外から見た日本、一時帰国の印象

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Japan Autumn Leaves

こちらの記事はイギリスに住んでいる私が日本に一時帰国した際の所感を述べるもので、都市計画とか地方創生とかSDGsとかとはあまり関係ない話です。これを読んでいる人はほとんどが日本に住んでいる日本人だと思うので、外から見た日本がどうなのかに興味ある人だけ読んでください。

コロナ後の日本帰国

コロナ前は仕事や私用で日本に1年に2~3度帰国する事が続いていましたが、2020年のお正月を最後に戻れないまま。2020年の春帰国の予定で予約していた航空券もキャンセルし、それからずっと2022年の9月まで戻りませんでした。

9月に久しぶりに帰国し、今回また11月~12月の3週間の予定で一時帰国中です。しょっちゅう帰っていた時はあまり気が付かなかったことが、3年近くぶりに戻るといろいろ目につきます。海外在住日本人が母国のことをあれこれ言うと「出羽守」と陰口をたたかれることは承知の上で、ずっと日本にいると気が付かないままでいることを外からの視点で書いてみます。

コロナに対する捉え方

イギリスではワクチン接種がいきわたり、オミクロン株が流行しても、コロナ感染で風邪やインフルエンザのような症状しか出ない人が多いことから、コロナに対する考え方が変化しています。ワクチンさえ定期的に接種していればコロナに感染しても怖い事はないというように。ごくまれに重症化する人がいたとしても、それは交通事故に遭うようなものであり、そのために車を運転しないとか、外出しないとかいう行動をとらないのと同じことで、コロナに感染するのが怖いからと言って、日常生活に支障をきたすようでは、何のために生きているのかわからないというスタンスです。

なので、学校や職場など、通常通りの毎日に戻っているところが多く、室内外を問わずマスクをしている人もほとんどいません。働き方に限っていうと、リモートワークに慣れてそちらの方がいいという人は頑固として通勤を拒否する人も多いのですが。

私はイギリスのことしか知らないのですが、他のヨーロッパ諸国でも同じような状況のようです。旅行やホリデーにしてもコロナ前と同様に戻り、ギリシャに行った時も、旅先でも飛行機の中や空港でもマスクをしている人はまれでした。

今回、ヘルシンキ経由で日本に帰ったのですが、ヘルシンキ行きの飛行機も、ヘルシンキの空港でも、マスクをしている人はいません。それが、羽田行きJAL便のゲートに行ったとたん「この飛行機はマスク着業義務あり」との標識が出ていて、それを見た欧米人はびっくりしていました。

今回、航空券はコロナ前と比べてかなり高かったので、日本の鎖国政策が緩和されて日本行きの需要が急増したのかと思いきや、飛行機はがらがらで、搭乗客もほとんどが日本人のようでした。そしてもちろんみんなマスクを着用しています。

日本に帰っても、やはりみんなちゃんとマスクをしているので、日本人は律儀だなと感心します。まあ、マスクをするだけなら、ロックダウンや行動制限に比べるとそう不便なものではないので、それほど気にはなりませんが、マスク嫌いな外国人にとっては異様な光景かもしれません。

素晴らしいサービスと労働生産性

日本に帰るたびに気になるのが、様々なシーンで感じる労働生産性の低さです。

日本はサービス精神が高く、働く人は別として、客の立場から言うと素晴らしい国です。何もするにも、買うにも、それこそ「神様」のように扱われます。でも、別に神様のように扱われなくてもいいから、もっと早く、もっと便利に、もっと安くしてほしいと思うことも多いのです。

今回、日本入国にあたって、入国時の空港検疫を早くすませるための「ファストトラック」アプリを事前に済ませようと、出発前に情報をアップロードしました。個人情報は入国データはインプットできたのですが、ワクチン情報をアップロードするとエラーになります。スマホとPC両方から何度試してみてもだめでした。このため、羽田空港到着後、ファストトラックで入国できず、一から検疫のプロセスを始める必要がありました。

空港に到着すると、この作業を手伝うためのスタッフが実にたくさん入国ゲート付近に立っています。「ファストトラック」がエラーになったことを説明すると、やり方を教えてくれるのですが、私が出発前に既に何度もトライしたのと同じで、やはりエラーになります。その問題を解決するために他に2人のスタッフがやって来ても同じ。結局そこからかなり遠い部屋に行って一から情報をインプットして、また入国ゲートに戻るということになりました。

この入国作業を手伝うスタッフが実にたくさんいて、かなりの労働力をさいていることに驚きました。ファストトラックがちゃんと機能していれば、これだけのスタッフは必要ないし、スタッフがいても、私のケースでは、説明する時間と手間が無駄になっただけで、何の助けにもならなかったのに。スタッフの方はみなさん親切で、助けたいというお気持ちはありがたかったのですが、気持ちだけでは問題は解決しません。

次に気になったのは、羽田空港にあるJRのジャパンレールパス引き換え所が4時で閉まってしまうことです。羽田に到着したばかりの外国人に聞かれたので案内所で問い合わせてあげたのですが、4時過で閉まっていて、東京駅など大きい駅に行けばまだ空いているはずと言われました。でもその人は羽田から国内線乗り継ぎ予定だったので、空港から出るわけにもいかず、結局そのまま去っていきました。コロナで外国人旅行客が減ったからそうなのかもしれませんが、インバウンド客を歓迎したいのなら、もう少し利便をはかってもいいのではと思いました。

そもそも、ジャパンレールパスをどうして紙のパスに引き換えなくてはならないのか、別にオンラインのアプリでいいんじゃないかというのもよく聞かれることで、私も疑問に思います。外国ではこの手のパスはスマホにダウンロードすればそれで済んでしまいます。日本入国前に紙のヴァウチャーを購入し、それを日本に到着してから、さらに別の紙のパスに交換しなければ使えないというのは、実に昭和的なやり方です。このような複雑なルールや煩雑な手続きを踏むのに、日本語がわからない外国人が理解できないのも、JRの職員も外国語で説明ができないのも、仕方がないでしょう。

それよりは、オンラインアプリで購入からパス発行まで済ませてしまえば、みなの時間と手間とコストが削減されるのに。紙を印刷したり発行するための環境コストも。

田舎町のお役所仕事

さて、お次はわが田舎町についてです。これについては、地方の小都市だからということが大きいと思うので、都会の人も「まだ昭和的な事やってるなー」と同感してくれるかもしれません。

市役所とマイナンバー

日本に一時帰国時、長期滞在するときは転入届をするのですが、今回もそのために市役所へ行きました。市役所は駅から遠く不便なところにあるので、自転車で行きました。車に乗らない高齢者などは行くのも一苦労です。

それにこの役所にはwifi がないのです。レンタルルーターも持っているのですが、一応「wifi ありますか?」と聞いたら、「は?」とまるで宇宙人に聞かれたかのような返事。そういえば、在外選挙についてこの市に問い合わせるためにイギリスからeメールを送ろうと思ったら、市のウエブサイトの問い合わせ先にメールアドレスが見つからなかったのを思い出しました。代表のメルアドが一つあったので、そちらに問い合わせメッセージを送ったのですが、返事はないまま。

転入届というのも、いちいち紙に手書きで書いて窓口の順番を待って、窓口で提出する必要があります。それから、健康保険の窓口、年金の窓口と回り、今回はマイナンバーカード発行の手間も加わります。実は以前一時帰国した時にマイナンバーカードは発行してもらっているのですが、転出届を出したためにそれは無効になってしまい、新たに申請しないといけないということです。

それでまた長い受付の列に並び、紙の申請書に記入して写真を貼って申し込んだのですが、カードができるまで1か月半かかると言われました。その日のうちにもらえるのだとばかり思っていたので、びっくりしました。

そもそもマイナンバーというものは国民一人一人に既に付与されている唯一無二の番号のはずです。どうしてその番号があるだけではだめで、カードが必要になるのかということが、私には理解できないのです。いろいろな人に聞いてみましたが、納得のいく説明を聞かせてくれる人はいませんでした。

これを読んでくださっている人で、それがわかる人はどうか教えてください。

イギリスにマイナンバーはあるのか?

イギリスではどうなのかと聞かれることもあります。イギリスには日本のマイナンバーと全く同じものではありませんがNational Insurance Number(社会保険番号)というものがあって、イギリス国民及び在住者(イギリス国籍でなくても)1人1人にこの番号が付いています。税金の支払いや年金、社会福祉などに使われ、この番号なしではまともな仕事にも付けないし、福祉の恩恵にもあずかれません。

でも、これはあくまで番号であって、そのためにカードとか紙きれとかは必要ありません。オンラインでも窓口でも電話でも、その番号さえ伝えれば、それで事足りるのです。ちなみにイギリスではgov.ukというイギリス政府ポータルサイトでパスポートや運転免許証発行、結婚や離婚手続き、年金や税金関係、福祉や医療、教育や子供手当などの手続きなど、全て自宅からオンラインで行うことができます。

2020年3月にコロナで急にロックダウンとなった時、イギリス政府は1週間のうちに、ロックダウンで仕事に行けなくなる就労者に給料の8割を政府負担するという発表をしました。その時も、このNational Insurance番号経由で、該当する就労者の銀行口座に即座に給料の8割が振り込まれたということです。

ちなみに、イギリスではNHSという国民医療サービスがありますが、それに関連するNHS番号というものもあります。この番号があれば、個人の健康・医療情報などが全てわかるので、引っ越しでかかりつけの病院を変えたりしても、その人の病歴や、服用している薬、ワクチン履歴などが全て医療担当者に分かるようになっています。

銀行とハンコ

さて、市役所でさんざん待たされたあと、銀行に行く必要がありました。デビットカードとクレジットカードが一体となっているカードの期限が切れていて、ATMが使えず、残高を確認することができなくなったためです。ここでもかなり待たされたあげく、窓口に行くと、新しいカードを送ったはずだということ。

ないとなると紛失届を出さないといけないし、新しいカードを発行するのに約1500円かかるということ。実は、このカードを使っていない間も毎年約1500円の利用料金が口座から引き落とされていたそうですが、それも私は気が付いていないままでした。残高や入出金データを確認することができないからです。

それなら、もうこのカード、それから口座も利用しない旨を申し入れると、それではこの届けに記入してくださいと紙を出されました。指定された情報を記入し、身分証明書としてパスポートも提示したところで「ハンコを押してください」。印鑑はもってこなかったので拇印でいいですかと聞いたら、ハンコでないとだめだということ。以前、この銀行で何かの手続きをしたときは拇印ですませていたのですが、この書式にはなぜか印鑑が必要なのだそうです。しかも、その印鑑というのは実印とか銀行に登録しているものではなく、その辺の100円ショップで売っているハンコでもいいということ。じゃあ、何の意味があるのか?と思いましたが、そんなことをこの銀行員に言ってもこの人のせいじゃないしと思い、ぐっとのみこみました。ということで、また来週ハンコを持って銀行に出直さなければなりません。やれやれ。

置き薬というビジネスモデル

土曜の昼過ぎ、実家の母のところに薬屋さんがやってきました。置き薬の点検と補充をしに、1年に2回くらい来るとのこと。富山の薬屋さんって、まだあるんだとびっくりしました。で、どれくらいの薬が必要なのかと聞くと、うちの母の場合、ほとんど使わないそうです。服用しているのは全て病院でもらってくる薬ばかりなので、置き薬のたぐいは使っていないとのこと。薬屋さんが来て薬を点検し、補充をしない場合はお金も取られないと。

それではこの薬屋さんの営業利益はどこから来ているのか?人によっては、薬をたくさん使う人がいるから、その人たちからの利益でまかなっているのか、よくわかりません。これについても不思議なので、答えを知っている人がいたら教えてください。日本はいろいろ、謎が多いです。不思議の国、ニッポン。

きちんとし過ぎな日本の伸びしろ

さてさて、日本でよく人手不足の話を聞くし、これまで外国人労働力に頼ってきたのが、コロナで窮地に陥っているという経営者の声も聴きます。また、日本はここ30年の間、経済が停滞していて、労働者の賃金も伸びていません。日本人は一般的に言って能力が高いだけでなく、律儀で丁寧で真面目に働くし、長時間労働もいとわなかったリ、会社のために家庭や自分の私生活を犠牲にしてまで心身を捧げるといった人も多いのに、なぜこうなってしまうのか?

その理由にはいろいろあるでしょうが、その一つは日本人が「きちんとし過ぎ」なのが裏目に出ているのではないかと思います。1分も遅延が許されない交通機関とか、挨拶や立ち居振る舞いなど厳しすぎるマナー、四角四面のルール、不必要な書類や会議など。「失礼にあたる」「きちんとしなさい」「ちゃんとするべき」といった言葉を家庭のしつけから学校教育、社会に出てからもずっと聞き続けます。

外国では何もかもがいい加減だということは、海外旅行をしたり、海外との取引をしたりしたことがある人ならお分かりだと思います。閉店間際に店舗に行くと露骨にあしらわれるし、担当者のホリデーで業務が数週間滞ったり、電車やバスは平気で数10分遅れます。それでも、外国では社会が回っているし、働く人ももっとリラックスしています。

人件費が高くなっている昨今では、できるところは何でもデジタル化し、コストパフォーマンスを極限までそぎすませて、少ない労働力で最大の効果を上げようとします。そのためにはサービスレヴェルが少し落ちたり、対面や電話での個々の対応がチャットやウエブサイトのFAQに取って代わられる事もありますが、それも許容されています。客の方も、デジタル化やシステム化によって、便利になったり、サービスコストが下がるのならそちらの方を好みます。

日本では「お客様に失礼」ということを優先するあまり、本当に必要なタスクを最低限の労力でこなすことが軽視されがちです。それでデジタル化も進まないのでしょう。(それとも単に保守的で、これまでのやり方に固執するだけなのかも?意思決定層の年齢が高いのも理由かも。)

どちらにせよ、考えようによっては、日本はまだまだ伸びしろがあるということです。もっとデジタル化を進め、さまざまなタスクを簡素化、合理化することで、生産性を高める余地がたくさんあります。そうすることで、労働生産性が上がりコストを下げるだけでなく、ブルシットジョブをこなすのに労働意欲を感じない人たちを減らすこともできるでしょう。

日本のよきところ

さて、そんなこんなで外人の目で日本を満喫しています。9月に久しぶりに帰った時は「日本は安い」ということが印象に残りましたが、今回はそれ以外にも日本のよきところも堪能しています。9月はまだまだ暑くてあまり動きまわれなかったのですが、今はちょうどいい季節。実家があるのは山あり海ありの田舎なので、自然の風景が好きな私にとっては散歩天国です。

また、姉夫婦と母と4人で少し遠出して紅葉のきれいなお寺巡りをしたり、温泉に行ったり、おいしい食事に舌鼓をうったり。家でも、高齢の母と昔話で盛り上がりながら、おでんや筑前煮など、我が家の定番料理を一緒に作ったり。

日本の欠点は将来の伸びしろなのだと考え、よきところに目を向けて楽しむことにします。

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