イギリスで週4日勤務(週休3日)の実験が行われましたが、その結果はどうだったのでしょうか。ワークライフバランスを達成するためのフレキシブルワークはイギリスではかなり以前から浸透していて、コロナ以降はリモートワークを続ける人も多いです。世界一睡眠時間が短いと言われる日本でも働きかた改革をもっと推進すべきでは。
イギリスの週4日勤務実験
イギリスで2022年6月から12月までの6か月間、61の企業で働く約2900人を対象として週4日勤務を実験した調査が行なわれました。
調査結果によると、週4日勤務を体験してみた従業員の満足度は高く、参加した企業の92%がこの勤務形態を続けるつもりだと回答しています。
実験の主な結果は:
従業員の心身の健康状態と満足度が改善
- 39%でストレスが減った
- 71%で燃え尽き症候群レベルが低下した
- 不安や疲労感、睡眠にまつわる問題も減少
- 実験期間中の退職者と病欠者が前年の同期間と比べ減少
従業員のワークライフバランスが改善
- 60%が仕事と育児・介護を両立しやすくなった
- 62%が仕事とソーシャルライフを両立しやすくなった
- 家族関係がよくなった
- 保育費が減った
会社の業績への影響もプラス
- 売り上げを公表した23社において、前年の同時期と比べ売り上げが平均35%アップしていた
- 離職率が57%減った
ちなみにこの実験では合計の労働時間は平均週34時間で変わらず、給料も同じ金額でした。それでも実験後、参加した従業員の7割が週5日勤務に戻るためには10~50%の昇給がないと応じないと言っています。さらに、従業員の15%は給料がどんなにアップしても週4日勤務をやめたくないという答え。
従業員の満足度が上がったうえに、売り上げも増え、離職率も減ったということで、実験は成功といっていいでしょう。実験に参加した会社のほとんどがこの勤務形態を続けるとしているのがそれを物語っています。
イギリスのフレキシブルワーク制度
イギリスでは、ワークライフバランスを改善するために、すでに数十年前から多くの職場でフレキシブルワーク制度が導入されています。例えば、私が働いていた地方自治体では約20年前に「ワークライフバランス」制度を導入するため、人事部が各職場の代表を集めて話し合いました。私も、一連のワークショップに都市計画課を代表して参加し、その結果として自治体勤務者全員を対象にした「ワークライフバランス制度」ができました。その制度については「通勤時間短縮やリモートワークのためのフレキシブルワーキング」で紹介しています。
私も育休後に職場に復帰した時、この制度を利用して週4日勤務にしてもらい、そのうちの1日は在宅勤務という形態で働いたため、育児との両立がかなり楽でした。もう20年近く前でしたが、その当時は既にオンラインで仕事ができていたので、業務上もスムーズに事が運びました。
とはいえ、イギリスでも民間企業では大企業でない限り、なかなかこういう制度が浸透していなかったのも事実です。けれども、コロナによるロックダウンで在宅勤務が普通になり、さまざまな形態で働くオプションが増えたことで、もっとフレキシブルな働きかたを選んだり、要望する人が多くなりました。
週4日では仕事が回らない?
週4日勤務にすると仕事が回らないのではないかとか、売り上げが落ちるのではないかという心配があると思います。でも、時間があればあるだけ仕事は増えるもの。時間に制限があると同じ結果を出すために、人は無駄な業務をやめ効率的に働くようになります。ブルシットジョブと言われるような、形式的だったり無駄だったりする仕事(ハンコを押したり無駄な書類を作ったり意味のない会議をしたり)をやめることで生産性が上がります。
イギリスで働いてきた私から見ると、日本はブルシットジョブだらけで、ただ「きちんと」するために意味のない時間とエネルギーを費やしていることが多いので、チャンスだと思います。雑巾の水を絞っても何も出ないほど効率化していると、さらに改善するためには技術革新に頼るしかありませんが、日本はゆるゆるなので伸びしろがあります。
効率が悪いのは個々の労働者のせいではありません。日本人ほどまじめで勤勉で、能力がある人たちはいないでしょう。しかし、せっかくの人材とスキルを職場のシステムや意味のない社会規範(と思われているもの)のせいで長時間労働でしばるのはもったいない。これから少子高齢化で、少ない労働人口で社会を回していかないとならないのだから、なおさらのこと。
イギリスでも18世紀の産業革命後には工場を中心とする「大量生産・大量消費」型の経済に合わせ、決められた作業を同じようにこなせる「労働力」が必要となり、男性だけでなく女性や子供まで長時間労働に駆り出されていましたが、そのような働きかたは昔の話です。
日本でも、高度経済成長時に単純な作業で類似商品をたくさん生産していれば利益が増えた時代だと、長時間長労働で生産性がアップしたかもしれませんが、今はそういう時代ではありません。時代に合わせた働きかた改革をして、生産性も上げ、働く人が幸せになるようにするべきです。
働く人にとって、仕事をしている時間は生活の大きな部分を占めます。金銭的な報酬はもちろん、やりがいを持って働けているかどうか、職場での人間関係がうまくいっているかということも重要ですが、労働や通勤に費やす時間や労働環境も大事な要素。
睡眠時間が世界1短い日本人
ところで、あなたは1日何時間寝ていますか?
NHKの2020年の調査では日本人の平均睡眠時間は7時間12分ということ。
WEFが行なった国際比較調査はSleep Cycleというアプリ利用者について調べたもので、日本人の平均は6時間15分くらいともっと短くなっています。
これは、世界でも群を抜いて短く、次に韓国、サウジアラビアと続きます。
この調査では、各国民の平均睡眠時間と一人当たりのGDPの関係について調べて、グラフにしています。
これによると、睡眠時間が短いからと言って人口当たりのGDPが多いわけではなく、その反対の傾向が見て取れます。
日本人は世界一睡眠時間が短い割にはGDPもそれほど多くはないというわけ。同じようなGDPを達成するのにイギリス人は7時間半以上も寝ているのです。
NHKの調査でも日本では、女性の睡眠時間が男性より短く、家事育児、人によっては介護といった家庭での無償労働と有給労働をこなすために睡眠時間を削る女性が多いということが想像されます。
週4日勤務になれば、家庭と仕事を両立させるために心身を削って働く人たちには負担がかなり減るでしょう。女性だけでなく、男性にとっても。
みなが幸せになる働きかた改革
フレキシブルな働きかたは週4日勤務だけではありません。「通勤時間短縮やリモートワークのためのフレキシブルワーキング」で紹介したように、様々な方法があります。人によって最適な働きかたはいろいろなので、働く人が自分の状況に合わせて最適解を見つけるためのオプションが与えられることが重要です。
出産や育児休暇、介護休暇もですが、男性も女性も誰にとっても、急な病気になったりして休んでも大丈夫な働きかた、職場、仕事のシステム、人材配置を日頃から考えていれば、誰かが休んだからと言ってほかの特定の人にしわ寄せがいくということもありません。
また、昔のように大黒柱と専業主婦で成り立っていた社会からは変わってきている今、個々の家庭で男性が120%働き女性が0とかパートで30%働くより、男女がそれぞれ80%ずつ働く方が時代にもあっているし、男女それぞれが社会・キャリア経験も家庭での役割も分担できるという意味でも意義があります。両親共に家庭での役割をシェアすることで、配偶者間のつながりも深くなり、家族との関係もよくなります。また、これまで職場での付き合いしかなかった男性が子育てを通じて地域社会などとのつながりができます。男性が定年退職すると、急にやることがなくなり、孤独になってしまうということもなくなるでしょう。
個々の家庭で話し合い、それぞれに合った働きかたを選ぶことができる職場であれば、働く人の幸せ度が上がり、心身共に健康な状態で過ごすことができるでしょう。そういう会社では、生産性も高くなるし、人間関係も改善し、離職率や休職率も下がるはずです。
「働きかた改革」が叫ばれてしばらくたちますが、コロナ禍でリモートワークをはじめとした柔軟な働きかたやデジタル化が急激に進んだ職場と、そうでない職場の差が大きく開いているようです。特に地方や中小企業でそれが顕著です。
せっかくのチャンスを逃してしまった企業は、これからは経営が難しくなってしまうかもしれません。従業員の満足度が落ちるだけでなく、生産性も上がらず、少子化・人手不足の時代にいい人材を採用できなくなる可能性が高いからです。これまでの働きかたに慣れている高齢の従業員はまだしも、若者は報酬よりも自分らしい働きかたができることの方に重きを置くものが多くなっています。
若い、優秀な人材が柔軟な働き方やデジタル化を取り入れる企業に流れていけば、昔ながらのやり方を続けている企業は、この先ますます窮地に陥るでしょう。柔軟な働きかたを提供することは、単に従業員への福利厚生や社会的責任ではなく、経営戦略としても必要になってきているのです。
特に、地方の企業でワークライフバランスを考えたり、女性が働きやすい勤務形態を導入できる会社が増えれば、若い女性の地方から都会への流出を防ぐことができます。若い女性が地方にとどまり、家庭も魅力的な仕事も手に入れることができれば、少子化対策にもなり得ます。
少子化と高齢化先進国の日本、特に地方で、このような働き方改革を進めることによって少子化問題が解決され、男性も女性も幸せになれば、ほかの国のお手本となる可能性もあります。