2026年3月22日、パリ市長選で中道左派・社会党のエマニュエル・グレゴワールが当選。前市長アンヌ・イダルゴ派で、これまでの環境重視・車中心からの転換路線が継承されることに。結果判明後、仲間と自転車で市庁舎入りし、当選後最初の発信でも自転車に乗る姿を示したことが、パリの方向性を端的に象徴しています。
パリ市長選:環境路線の継承が明確に
今回の選挙では、「車か、人か」という対立が改めて争点となりました。その中で選ばれたのは、これまでの政策を引き継ぐ候補でした。グレゴワール氏は公共交通の拡充、自転車道ネットワークの強化と安全化、駐車料金の見直し、カーゴバイクの活用などを掲げています。いずれも自動車依存を下げ、都市空間の使い方を変える施策です。
つまり今回の結果は、前イダルゴ市長の路線を続けるという意思表示といえます。
イダルゴ期の都市改造:交通・都市計画・緑化
パリの変化は、単発の施策ではなく、都市構造全体に及ぶものでした。まず交通政策として、市内の大部分で時速30km制限が導入され、駐車スペースが削減される一方、自転車レーンが大幅に拡充されました。
これは「道路を誰のために使うのか」という問いに対し、歩行者と自転車を優先する方向へ明確に舵を切ったものです。結果として街路空間の性格そのものが変わりつつあります。
都市計画の面では、「15分シティ」の考え方が軸となりました。生活に必要な機能を徒歩・自転車圏に集約し、移動距離そのものを減らすという発想です。
これは交通需要を前提とした都市から、生活圏を再構成する都市への転換であり、交通政策と密接に結びついています。
さらに、緑化と公共空間の再編も進められてきました。シャンゼリゼ通りやエッフェル塔周辺の整備、大規模な植樹、公園や広場の拡張などです。
これらは景観の問題にとどまらず、気候変動対策や都市の滞在価値の向上にも直結する施策であり、パリオリンピック2024を契機に加速しました。
ロンドン:ULEZと選挙で問われた交通政策
ロンドンでも同様に、「車から人へ」の転換が進められてきました。サディク・カーン市長は、渋滞税に加えULEZを導入・拡大し、自動車利用に明確な制約を課しています。
これは排出ガスの多い車両に課金する制度であり、交通行動そのものを変える強い政策です。
このULEZ拡大は選挙でも大きな争点となり、「環境か生活コストか」という対立が表面化しました。補選では反対候補が勝利する場面もあり、政治的な摩擦の大きさが示されています。
それでも本選ではカーン市長が再選され、環境路線が有権者によって改めて支持されました。
共通する構図:「車から人へ」は選ばれている
パリとロンドンに共通しているのは、車社会からの脱却を掲げ、気候危機や大気汚染対策、環境保護を都市政策の中心に据えている点です。
このような政策は市民の日常生活に直接影響するため、選挙では必ず強い賛否を伴います。それでも最終的には、環境路線を進める市長が選ばれているのです。
過去数十年のあいだ、車社会が受け入れられてきた都市において、これは重要な変化です。環境政策は理想論ではなく、都市の現実的な選択肢として、有権者に受け入れられ始めていると言えます。
言い換えれば、多少の「不便さ」や「負担」を伴っても、将来の都市像として支持される段階に入っているということです。
世界の潮流としての都市転換
こうした動きはパリやロンドンに限ったものではありません。欧州各都市やニューヨークをはじめ、世界各地の大都市が環境重視、そして車社会からの脱却を志向しています。歩行者空間の拡充、自転車インフラの整備、公共交通の強化といった方向性は、共通のトレンドとなりつつあります。
パリとロンドンの選挙結果は、その流れが政治的にも裏付けられていることを示しています。都市の転換は摩擦を伴いますが、それでもなお支持される。この点において、「車から人へ」という動きは一時的な政策ではなく、世界的な潮流として定着し始めています。
こうした選択が日本の都市でも問われることになるのかは、今後の論点といえそうです。例えば日本で今年4月から自転車利用のルールが厳格化されますが、インフラ整備が追いつかないまま規制だけ先行すれば、利用そのものが抑制されかねないという指摘も出ています。行動変容を促す政策はインフラ整備と一体で進められてこそ機能するもの。この関係をどう設計するかが、日本でも問われています。



