イギリスの都市計画制度の骨幹となっているものが各地方自治体によって制定されるDevelopment Planディヴィロプメント・プラン(開発計画)です。これは各地方自治体が正規の手続きを踏まえて制定することを義務付けられており、その地域の都市開発のかなめとなっています。
Development Planとは
Development Plan ディヴィロプメント・プラン(開発計画)は対象地域内の都市計画を決定するための基幹となるマスタープランです。
イギリスの都市計画制度はすべての開発行為を都市計画許可によって規制するというものですが、個々の開発行為一つ一つの申請を考慮するにあたっての共通の基準というものがないと、担当者の裁量にゆだねられ公正かつ公平な決断が難しくなります。
それであらかじめ市民のコンセンサスを得た街づくりの政策方針を決めてDevelopment Planに明記し、それに合っているかどうかを照らし合わせることで個々の申請が考慮されます。原則としてプランにあっているものは許可、そうでないものは特別な理由がない限り却下されるというわけです。
こういう仕組みになっているため、Development Planはイギリス都市計画制度の骨幹となる重要な役割を持っているということができます。
Development Planの種類
このDevelopment Planは、それを作成する地方自治体の階層や種類によって次のものに分けられます。
- Structure Plan ストラクチャー・プラン(構造計画)
- Local Plan ローカル・プラン (地方計画)
- Unitary Development Plan ユニタリー・ディヴィロプメント・プラン(統一開発計画)
それぞれのプランがどういうもので、誰が作成するのかということについてはイギリスの地方自治体のシステムを理解しないと説明ができません。
イギリス(ここではEngland)では日本の都道府県にあたるCounty(カウンティ)、その下に市にあたるDistrict(ディストリクト)という自治体があるという2階層になっているのが普通です。けれども、都市部にはCountyとDistrictを合わせた複合機能を持つMetropolitan Authority(メトロポリタン・オーソリティ)という自治体があるのです。
それぞれの自治体がどのようなDevelopment Planを作っているかは下記の通りとなります。
地方自治体 | Development Planの種類 |
County | Structure Plan |
District | Local Plan |
Metropolitan Authority | Unitary Development Plan |
Countyは地域全体の大まかな政策にかかわり、都市計画申請プロセスなどの業務はおもにDistrictが行います。よって、Countyが作成するStructure Planは地域全体にかかわる大まかなポリシー、例えば道路交通網や大規模産業の設置などについてカバーします。
それに比べDistrictが作成するLocal Planは市内全域における土地利用のゾーニングを含んだ、より詳細な都市計画政策が盛り込まれています。個々の都市計画許可申請のベースとなる政策はおもにLocal Planに含まれています。
都市部にあるMetropolitan Authorityが作成するUnitary Development PlanはStructure PlanとLocal Planを合わせた内容になっています。
Development Planの内容
それではDevelopment Planはどのような内容になっているのでしょうか。Development Plan作成の手順や詳細についてはそれぞれの自治体にまかされるため、自治体によって様々な形式、内容があります。各自治体の独自性により例外的なものもあるのですが、ここでは一般的なものを紹介します。
実際に都市計画許可申請制度の基盤になるLocal Planについてみていきましょう。
Local Planが示す期間としては、むこう最低15年間の都市計画政策をカバーする必要があります。とはいえ15年のうちには状況も変わってくるため、おおむね5年ごとにレビューを行い、必要箇所を変更していくことになります。
Local Planは通常、文書とプランから構成されています。これらの情報はできる限りデジタルツールでアクセスできることが望ましいとされており、最近はほとんどの場合インターネットで見ることができるようになっています。
Local Plan 文書
Local Plan 文書は住宅、産業、地域経済、交通運輸、インフラストラクチャー、リクリエーション、自然保護、景観デザインなど大まかな分野に分けられ、それぞれの分野ごとに細かいポリシー(政策)が示されています。
現在の状況や各市が優先する街づくりの目標、作成されるDevelopment Planがカバーする期間の人口予測や経済予測などをもとに市が目指す街づくりのガイダンス政策が分野別に記載されているのです。
それでは具体的にはどういうことが書かれているのでしょうか。たとえば、住宅分野を例にとったとしましょう。
まず現在の住宅事情の需要と供給や人口密度、人口増加予測を踏まえた上で、既存の住宅の空き家率はどれくらいでそれを活用するためにはどうするか、新しい住宅はどの程度必要か、必要なのはどういうタイプの住宅か、Affordable Housing(低価格住宅)はどの程度必要か、宅地建設に必要な土地はどこが適当か、その場合その近くに学校や公共交通機関、必要なサービスがあるのかといったことなどがカバーされます。
同様に、住民に雇用機会を産む企業を誘致するための産業用地をどこに指定するか、それに必要なインフラはどうするか、住宅地と産業用地を結ぶ運輸交通事情は適切なのかなど様々な政策が網羅されます。
とはいえ、実際に行われる開発のほとんどは民間業者によって行われるので、Development Planで示される政策は強制的なものではなく、あくまでガイダンスです。
けれども、このようなガイダンスなしで民間企業や土地所有者の要望のままにまかせていると、地域全体の利益にならない開発や、市全体から見て一貫性がなかったり重複する開発が許可されるという可能性も出てきます。
例えば人口が減っているのに大規模住宅建設が許可される、実際の需要にマッチしないタイプの住宅や産業が開発される、インフラが整わない土地や自然保護のために重要な場所に工場が建ってしまうというというように。
新しい開発計画が起こった時にDevelopment Planに基づいてそれが適切かどうかを決めることで、市が決めた目標に合致した開発だけが許可されることになるのです。あらかじめ決まったルールが明確に示されていることは、開発を考える民間業者にとっても無駄なプロセスを経ずに開発予定を検討することができるという利点もあります。
Local Plan 図面
Local Planには通常、文書で書かれた政策を補足するために地域全土の各エリアのポリシーを示す図面がついています。
この図面を使い、中心市街地、住宅地など現在の状況を示すとともに、既存の指定地区(たとえば保存地区、自然保護地区など)や交通網などがプロットされ、その上に新たな計画を誘致または優先するための区域が示されます。
それらの区域は文書で書かれた政策に紐づけられていることが多く、区域指定のための根拠の説明などの詳細情報を文書で読むことができます。
Development Planの策定プロセス
Local PlanなどのDevelopment Planは誰がどのようにして策定するのでしょうか。Development Planを作成する自治体には都市計画課があり、この中のPolicyという部署が担当することが普通です。都市計画課には専門の国家資格(王立都市計画学会員 Royal Town Planning Institute)を有する専門家がいて、これらの都市計画家(自治体に勤務する場合はPlanning Officerと呼ばれることが多い)がDevelopment Planの策定にあたります。
策定の手順としては次のようなプロセスがあります。
- 事前調査
- 仮プラン作成
- コンサルテーション(公開諮問期間)
- 本プラン作成
- 検査官(Planning Inspectorate)にプラン提出
- 検査官の報告→必要な場合はプラン修正
- Development Plan 策定
- レビュー
調査をして仮のプランを作成し、それを関係者や一般市民に広く公開して意見を募集し、それに基づいて本プランを作成。それを政府のエージェントであるPlanning Inspectorateに提出します。検査官は都市計画の専門知識を持ち、都市計画許可申請のアピール(上訴)を取り扱ったり、中央政府にアドバイスする機能を持つ機関です。
検査官は提出されたDevelopment Planを検査しそれについてレポートします。問題がなければ認められますが、場合によっては修正を余儀なくされることもあります。このようにして検査官に承認されることでDevelopment Planが正式に策定されることになります。
策定されたDevelopment Planはその後の都市計画許可申請の基盤となるなどの効力を持ちます。しかし、何らかの理由でプラン作成の時と状況が大きく変化した場合などにはアップデートの必要があるかもしれません。このことから、プランが正式に策定されてから最低5年ごと、必要な場合はもっと早い時期にレビューが行われることになっています。
5年ごとにDevelopment Planをレビューをし、アップデートの必要がないと判断すれば、その旨を発表します。何らかのアップデートや一部修正が必要な場合はその予定を発表したのち、その予定に従って必要な変更を行うことになります。それからも、最低5年に一度、もし必要となればそれより早くレビューをしなければならないとされています。
Consultation(コンサルテーション)
Development Planの策定にあたって、市民や関係者から意見を募るコンサルテーションは大変重要なプロセスとなっています。なぜなら、Development Planは策定されたらその後何年もその街の都市計画政策のかなめとなるものなので、広く市民の合意を得たものであるという民主的な裏付けが必要だからです。
それでは、どうやって意見をつのるのでしょうか。内外の関係団体(政府や近隣自治体、関連公的機関、NPO、住民団体、コミュニティグループなど)には事前調査や仮プラン作成段階から協議しながら各政策を練っていくことが普通です。
パブリック・コンサルテーションと呼ばれる一般市民への意見募集は仮プランができてから広く行われることが多いです。その形は自治体によって異なりますが、一般的には広報やオンライン情報、地方紙への広告などでDevelopment Planについて広く告知し、意見を募ります。
市内の複数の地区で何度も説明会や公聴会を開いたりインフォーマルな市民参加イベントを開催する自治体もあります。このようにしてできるだけたくさんの人に参加を促し広く意見を募る努力を惜しみません。多くの人に関心を持ってもらいプラン作りを共有することによって、市民の合意を得た街づくりのガイドラインを作るのがそのねらいです。
都市計画プロセスの骨幹となるマスタープラン
このようにDevelopment Planはそれぞれの街の都市計画のもとになるマスタープランです。どんな開発計画でもまずこのプランに沿っているかどうかが第一のテストになります。このプランに適合していない開発は却下されるか、プランとは異なるが例外的に認めるべきだという明確な根拠を示さなければ許可されません。
このためには基盤となるマスタープランが関係者や市民みなのコンセンサスを得たものなければならないし、そうであることを認知してもらう必要があります。そのために幅広いコンサルテーションプロセスがかかせないのです。
このような手続きを経てDevelopment Planを作成するにはかなりの時間や手間暇がかかります。けれども皆の意見を募って決めた明確な政策というものがないと、個々の開発の是非を決める場合に民主的な決定ができなかったり、一貫性のない開発が許可されてしまうという可能性が出てくるかもしれません。
街づくりをする上でできるだけ民主的で公正な判断をするために、Development Plan制度は都市計画許可申請制度と共にイギリスの都市計画制度の骨幹を作るものと言えます。
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