日本では住居というとまず一戸建てかマンション・アパートという大きな仕分けがありますが、イギリスでは戸建てにも3種類のカテゴリーがあり、マンション・アパートといった集合住宅にも様々な形態のものがあります。イギリスの都市計画、住宅政策、不動産を語るうえで欠かせない、住宅形態についての基礎知識を説明します。
イギリスの住居:所有形態による違い
まず、大まかに分けて住居者がその不動産を所有しているのか借りているのかの違いがあります。
住んでいる人がその土地や建物と言った不動産を所有している場合を「フリーホールド(Freehold)」と言い、借りている場合を「リースホールド(Leasehold)」といいます。
フリーホールド(Freehold)
フリーホールドは建物、土地ともに所有権を持っている場合で、不動産所有所のことをフリーホールダー(Freeholder)と呼びます。
新規に家を購入するイギリス人の多くはモーゲージ(mortgage)と呼ばれる住宅ローンをもらって家を購入します。
リースホールド(Leasehold)
賃貸しには様々な形態があり、一つの物件を99年と言った長きにわたって借りることもあれば、すぐに解約できる短期リースもあります。
リースホールドとはいってもその期間が999年などに及ぶものもあり、そのような契約は所有と同じ扱いです。建築物を改築したりするのも自由だし、不動産売買に関してもフリーホールドと同じように売買できますが、フリーホールダー(不動産所有者)にグラウンドレント(地代)を支払う必要がある場合もあります。
リースホールドは所有者の種類によっても分けることができます。
カウンシル(Council)
第2次世界大戦後の住宅不足の時「ゆりかごから墓場まで」の福祉政策の一環としてイギリス政府が行ったのは地方自治体に補助金を出して「カウンシル・ハウス(Council House)」と呼ばれる賃貸し目的の公的住宅を建てることでした。
「ハウス」と言っても形態はフラットから戸建てまでいろいろなものがあります。地方自治体が管理し、家賃は住居者の収入に合わせて決められるため、ほとんどの住居者は市場の家賃よりも安い値段で暮らすことができます。
カウンシル・ハウスは80年代のサッチャー保守党時代の住宅政策により多くが売却されており、その後は新築もほとんどないため、その数は極めて少なくなってます。もともとカウンシル・ハウスとして建てられ民間市場に出回ってる物件を「ex-Council(エックス・カウンシル)」と呼んだりします。
ハウジング・アソシエイション(Housing Association)
地方自治体が公的住宅を建てなくなってから、その存在が目立ってきたのが「Housing Association」と呼ばれる住宅協会です。小規模なものから大規模なものまでその形態はさまざまですが、政府の補助金も受けて半官半民のような形で「アフォーダブル(Affordable)」(比較的安価な)住居を提供しています。
プライベート(Private)
最近ではイギリスの賃貸し住宅はほとんどが民間の業者によるものです。これも個人が貸す小規模の物から大手企業が扱うものまで様々です。
レント(家賃)は市場価格なので、ロンドンなどでは高騰し続けており、若者や低収入層が都心に住めなくなると言った問題が年々深刻になってきています。
共同所有(Shared Ownership)
最近になって主にHousing Associationが導入しているのが「シェアード・オーナーシップ」と呼ばれる住宅所有形態です。1戸の住居(家やフラットのユニット)をHousing Associationと共同で所有するものです。
例えば10万ポンドの住居を住居者が5万ポンド分だけ購入し、後の半分はHousing Associationの所有のままで住み続け、残り5万ポンド分を何年かかかって支払い続けます。その支払いが終わった時点で所有権が100%居住者にうつる仕組みです。
住居の保有率、年月や利率などの支払いの仕組みはそれぞれ異なり、ケースバイケースで最適な条件を話し合うことができるのが普通です。
これは、通常の方法では住居を購入することが困難な若い人や低所得者層のために導入された制度で、利用するためには様々な条件が付いてくることが普通です。
イギリスの住居:建築形態による違い
戸建て(ハウス)
住居の建築形態によっての違いもあります。
まずはいわゆる「戸建て」、英語にすると「ハウス」とうことになりますが、これにはいろいろ種類があります。
デタッチト・ハウス(Detached House)
「デッタチト・ハウス」とか、略して「デタッチ」と呼ばれる一戸建てです。このタイプの家が価値も一番高いと言えますが、そのサイズ、形態、価格にはピンからキリまであります。
ベッドルームは4部屋以上ある大きい家が多く、ドライブ(駐車場)、ガレージなどがあり庭も敷地も大きく余裕があるのが普通です。家や土地自体も大きいのですが、内装についても部屋のサイズもそれぞれゆったりしていて、天井も高くとられていることが多いです。
土地に余裕がないと建てられないため、都心にはあまり見られず郊外に多く建てられています。ヴィクトリア時代からの物が目立ちますが、最近建てられるものでも伝統的なデザインで建設されることが多いです。
セミ・デタッチト・ハウス(Semi Detached House)
「セミ・デタッチト」は略して「セミ」と呼ばれる、イギリス特有の住居形式です。
2軒で一戸を形成する家屋で、建築物の真ん中を半分に割った形になっています。ほとんどが左右対称のデザインですが、のちの改築増築などで片方だけ異なるデザインになっているものもあります。
外から見ると、前庭の真ん中も壁で仕切ってあって、一見戸建てのように見えることもありますが、全く独立した2件の住居です。
「セミ」には2階部分に3ベッドルームあるものが多いようです。最近ではガレージやドライブ(駐車スペース)があるのが普通です。
テラス・ハウス(Terraced House)
3軒以上の家が連なっている長屋形式の住居。「長屋」というと貧相なイメージがあるかもしれませんが、2~3ベッドルームがあり、庭付きの住居がほとんどです。
前庭がなく歩道から直接住居に入る形のものも多く、その場合は駐車スペースがありませんが、ほとんどのテラスハウスは裏に共同の通路がついています。
端にある家は「エンド・テラス」と呼ばれ、セミデタッチと同様に扱われることもあります。
バンガロー(Bungalow)
一階建ての平屋で、高齢カップルが住むことが多いのが特徴です。バンガローはあまり数が多くありません。
イギリスの住居:集合住宅(フラット・アパートメント)
パーポス・ビルト・フラット(Purpose Built Flat)
日本でみられるマンションのような集合住宅で、3階以上ある高層住宅に様々なサイズのフラット(アパートメント)ユニットに分かれているものです。
共同の玄関があり、ポーターと呼ばれる管理人がいるところもあります。1件の集合住宅の中でも部屋の間取りやサイズ、価格など様々なものがあり、売買物件と賃貸し物件が混じっていることもあります。
メゾネット(Maisonette)
いわゆる「複層住戸」で、数は多くないですが時々見られる形式です。集合住宅の中を2層ユニットに分けて住むデザイン。それぞれの住戸の中に階段があって1階と2階部分が使えるようになっています。
コンバージョン・フラット(Conversion Flat)
もともとは大きな一軒家だった建物や他の目的で建てられた建築物を改装して集合住宅にしたものです。
外から見ると集合住宅に見えないものも少なくありません。1階部分のフラットは庭もついていることがあります。
イギリス人の多くはモダンな建物よりも古い建築様式を好むので、サイズは小さくても古い建物に住みたいと言った人たちに人気があります。
イギリス人の住宅に関する考え方
イギリスの持ち家率は高い
「イギリス人にとって家は城である」と言われますが、イギリス人は住むところに関心が高く、持ち家率も65%を超えます。
とはいえ、イギリス人は同じ住宅に一生住み続けるわけではなく、人生の段階に応じて異なる種類の住宅に引っ越すのが普通です。それは賃貸し住宅を引っ越すというよりは、売買を繰り返すということの方が一般的です。
イギリスの住宅物件は新築が少なく中古物件の売買がほとんどなので、家もリサイクルされるのです。
イギリス人の人生ステージと住宅
俗に「Housing Ladder」と呼ばれる、イギリス人の典型的な住み替えサイクルは次のようになります。
- 子供の頃は両親とともに庭付き戸建て住宅に住む
- 大学入学や就職で一人立ちしてからは賃貸しのフラットに移る
- ある程度の収入を得るようになったり、パートナーと一緒に住むようになったらフラットやテラスハウスなどの低価格住居をローンで購入
- 家族が増えるとその住居を売却し、より大きなセミやデタッチを購入
- 子どもが巣立つと大きな家を売り、バンガローやフラットを購入して差額を老後資金にする
このように、イギリス人にとっては家を購入することが「財テク」につながり、老後の安定も見据えた人生サイクルの投資になるのです。だから、イギリス人は「住宅のはしご」の最初のステップに足をかけようとします。
住宅価格の高騰で若者が家を買えなくなる問題
最近のイギリスでは住宅価格が高騰して若者や低所得者層が住宅を買うのが難しくなってきています。
下記の図を見てもわかるように、高年齢者層の持ち家率は上がってるのに、34歳以下の持ち家率は下がる一方です。
家を購入できないだけでなく、借りるにしてもロンドンなどの都心部では家賃が高騰して家計費を圧迫するという状況の若者や低所得者層が後をたちません。
ロンドンをはじめとする都心部ではホームレスの数も増え続け、最近は通りに横たわる人たちの姿を見るのが日常の風景になってしまっています。
「イギリス人の城」である住居を若者や貧困層も含めてみなが享受するためにはどうしたらいいのか、政府はこの問題の解決を迫られ、さまざまな政策を模索しています。その取り組みについては下記の記事を参考にしてください。
https://globalpea.com/housing