今年10月19日に東京都心では気温30℃以上となり、統計開始以来、最も遅い真夏日となったそうです。そんな都心でも、街路樹があるおかげでひと時の日陰や涼しさの恩恵を受けることもできます。世界中で樹木の重要性が叫ばれていますが、東京ではなぜか樹木が減っているという研究結果が出ています。
10月の真夏日と街路樹の恩恵
日本の夏が暑いのは当たり前だとしても、近年は10月になっても酷暑が続ということ。10月19日(土)、東京都心で午後1時30分過ぎに気温30℃以上の真夏日となったという記事を読みました。統計開始以来、最も遅い真夏日を観測したことになるそうです。そんなに暑いのでは、外で仕事をしなければならない人にとっては過酷な毎日なのだろうと察しました。そんな1人であろう、東京都中央区の観光ボランティアの一人による「銀座の街路樹に、お礼申し上げます」という記事を見つけました。
「銀座の街路樹」
このコラムは中央区観光協会のメンバーが書いているそうですが、前後編に分かれてつづられた記事に銀座の街路樹への愛があふれているのを感じました。というのも、多くの人が冷房の効いた室内にいる夏でも、この筆者は観光ガイドのために外を出歩かなくてはならないのでしょう。酷暑のなかで銀座の街を歩くにあたって、日々、街路樹のありがたさを身に染みたということです。
「9月に入っても厳しい暑さが続く今日この頃。今年の夏ほど、街歩きをしていて街路樹の有難さを感じたことはありません。この2か月余、たいへんお世話になっている銀座の主な街路樹を、「中央通り」を中心に紹介させてください。」から始まって、銀座の街路樹を一本一本紹介しています。東京のど真ん中の銀座ですが、様々な種類の街路樹があり、それが真夏の熱波をやわらげ街歩きをする人にひと時の涼を恵んでくれていることがわかります。
失われる東京の緑を憂う外国特派員
そんな恩恵を与えてくれる都会の樹木ですが、銀座は例外なのかもしれません。
「私が思う日本」第107回では、英誌エコノミストのデイビッド・マックニール元東京特派員が、東京の街から徐々に緑が失われることを憂い、世界の潮流と逆方向をいっている東京の政策に疑問を呈しています。
緑が多く公園が近くにあるという理由で三鷹に住んでいたマックニール一家ですが、近年、近所の古い家が壊され、新しい建物が建てられたり、緑豊かだった庭がコンクリートで舗装されることが増えていると懸念しています。緑の減少とコンクリートの増加は都市部では特に問題であり、暑さや洪水の原因にもなるからです。
ロンドンの最近の報告書では、庭をコンクリートで固めた住民に課金する提案もされています。報告書によると、ロンドンはすでに暑さの影響で年間約5億7700万ポンドの損失があり、適応策がなければ2050年までにGDPの2%から3%が失われる可能性が指摘されているのです。ロンドンの夏の暑さなんて日本に比べたら涼しいものなのですが。
イギリスだけでなく、世界中の都市で、緑を減らして土地をコンクリートで固めることはよくないという考えがようやく浸透してきて、今や常識になりつつあります。それは都市が暑くなるだけでなく、地面が大雨を吸収できなくなり、洪水が増えることも意味するからです。都市の樹木はヒートアイランド現象緩和、雨水の吸収、大気汚染対策、熱中症予防など、さまざまな恩恵を与えてくれます。特に記録的な熱波のような異常気象は、最も弱い立場の人々に深刻な影響を与えます。世界資源研究所(World Resources Institute)によれば、気候変動により、2100年までに世界人口の半分から4分の3が生命を脅かす猛暑に見舞われると予想されています。
ほかの都市に比べ、緑が少ないとされてきたパリでもパリ五輪を機に、「グリーンでクリーンなパリ」に生まれ変わりました。ロンドンでもニューヨークでも、都心の目抜き通りに緑を増やし、車を減らして歩ける街にする計画が発表されています。外国特派員の目から見ると、世界の潮流と逆を行っている東京が異様に見えるようです。「こんなに暑い都市なのに」と。
英語版原文記事
Life in Japan: Why is Tokyo shrinking its green spaces amid a climate emergency?
東京の緑が減っているという研究結果
東京大学の研究論文では、衛星画像を使って調査したところ、2013年から2022年までに東京の樹冠被覆率が1.9%減少したことという結果を報告しています。樹冠被覆率というのは、土地の一定面積のうち高木の枝葉が覆う面積の割合を示すものです。これが2013年には9.2%だったのが、2022年には2022年には7.3%にまで落ち込んでいるのです。東京の緑地面積がもともと下位にランクされている(例えばロンドンよりはるかに低い)ことを考えると、これは壊滅的な損失です。
この研究によると、樹木被覆の損失が最も多かったのは住宅地で、一戸建て住宅(39.8%)、道路(14.7%)、教育・文化施設(10.8%)、公園(10.4%)と続きます。樹木被覆の減少の主な要因は、民間住宅開発、都市再開発、公園、道路沿い、教育・文化施設の樹木の撤去。
前述したとおり、都市の緑化については世界の各都市が目標を持って向上に取り組んでいます。他方、東京都は樹冠被覆率の目標がないばかりか、すでにある樹木が伐採され続けているままにまかせているのが現状のようです。東京大学の調査では、実態としても被覆率が約2割も減少したことが分かっています。これでは、東京が暑くなるはずです。
東京の緑を守るのは?
おりしも、再開発が問題になっている神宮外苑で樹木の伐採が始まったのこと。この件に関して「まちづくりにおける市民参加」について書いた記事でも紹介しましたが、ロンドンではF1レーサー、ルイス・ハミルトンが自宅の庭にある枯れかけていた木を1本切ることに一般市民から猛反対の声が上がるほど。けれども日本では樹木伐採反対の声はあってもそれは少数であり、行政や事業者の計画に影響を及ぼすほどではないようです。その結果、街路樹や公共空間の緑が損なわれたり、これまで公共に開かれていた公園が民間の利益と結びついた形で開発されたりといったことをよく見聞きします。
それに疑問を呈し、緑を守るのは一人一人の市民のはずなのに、東京の住民はそんなことに関心を持たないようだと、このイギリス人特派員は宇宙人を見るような目で憂えているのです。イギリス暮らしが長いわたしも、東京都民が宇宙人に見えてきます。