源を使い大切に作られたものを長い間使い続けるというのはヨーロッパ的な考えでもあり、SDGsにもつうじるものです。ヨーロッパでは最近、低賃金労働で作られた安い服を買わず、今ある服を使い続けようとする運動も広まっています。

日本にそういう成熟文化が根付くのかどうか、今のところはメインストリームではないと思います。

けれども一部ではそういう考え方をする人がいるし、落合陽一がヨージヤマモトの服を着ているのもそうなのかもしれません。彼はぬか漬けとファッションで自らの哲学を広める魔法使いなのかなと思いました。

ヨーロッパ精神を学ぶために

最後になりますが、ヨーロッパ精神を学ぶためという点で、イギリスに長く住む私の私論を述べます。

この本に書かれているようにヨーロッパでは利益第一の資本主義的な考えはよしとされず、民主主義に裏打ちされた法と倫理に基づいた理念が理想とされます。

けれども、そのために必要な基礎原理となることが多くの日本人には足りないように思えます。

それは、一言で言うとパブリック(公共)の精神といっていいかもしれません。

一人ひとりがコミュニティや国、また世界民の一員であり、自分や身内だけでなく、公のために行動するということです。「お上」からの権利を享受することを当然とせず、自分で考え、意見を言い、政治に参加することです。

お金儲けは一人でもできますが、みんなのためにルールを作りそれを守っていくことは1人ではできません。そのためにはただ権利が与えられるのを待っているのではなく、義務も果たすべきです。

そのためには、世の中でどのようなことが起きていて何が問題なのかを知る必要があるし、それに対して自分ができることは何なのかを考えないとならないでしょう。

自分がいちばん気になることは何なのか、それに対して自分にできることは何か、そのためには具体的にどのような行動を取ったらいいのか、一人ひとりが考えみるといいでしょう。

そのヒントとなるのがSDGs の17のゴール、169のターゲットかもしれません。

『2030年の世界地図帳』落合陽一の解説

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