イギリスには都市計画家という職業があり、これは建築家とは別のものです。都市計画家になるには大学の都市計画科で学び経験を積んだうえで国家資格をとらなければなりません。
イギリスの都市計画家
イギリスがほかの多くの国と違っているのは、都市計画家という職業が確立していることです。ほかの国では建築家やそのほかのプロフェッショナルが都市計画を担当していることが多いのですが、イギリスの都市計画家は建築家とは別の分野として確立されています。
建築家が個々の建築を設計デザインするのに対し、都市計画家は全体の計画や、街並み、自然保護、交通、土地の利用用途、広く地域社会経済への影響などを考慮する仕事に携わります。
このためには、専門の教育やトレーニングが必要になり、通常は大学の都市計画科で勉強してから仕事を始めます。
大学の都市計画科
イギリスには都市計画を専門に教えている大学がいくつかあります。イギリスの大学は通常は3年課程なので3年で学士資格を取ることができます。都市計画の国家資格を取るためには、さらにもう1年都市計画の勉強をしなければならないため、大学の都市計画科のコースはだいたい4年間です。
大学では都市計画の各専門知識のほか、社会学、経済学、法律、エコロジー、環境学、アーバンデザイン、ランドスケープデザインなど様々な知識を学習します。
また、建築そのほかの関連部門での学士を持つ人は大学院で都市計画専門の修士課程を取る方法もあります。
卒業後、都市計画の仕事をして経験を積んだのち、国家資格を取るようになっています。
王立都市計画協会 RTPI
イギリスで都市計画家と名乗るためには、英国王立都市計画協会/ロイヤル・タウン・プラニング・インスティテュートRoyal Town Planning Institute (RTPIと略される)が認める国家資格を取得する必要があります。
RTPIのメンバー(Member of RTPI/MRTPIと略される)になるには、同協会に承認された大学都市計画課程終了後、都市計画の仕事を2年以上する必要があります。資格が取れる条件が整ったらメンバーになる申請をしますが、その時には申請者の過去の経験や現在の仕事状況を証明できるRTPIメンバーによる推薦が必要になります。
それまでにしてきた仕事内容や実績、大学での成績などを申請書に書いて、RTPIメンバーの推薦書と共に提出。RTPIの審査の結果、承認されると Chartered Town Planner または MRTPI(Member of Royal Town Planning Institute) という肩書を名乗ることができるようになります。
現在、RTPIのメンバーは約25,000人います。
都市計画家の仕事
イギリスの都市計画家はどこで働いているのでしょうか。
まず働く業界によって大きく分けることができます。RTPIのメンバーである都市計画家のうち、59%は地方自治体などの公的機関で働いています。民間で働いているものが30%、そのほかチャリティー団体などで働いているものが9%となっています。
地方自治体
イギリスの都市計画は原則として地方自治体レベルで行われ、市や県にあたる自治体には都市計画課があり、そこで多くの都市計画家が必要とされます。
県レベルでも広域にまたがる政策に携わりますが、通常の都市計画許可などの業務はほとんど市レベルで行われています。
市の都市計画課は通常、政策に携わる Policy 部門、プロジェクトを行う Implementation 部門、都市計画許可申請を担当する Development Control 部門と分かれます。(名称が多少異なることもあります。)
都市計画家の中でもこの分野のどれかに専門化することが多いです。またその中でも、たとえば Policy の住宅部門とか、Implementation の自然保護部門とか、専門とする分野が分かれています。
都市計画審査官/プラニング・インスペクター Planning Inspector
都市計画許可には上訴(アピール)制度があり、アピールのケースを扱っているのが都市計画審査庁(プラニング・インスペクトレート)です。ほかにも、国家レベルのインフラなど大規模工事の都市計画申請を扱ったり、地方自治体が作成するマスタープランを審査する役目があります。
プラニング・インスペクトレートは中央政府が管轄するエージェンシー機関となっており、そこで働く都市計画審査官(プラニング・インスペクター)は大臣から指名されます。
スタッフは全国で700人、これに100人のコントラクトスタッフがいますが、これは事務職員などを含む数字で、資格を持つ都市計画審査官は約260人となっています。イングランドのブリストルとウェールズのカーディフに事務所があり、事務スタッフは主にこのいずれかで働いています。資格を持つ都市計画審査官は在宅ベースで仕事をしている場合が多く、個々のケースに応じて自宅から出張して業務を行っています。
民間コンサルタント
都市計画家は民間のコンサルタント会社や建築会社などでも働いています。都市計画専門の民間コンサルタントも多く、その規模は都市計画家一人でやっているところから大手の企業までさまざまです。
小規模なところでは、地元の住宅の新築、改築の都市計画許可申請などを請け負っています。大規模なところでは、専門の都市計画家、弁護士、建築家、サーベイヤーなどさまざまな職種のスタッフをもっており、大きなプロジェクトやリサーチなどに携わっています。