リヴァプールが世界遺産登録を抹消される

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • Pocket
  • LINEで送る
Liverpool

イギリスのリヴァプールがユネスコ世界遺産登録から抹消されることが決まりました。世界遺産区域内の再開発が歴史的な景観を損なっているという理由です。どういう経緯で抹消されることになったのでしょうか。

ユネスコ世界遺産登録抹消

7月21日に中国で行われたユネスコ世界遺産委員会で、登録抹消が決まりました。世界遺産の登録抹消はこれまでにも2007年にオマーンのアラビアオリックス、2009年にドイツのエルベ渓谷の例があり、今回が3例目となります。

リヴァプールは18世紀以降国際的な港湾都市として栄えた街で、当時の海運倉庫や造船所などの建築物が数多く残っている「海商都市」地区が2004年に世界遺産に登録されました。

けれども、登録後に世界遺産区域内で行われた再開発にユネスコは懸念を示し、2012年には世界遺産危機リストに指定されていました。

その後もこの地域の再開発が続いたり、新しくフットボールスタジアム建設の計画も出てきたこともあり、今回最終的に世界遺産リストから抹消されることになったのです。

リヴァプール世界遺産

リヴァプールは大英帝国の最盛期には国際貿易の中心地として栄えましたが、その後は衰退産業とともにすたれていき、かつての産業建築物が廃墟として立ち並ぶところでした。1980年代に見た、オリンピック前のバルセロナにそっくりだと思ったものです。バルセロナはその後再開発が進み、見違えるような魅力的な都市になりましたが、リヴァプールは落ちぶれたままでした。

世界遺産区域内には、アルバートドックなど廃墟となった建築物が見事に改修されて、観光や文化に寄与するようになったものもあります。けれどもその陰には利用されないままの殺伐とした風景の空き地が広がっていたのです。

世界遺産抹消について市長コメント

世界遺産抹消の知らせを聞いて、リヴァプールのジョアン・アンダーソン市長は語りました。

「世界遺産抹消の決定にはがっかりしました。この地域は再開発による投資によって歴史的な建築物の修復が進み、当時よりずっといい状態にあります。」

ユネスコが現地を視察したのは10年前だそうなので、危機リストに指定された時なのでしょう。現在の状況を実際に見ることなしに抹消を決めるのは理不尽だということで、アンダーソン市長はイギリス政府と共にアピールすることを検討する意向を示しています。

リヴァプール地域ロザラム市長は
「リヴァプールのような街は歴史遺産と再開発を天秤にかけるべきではない。取り残されたコミュニティに住む地元民の職や地域経済発展と両立していくべきだ。我々はこれまでの再開発を誇りに思っている。」と語ります。

リヴァプール地元民の反応は

庶民的なリヴァプール地元民も世界遺産抹消についてはあまり気にしていないようです。それより地元で仕事の口が増えたり、世界遺産区域内に計画されているエヴァトン・フットボールクラブの新スタジアム建設の方が大切なのでしょう。

リヴァプールはつい最近まで「取り残された街」として衰退してきました。かつて若者の失業率が30%を超えていた頃は暴動まで起こり、サッチャーが「あの街は見捨てるしかない」とまで言ったところでしたが、再開発によって少しずつ改善してきたのです。

隣のマンチェスターが一足先に再開発でうるおってきたのを横目で見ながら、2008年に「ヨーロッパ文化都市」に選ばれたりして、少しずつ追い付いてきました。

かつてのビートルズもリヴァプールの労働者階級の家庭出身でしたが、地元民は地に足がついた庶民的な人が多く、自分たちが住み働く街に「世界遺産」という名前がついて外国から観光客が押し寄せるような「博物館」になることに魅力を感じていないようです。それより、地元民のための産業やサービスがあって、地域経済が潤う生きた街になることの方が大切だと思っているふしがあります。

開発と保存のバランス

とはいえ、世界遺産に登録されるほどの歴史的な建築物が残る地域を不適切な再開発で台無しにしてしまうのも問題ではあります。今も残る歴史的な遺産を大切にしつつ、その景観を損なうことのないよう、再開発は注意深くデザインされるべきです。

そのバランスをとることは困難といえども、不可能ではありません。かつての造船所が見事に修復され、テート美術館や海洋博物館としてよみがえったアルバートドックを見れば、それは明らかです。

これからリヴァプールがどうなっていくのか、引き続き見守っていきたいと思います。

 

リヴァプールの再開発についてはこちらの「地方創生:イギリスに見る地域活性化事例集」でも詳しく紹介しています。
他の街と共に地方創生・地域再生についてのイギリスの事例を集めた資料です。

日本の地方創生のヒントになる手法が載っているので、参考にしてください。
「地方創生:イギリスに見る地域活性化事例集」

SNSでもご購読できます。

メルマガ登録フォーム

* indicates required




コメントを残す

*

CAPTCHA