イギリス政権交代:労働党政府の環境・エネルギー政策

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2024年7月4日に行われたイギリスの総選挙で、野党労働党が与党保守党をやぶって14年ぶりの政権交代となりました。今年は世界的に大きな選挙が相次ぐ年でもあり、欧米諸国では脱炭素に背を向けるポピュリズム的な右派の台頭が懸念されています。そんな背景でイギリス新政府の環境・エネルギー政策はどうなるのでしょうか。

イギリス総選挙と政権交代

イギリスでは7月4日に総選挙が行われ、予想通り野党第一党の左派労働党(Labour Party)が与党である右派保守党(Conservative Party)をやぶって2010年以降、14年ぶりの政権奪還となりました。

イギリスの政治形態は日本と似た立憲民主制で、総選挙で勝った政党が内閣を作って政治を行いますが、野党もShadow Cabinet(シャドウ・キャビネット/影の内閣)を作って政府の政策をチェックし、代案を提供する役割をします。健全な議会政治においては、野党は政府の批判をするだけでなく、政策立案能力も必須であるという考えに基づいていて、政権交代となると影の内閣がそのまま政府の内閣となり、すぐにでも政策実践を行うことができます。

その陰の内閣でエネルギー安全保障大臣を担当していたのは、労働党内で長く要職を務めている、経験豊富なエド・ミリバンドで、新政府でそのまま大臣になるでしょう。労働党は選挙前から公約として政策を発表していて、新政権がどのような方針なのかはだいたいわかっているので、それを紹介します。

労働党の環境政策

ミリバンドは「保守党政府は気候変動対策を遅らせようとする人たちに同調している。私たちは国として、そして世界として進路を変えなければならず、選挙は進路を変えるチャンスだ」と語っていました。スナク前首相率いる保守党がロンドンのULEZ(超低排出ゾーン)拡大に反対するなどして、脱炭素化を目指す環境政策から及び腰になっていたことに対する批判です。労働党が政権を握ったら、保守党のネットゼロ方針転換で生じた「空白」を埋めると約束していました。

労働党は、緑の党(Green Party)などに比べると、気候変動対策や環境保護などに関してはまだまだ穏健であり、保守党に譲歩するような場面もありました。たとえば、ガスボイラーの販売を2035年に禁止するという計画をエネルギー危機のあおりを受けて、保守党が撤廃した点など。しかし、労働党は気候変動問題を最優先課題に据えるとし、選挙後に議会が再開したらすぐに陸上風力発電の禁止を撤回するなどの具体的な行動を約束しています。

ミリバンドは気候変動問題は国内だけのことではなく、イギリスが世界のリーダーシップをとって取り組まなければならない国際的な課題であるとも語ります。これは、世界中のポピュリスト右派との戦いの最前線であるという考え方です。

欧州の右傾化による環境政策

欧州議会の選挙では、右派ポピュリズム政党が伸長し、フランスやドイツなどでも、自国第一主義を掲げ、気候問題に消極的なポピュリスト右派が台頭しています。 フランスではマリーヌ・ルペンが率いる極右の「国民連合」、ドイツでは右派の「ドイツのための選択肢(AfD)」が躍進しているほか、ハンガリーの右派与党「フィデス」、イタリアやオーストリアでも右派勢力の支持が増えていて、国政選挙で伸長しています。国際的な場面で環境政策のリードを取っていたEUも、加盟諸国の右派拡大による右傾化が進むと、これまで通りの政策を続けられるのか懸念されているのです。

欧州だけでなく、米国でもトランプ率いる共和党が勝つようなことになると、またパリ協定を脱退するような「アメリカ・ファースト」路線に戻るのは明らか。さらにカナダやオーストラリアなど気候問題に関する進歩的な同盟国をも失う可能性があることから、イギリス政府が国際的に担う任務の大きさは増すというわけです。

労働党の環境分野におけるマニフェスト

とはいえ、景気低迷が続くイギリスで労働党が真っ先に掲げるのは「国の経済を再生して国民を豊かにする」政策です。「Green Prosperity Plan(グリーン繁栄計画)」に充てる予算も、当初予定していた280億ポンドを150億ポンド(約3兆円)に縮小せざるを得なくなっています。厳しい財政事情のなか、「一般庶民への増税は行わない」方針をうたう労働党がどれだけのグリーン政策を実現することができるのか、悲観的な見方をする人もいます。代わりに、大企業や富裕層、外国人向けの税負担を増加して財源に充てるとしても、結果的に人や資本が外国に流出してしまい、収入が逆に減ってしまうリスクもあるのです。

唯一の明るいきざしといえば、世界中が右派ポピュリズムに翻弄されているように見える中、イギリスではまともなリベラル政党が右派長期政権をついに倒して政権を担うことになったということでしょうか。気候変動問題はイギリスだけでなく世界的な緊急課題であり、「環境先進国」であった欧米各国が右派にとって代わられる様相を見せている中、イギリス新政権が国際的なリーダーシップを取って取り組むという覚悟を見せているのには期待できるかもしれません。

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