エジプトのCOP27は警察国家のグリーンウォッシング?

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COP27

11月6日からエジプトでCOP27が開催されています。去年グラスゴーで行われたCOP26ではコロナで閉ざされていた国際交流の再開といった形で各国首脳や関係者が集まり、気候変動問題について話し合いました。今年のCOPはエジプトで開催ということもあって、繰り広げられる論点が気候変動にとどまらず、広く政治や人権問題にまで複雑に絡み合っています。

COP27気候会議

COP27 (第27 回締約国会議)という世界的な気候会議が、エジプト紅海沿岸のシャルム・エル・シェイクで2022年11月6日から2週間の予定で開催されています。そもそもCOP(コップ)とは何なのかという人のために簡単に説明します。

「COP」は「Conference of the Parties(締約国会議)」の略で、「気候変動枠組条約」の加盟国が気候変動を防ぐための仕組みについて話し合う国際会議。「気候変動枠組条約」は地球温暖化防止のための目標を定めたもので、世界中197か国が加盟しています。条約加盟国は温室効果ガスの排出量を抑えるための計画を作成、実行し、その経過を毎年行われるCOPで報告することになっています。

気候変動問題というものが、各国や各地域でそれぞれ取り組んでいても解決できるものではないということは明らかですが、COPはその国際的な重要課題について世界中から地域や大小問わず、様々な国々が参加して話し合うというものなのです。

COPは1995年から毎年世界各地持ち回りで開催されています。2020年のCOP26は新型コロナウイルスの影響で1年延期されることになりましたが、2021に英国グラスゴーで開催されました。今年のCOP27はエジプト、来年のCOP28はUAEのドバイで行われます。それ以降の開催地はまだ未定で、これから決められることになります。

グラスゴーでは様々な気候変動を解決するための対策について最後までもめましたが、「グラスゴー気候合意」の達成にたどりつくことができました。これは、「1.5℃努力目標追求の決意を確認しつつ、今世紀半ばのカーボン・ニュートラル及び2030年に向けて野心的な気候変動対策を締約国に求める」ことに全加盟国が合意したものです。

グレタ・トゥーンベリをはじめとする熱心な環境活動家にとっては物足りない結果でしたが、約200か国もの国が気温上昇を1.5度に抑えるという目標に合意したことなど、一定の成果があったといえます。

今年エジプトで開催されているCOP27ではその取り組みをさらに推し進める期待があったにもかかわらず、開催前からあやしい雲行きとなっています。気候変動問題に限らず、政治や人権問題なども絡み合っているせいで、複雑な展開となっているのです。

エジプトでのCOP開催への懸念

10年前「アラブの春」と呼ばれた民主化運動ののち、エジプトはムバラク独裁政権が退陣に追いやられましたが、その後、紆余曲折を経て、今では軍が政府や経済界を牛耳って強権政治を行っています。2014年に発足したシーシ政権は自由な報道や民主主義運動を規制し、デモや政権批判を行うものを刑務所に送るという抑圧的な政策には国内外から批判が集まっています。

国際人権機関のアムネスティインターナショナルは、エジプトの人権問題について何度も警鐘を鳴らしてきましたが、COP27がこの国で開催されるにあたり、参加する加盟国にこの機会をとらえ、エジプト政府に国内での人権問題について改善を行うように要望すべきだと提言しています。

国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチHuman Rights Watch)も、エジプト政府による人権活動家やジャーナリストの政治犯としての拘束は6万人にのぼり、LGBTコミュニティなど抑圧に苦しんでいる人々が多く存在すると批判しています。

カナダ人ライターのナオミ・クラインはガーディアン記事「警察国家のグリーンウォッシング」でCOP27を「仮面舞踏会」と呼び、汚染国家のグリーンウォッシングを超えて、警察国家のグリーンウォッシングだと強い口調で批判しました。グレタがCOP26を「blah, blah, blah」と称して、べらべらと空疎なおしゃべりしていると揶揄したのを引用して、COP27は「blood, blood, blood」だと言い切りました。警察国家により制圧された1000人の活動家の血であり、今でも暗殺されたり不当に拘束されている人々の血であるというのです。

クラインはそのうちの1人であるアラ・アブデル・ファタハについて紹介しています。SNSで人権侵害について投稿したという理由でもう10年も投獄されている彼は獄中でハンガーストライキを行っています。

グレタも不参加を表明

政治家は口先ばかりで何もしないと批判をする環境活動家のグレタ・トゥーンベリもグラスゴーで行われたCOP26には参加して、若い仲間と共に会場の外などで集会を開いてスピーチをしていました。

けれどもCOP27についてグレタは、ナオミ・クラインと同様に、エジプト政府が人権侵害を継続しているのを隠し国際的な印象をよくするために行う「グリーンウォッシング」であるとして、不参加を表明しています。

エジプトでのCOPについて彼女は「基本的人権を侵害している国の観光客向けの楽園での開催」であり「嘘や欺瞞をグリーンウォッシングしているに過ぎない」と一蹴。

エジプトでは、グラスゴーのCOP26やその他の国際的な気候変動イヴェントで行われたように、自由に抗議デモや集会をする事は難しく、グレタは市民社会の活動の場が限られていると語りました。実際に、自由なデモや集会が禁じられているエジプトでは多くの環境活動団体が参加を見送る事態となっています。

COPに意義はあるのか

このような状況でCOP27を開催する意義があるのかとか、参加することによってエジプト政府の「グリーンウォッシング」に加担するだけなのではないかという声も聞こえてきます。人権問題について声を上げようものなら逮捕されるリスクがあるという状況では、環境団体の気候変動対策への呼びかけもエジプト政府の「仮面舞踏会」で踊らされるだけ。それどころか、警察国家の人権抑圧に加担してしまうことにもなりかねません。

COP27に対してそれほど強い口調での反対はしない人でも、デモや自由な政治活動が許されていないエジプトでCOP会場の外でNGOや個人の環境活動家が集会をしたりすることが難しかったり、入国においてLGBTなどエジプト政府が容認しない属性の人々が許されるのかという懸念も聞かれます。

そもそも、毎年行われるCOPそのものに意義があるのか、いくら討論しても各国がばらばらな意見を言うだけで、同意は得られず、無駄なのではないかという悲観的な見方をする人もいます。意見や事情が異なる国々が約200か国集まるわけなので、いくら重要な気候変動問題と言えども、その具体的な解決策について全加盟国の合意を得ることは不可能に近く、合意案にこぎつけられるのは大まかな目標にすぎなかったりするからです。

けれども、もしCOPがなかったらどうでしょうか。ただでさえ自国民の要求や自国の経済成長を優先しがちな各国政府に対して、地球規模の気候変動対策について真摯に取り組むプレッシャーはさらに弱まるでしょう。COPという国際会議の重要な点は、米国や中国のような大国、EUのような大きな組織も、アフリカの後進国、太平洋の小さな島からなる国も同じ席について公平に話し合いができるということです。

各国が気候変動に対処するための取組について具体的な行動を約束し、それぞれが立てた目標についてその達成具合や課題について反省したり議論したり質問をしあうことで、お互いが少しずつでも歩み寄り、目標に向かって前進することができるのです。

COP27がエジプト政府のグリーンウォッシングとなってしまうのか、それともこの機会を利用して、各国政府やNGOを始めとする国際世論が気候変動対策だけでなく、人権擁護や民主的な言論・活動の推進についてエジプト政府に影響を与えることができるのか、その経過を見守っていきたいと思います。

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