ギリシャにホリデーに行っている間、留守をしていたイギリスに熱波が到来し、記録的な高温となったことをニュースで知りました。イギリスだけでなくヨーロッパ諸国は軒並み熱波に襲われ、死亡者が出たり山火事が起こったりの被害も。普段は夏でも涼しいヨーロッパでこのような高温となったのは、気候変動が影響しているのでしょうか?
ヨーロッパの記録的熱波
3年ぶりのホリデーに出かける前、7月のイギリスはいつも通り20度前後の気温でした。ギリシャのクレタ島に着くと30度近くの暑さ。
遺跡などの観光は朝早い時間にすませ、暑い日中はプールサイドでのんびりしているところに「イングランドで40度」という「うそでしょう?」というニュース。7月でも夏らしくないイギリスからわざわざギリシャに来たのに、こちらの方が涼しいなんて、何だか損した気分に。けれども、7月18,19日の2日間で熱波による被害を受けている人も多いと聞いて、それどころではないらしいとわかってきました。
夏と言えども気温が30度を超すことが珍しいため、家や職場にエアコンもないところが多いイギリス。慣れぬ暑さで、高齢者を中心に命を落とす人までいたということでした。
さらに、火事が起こったり、空港の滑走路が溶けて飛行機の離陸や発着ができなくなったり、鉄道線路が高温のためゆがんでしまうなどといったこともあり、イギリス各地で様々な被害が出たようです。
この熱波はイギリスだけでなく、他のヨーロッパ諸国にも訪れ、ポルトガルでは47度、スペインでも45度という酷暑を記録。高温によって高齢者を中心に1000人以上の死者が出たとのこと。
熱波の要因は気候変動?
この熱波の最高気温は7月19日にイングランド東部で記録された40.3度で、これはイギリスでは観測史上最高の温度です。これまでの最高は2019年にケンブリッジで観測された38.7度だったので、それを1.6度上回っています。
科学者というものは、このような、たまに起こる熱波などの異常気象を簡単に気候変動と直接結びつけることはしないものです。
けれども、この2日間の熱波に関して分析したWorld Weather Attributionの研究チームは、「人類の活動に伴う気候変動がなかったとすれば、この熱波は起こる可能性が非常に低かっただろう」と結論付けました。もし気候変動がなかったとしたら、たとえ熱波が生じたとしても、気温は2度程度は低かったと考えられるということです。
これは、この研究チームが、気候変動により産業革命前から気温が約1.2度上がっている現在の状況と、気温上昇が起こらなかった場合とをコンピューターでシミュレーションし、温暖化が熱波にどう影響したのかを分析した結果です。
そして、同チームは「これからも気候変動によってこのような熱波がより頻発に起こり、より深刻になり、より長期化するだろう」と予測しています。
暑い夏にはお手上げのイギリス
ふだん、夏でも涼しいイギリスは、まれに気温が30度を超すとお手上げとなってしまいます。
普通の家庭はもちろん、職場や学校、店舗などでも冷房も扇風機もない建物がかなりあります。地下鉄や電車にもエアコンが付いていない車両があります。これからもこのような高温にたびたび見舞われることになったら、社会インフラが追い付いていかず、大変でしょう。
伝統的な日本家屋は吉田兼好が言ったように夏の涼しさを求めたデザインになっていますが、イギリスの建物は外から寒気が入ってくるのを防ぎ、屋内を暖かく保つ仕様になっています。壁が厚く、二重窓なので、断熱効果は高く、2日間の熱波のときも「暑さを避けるために、窓を閉めて家の中にいるように」というアドバイスがあったようです。
ギリシャのホリデーからイギリスの我が家に戻ったのは7月22日と熱波が去った数日後。20度前後の涼しい天気で、それからもずっと同じような気温が続いています。
イングランド北西部の地域なので、7月18、19日には、40度とまではいかずとも37~38度くらいまでは気温が上がったと聞きましたが、その気配はもはや感じられません。
また、湿った日陰でわさわさと大きな葉を披露してくれていたヤグルマソウ(Rodgersia podophylla)の葉っぱが日焼けしたように茶色になっているのにも気が付きました。
大きな葉が茶色くなっていて見苦しいし、葉をさわるとかさこそしているので、刈り取ってしまいました。すぐに緑の新しい葉が出てきてくれるでしょう。また熱波におそわれなければ。
世界的な熱波と気候変動
ヨーロッパでは熱波が珍しいので大きなニュースになりましたが、世界各地ではこれよりもっと極端な熱波被害が起きています。
日本も例外ではなく、近年は夏の暑さがことさらに厳しく、熱中症になってしまう人も出てくると聞きます。インドやパキスタンでは今年の春、気温が45~50度にまで上がり、命を落とす人が何十人も出ました。
IPCC(気候変動に関する政府間パネル)報告書は、気候変動による熱波が起こる可能性が増えていると警告しています。それによると、10年に一度規模の熱波の起こりやすさが2.8倍、50年に一度の熱波の起こりやすさが4.8倍になっているということです。
気候変動の影響は熱波だけにとどまりません。洪水や干ばつ、高温による農業や漁業への影響、生態系への脅威なども無視できない問題です。
温暖化の加速を食い止めるために、温室効果ガス排出を削減し、各国が協力してさらなる努力を続ける重要性をあらためて痛感します。