東京神田錦町そば屋「更科」再開発で立ち退きに?

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Soba

東京の神田錦町にある「更科」という老舗の蕎麦屋が再開発により木造2階建ての建物から立ち退きになる話がもちあがりました。店主が等価交換についてツイートしたところ、多くの反響があり、街の歴史や景観にとって欠かせない一つ一つの建物がどれほど不特定多数の人にとって大切なものかということがわかるエピソードでした。

蕎麦屋「更科」(さらしな)

東京神田、古書店街で有名な神保町にも近い錦町三丁目にある「更科(さらしな)」は1869年(明治2年)創業という老舗のそば屋。元祖はもっと古く、創業1789年(寛政元年)麻布永坂「更科」で江戸三大老舗蕎麦屋のひとつ。神田のお店はその暖簾分けの分店。製法などはすべて本店と同じで、明治の初めからそば一筋で伝統を守っています。

神田にある店は木造2階建ての店舗兼住居。こじんまりとした、趣のある古い建物が都心の一角にひっそりとたたずんでいて、近所で働く人や、買い物に来る人が立ち寄る人気のそば屋さんとして安定した営業を続けてきたようです。こうしたお店って、足を踏み入れたことがない人でも、日頃通り過ぎる街の一部となっていて、心落ち着く景観に欠かせないピースとして刻まれているものです。

再開発で等価交換

現在、この更科がある錦町地域で再開発の計画が持ち上がっていて、店舗が立っている敷地もその対象にあたっているようです。

等価交換の話が出て、土地の値段だけで他に行けとのこと。先祖が命懸けで守った暖簾や建物には一円の価値もつきませんでした。価値と言うのは人それぞれです。私にはこの店が一番の価値です。

「等価交換」というのは、土地の所有者が自分の土地を開発業者に提供し、開発業者がその土地の上にビルやマンションなどを建て、その一部を元の所有者が所有する不動産の価値に応じて受け取るというものです。店舗が立っている土地の所有者が土地を提供して、建築後のビルの一角に新しい店舗を構え、住居用にマンションも受け取るといったようなケースがあります。

この場合は「他に行け」とのことなので、所有している不動産の値段に見合う別の不動産と交換するのか、お金を受け取るという提案なのかもしれません。どちらにしても、今の土地と店舗を手放すことが条件になっているようです。

開発業者にとって、この敷地じたいには大きな価値がありますが、その上に建つ木造2階建ての建物には価値がないどころか、解体費がかかるだけマイナスとうつります。でも、そこで老舗ののれんを守って商売を続け、生活もしてきたそば屋さんにとっては、自分の人生そのものというべき価値があるものです。その歴史や建物に1円の価値がないと言われれば、人生を否定されたような気になるのではないでしょうか。

ツイートの反響

更科店主はその悔しい思いをついツイートされたのでしょう。それが思いがけず拡散されて、大きな反響があったようです。

「素敵な建物なのになくなるのは惜しい」

「よく、おいしいお蕎麦を食べに行っていました。老舗の看板にはお金に変えられない価値がある。」

「入ったことはないのですが、いつも前を通り過ぎていたので、なじみの風景がなくなるのはさびしい。」

「最近は無機質な高層ビルの開発ラッシュで、昔ながらの神田の味わいがなくなっていく。どうかお店を守ってください。」などさまざま。

そして、その翌日、その反響に店主も驚かれたようで、再度のツイート。

店主も悩みながらつい、その思いをつい吐露していたのでしょう。それに思いがけなく、たくさんの反響があり、そのほとんどは店主の気持ちに寄り添うものでした。店主にとっての、先祖代々の店と建物を守るという個人的な思いを、これだけの人々が応援してくれていることで、背中を押してもらったということのようです。

みんなの景観という宝物

そして、これは蕎麦屋の商売には直接利益があることではないのでしょうが、こういうお店には大きな公共的な価値もあります。

古くからある街に残る風景は遠景の山や樹木や川といった自然風景も、道や建物、橋や神社といった人工のものまで、そこに住み働く人たちにとっては生活の一部となっている景観。なじみある当たり前のものとして普段は特に気にかけることもないけれど、大切な地域の宝です。こういうものが一つ一つなくなっていくと「どこにでもある、よくある高層ビル街の一角」となってしまい、地域に対するコミュニティ意識が失われていきます。そして、それは一度失うと二度と戻って来ないものです。

街は、見慣れた景観は、コミュニティは、次世代に引き継ぐべき尊い、お金に換算できない宝物は、こういう地域に根差す人達によって、お金に目がくらんだ利権者や開発業者から守られていくのだと改めて教えてくれるエピソードでした。

さらに、そこに住む人や日本の人には関係ないことかもしれませんが、この景観は東京の一角の特別なものとしても、国際的に大きな価値があります。東京の都心にいくらキラキラ光り輝く高層ビルやマンションを建てても、それはニューヨークにもロンドンにも香港にもドバイにもあるものと同じ。外国から日本に来る人はそんなものには目もくれず、日本にしかない古くからの下町や居酒屋の並ぶ横丁、京都の町屋や地方の民家に目を見張ります。

日本がこれから国際的な観光目的地としてインバウンド需要にこたえていくためには、世界中どこにでもある金太郎飴のような高層ビル街を建てるより、日本に昔からある、地域に根付いた建築物や伝統文化を修復しながら守っていくことに重きを置くべきでしょう。わたしが世界中を旅してきて感じるのは、いかにつつましい街でも、そこに住み働く人たちが自分たちの住む場所に愛着を持って手を入れながら住んでいる街はよそ者にも心地よく、いつまでもいたくなるし、また行きたくもなるということです。

更科の後日談

その後、蕎麦屋「更科」のTwitterをのぞくと、あの二つのツイートがきっかけとなって、お店に来る客が増えているようです。人気メニューが品切れになったり、お店がいっぱいになったりしている様子がうかがえます。普段はお店の前を通り過ぎていたという人も、長らく行っていなかったという人も、店主のツイートを見て応援したいと思った人も、皆がお店を訪れているのでしょう。お店の人はうれしい悲鳴をあげているかもしれません。

私も行けるものなら行ってみたいと思うけど、イギリスからだとあまりに遠すぎ。

もし、これを読んでいる人で東京に住んでいる人、たまにはお蕎麦などいかがですか?

おまけ

更科の店主ツイートへのリプライの中からいくつかを抜粋しました。

神田はもう充分開発されたと思います。
私の勤めていた神保町1丁目もガラリと変わってしまいました。
私は近くの学校に通い近くに就職したので良く食べに行ってました。
とても、馴染み深いお店なので値段で現せない価値があります。

老舗のお蕎麦屋さんは神田の宝です。
思い出のお店は長く続けて欲しいです。

再開発されたトコに住んでいるので説得力無いかもですが、何でも新しく変われば良いと云うモノでは無いと思ってます✨
土地の評価だけでは無く、その上にある建物や刻まれた歴史にも価値を見出すべき

神保町〜お茶の水〜淡路町、小川町界隈
大学時代にバイトや遊び、古き良き時代が再開発でどんどん無くなり😭
縦にも横にも街そのものを新しく美しく
否定はしませんが等価交換では代え難い歴史、思い出、感情を置き去りにするのも‥

今の蕎麦好きの土台は更科さんのおかげなのですが、、、、いつまでもあって欲しいと思っています。
大学入ってドキドキしながら暖簾をくぐったのがついこないだのようで。
幸い職場もすぐ近くで5年以上通い詰めたのはいい思い出です。

別の場所で一朝一夕には新たに得難い、ご先祖や御家族様の生きた時間や想い出と共に積み重なり、建物やお店の暖簾に刻まれる、歴史という価値。
それを無視して無礼にも「等価交換」という人間は、物質的な価値しか見いだせない寂しい存在ですね
何度か美味しいお蕎麦を頂きました。応援しております。

再開発ばかり進める東京に魅力が無くなっていきます。歴史あるものを大切にしていくのが日本の心かと…この更科には、大切な思い出があります。信頼している師と神田で重い本を買って、ここの蕎麦は美味いぞーと笑顔で食事をしました。もうその方は空の上ですが…とても残念です。

神田界隈は老舗が多く昭和初期以前の建物で大切に営業されてるお店が多いですね。
路地を入れば建物も暖簾も庭も時代物ドラマのよう、タイムスリップ感覚の素敵な貴重な一角です。蕎麦屋さん、甘味処、喫茶店、鳥料理、下足番がいらっしゃるあんこう鍋屋さん…再開発なんてもってのほか!と思います…

その場所でその建物で営業してきた歴史も貴重なのに、再開発だから移れとは、解せないですね。
外苑再開発も同じで、再開発によって今ある貴重な景観をわざわざ壊す、どこかで観たようなタワマン、再開発、スクラップアンドビルド、味気のない街、金太郎あめのようなつまらない場所になる、人工的なガラス張りのコンクリートジャングル、は10年もすればすぐにくたびれ、20年もすれば薄ら汚れてくる。下町情緒漂う、そこの土地で営むから意味がある。再開発ではなく、今あるものを大切にし、新しいものと融合させるべき。

観光立国を日本は目指すのでしたね
日本の一番のセールスポイントは、歴史です
御店は明治創業かと思いますが、江戸蕎麦の歴史を脈々と受け継ぎ、江戸の中心に店を構える名店です
ぜひ暖簾を引き継いでください

ロンドンやパリなど、歴史的な街並みが残っているからこそ魅力がある。そのためにその努力をしている。

再開発される度に、歴史の刻まれた街並みが、無機質な今風のビルになって、ありふれたテナントが入るという残念な新陳代謝をみてきました。店主さんの心意気を応援します。近くはよく通るので、お蕎麦を頂きに上がります。神宮伐採も含めめて、銭儲けの再開発は規制しようよ、小池さん!

景色や土地の匂いも含めて更科さんの味だと思います。
コロナ禍ですっかり東京から足が遠のいていますが、きっとあちこち変わってしまっているんでしょうね。変わらないものがある安心感に浸りに、またお伺いしたいと思います。

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