神宮外苑の再開発案について書いてから1年。2022年2月当時はほとんど知られていなかった計画ですが、その後、反対署名、メディア掲載、再開発を懸念する市民や議員、有識者らの行動のおかげで、認識が高まってきました。先日は坂本龍一が小池知事に反対する手紙を送ったと報道されていました。
明治神宮外苑再開発
渋谷や新宿など東京都心の貴重なオアシスとなっている明治神宮外苑は風致地区として指定され、樹齢100年以上の木々が立ち並び、都民の憩いの場となってきました。しかし、東京五輪会場として国立競技場を建て替えるという名目で、風致地区内の15メートル高さ制限や都市計画公園としての用途制限が緩和されました。
その結果、地上40階建て、高さ185メートルの高層ビルを建てたり、既存の神宮球場と秩父宮ラグビー場を取り壊し、ホテルが併設される14階建て高さ60メートルの新球場を新築、青山通りに38階建て高さ190メートルの高層ビルを建てるという計画が作られました。
この再開発のためには樹齢100年を超える既存の樹木約1,000本を伐採する必要があり、新たに植樹を行うとしても大きく育つまでは何年もかかります。ユネスコの諮問機関である「イコモス」は、はやくから計画の見直しを求める要望書を都や事業者に提出したほか、代替案も発表しています。
が、2022年末に、抜き打ちのように行われた環境アセスメント審議後、2023年1月に事業者が提出した環境影響評価書を受けて、小池都知事は計画を承認しました。これで、事業着手が可能になり、予定通りに行くと工事は3月下旬、第2球場解体から始まるということになっています。予定では、完成は2035年、総事業費は3490億円ということ。
これを受けて、明治神宮外苑再開発事業について、周辺住民などおよそ60人が都に対し認可の取り消しと、賠償金を求める訴えを東京地方裁判所に起こしました。「イチョウ並木などおよそ3000本を上回る歴史的な木が伐採され景観が損なわれるほか、風害や騒音で生活にも影響が出る」と主張しています。
坂本龍一の手紙
神宮外苑再開発について
坂本龍一さんから小池都知事への手紙https://t.co/7F2YSnHXIp pic.twitter.com/dv6OQSU55F— グローバルリサーチ(都市計画/地方創生/SDGs) Global Research 🇬🇧 (@GlobalResearc16) March 18, 2023
神宮外苑再開発案については多くの市民が反対を表明していますが、その中には著名人も含まれます。今回、音楽家の坂本龍一が神宮外苑再開発の見直しを求める手紙を東京都小池知事に送ったということが公表されました。
これまでの記事
私が神宮外苑再開発について知ったのは、市民グループ「神宮外苑を守る有志ネット」が、2022年2月に神宮外苑地区都市計画案について東京都都市計画審議会および都市整備局への要望書を提出したと聞いたのがきっかけです。(「神宮外苑の緑と空と(Facebook グループ)」)
このグループと協力して神宮外苑再開発を見直す署名の準備をしていたロシェル・カップと連絡を取り、下記の記事を日本語と英語で寄稿しました。
この記事に神宮外苑の歴史や再開発の背景についてまとめてあります。
1000 Trees to be Felled in Tokyo’s Jingu Gaien Garden
当時、これほど大規模な再開発、しかも東京都心の日本人なら、そして日本を知っている人なら世界でも有名な公共スペースでの再開発案について、あまり知られていないことにまず驚きました。家1軒建つのでも、樹木1本切るのでも、多くの人に告知し意見を求めるイギリス式に慣れてる私には、異様なのです。
それで、神宮外苑に限らず、広くまちづくりや都市計画における市民参加の在り方について書いたのが下記の記事です。
日本人は自分たちが住む街、環境について、もっと関心を持つべきであり、政府や自治体、事業者が公共の財産であるみなの環境に悪影響を与えるような案を指をくわえてみているべきではありません。あとになって後悔しても、伐られた木や高層ビルによって切り取られた空は戻って来ません。
自分が所有しているものではないから何もできないという人もいますが、車や家と違い、公共空間や景観は所有権とは関係なく「みんな」のものです。そして、所有権は私物化ができますが、開発権は市民の代表である自治体などの公的機関が市民の声を聞いて決めるべきものです。
それは、今を生きる私たちの環境を守るためでもあり、同時にこれからの世代により良いものを引き継ぐ責任という意味でも考えるべきだと考えて書いたのが下記の記事です。
私たちにできること
神宮外苑再開発案について、ここに上げたさまざまな情報を読んだうえで、見直しを求めることに同意する人がいるかもしれません。
そういう人が次の行動としてできることとして、既に多くの人が賛同しているオンライン署名があります。
去年の2月から始まり既に12万人の署名が集まっているものに加え、今年になってから秩父宮ラグビー場と神宮球場を守ろうという署名もそれぞれ立ち上がっています。
その3つのリンクを下記に紹介します。
個々の開発案や樹木伐採について、個人的に思い入れがある場所なら関心があっても、そうでない場合、自分とは関係のないことだと考えてしまう人もいるかもしれません。が、これは一つの事例にすぎません。
これをきっかけにして今、日本で行われている街づくりの在り方について考えてみてはどうでしょうか。それが当たり前だと受け入れている人は海外の例を見てみてください。都市計画に市民参加が当たり前となっている国は多く、そういう国では一般国民のまちづくりに対する関心は高いのです。
でないと、いつか自分自身の環境が脅かされることになる日が来るかもしれません。
(敬称略)