東京に空き家が多い理由と解決策:ロンドンにはなぜ空き家がないのか?

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • Pocket
  • LINEで送る
Akiya

日本で空き家が増えているのは過疎化、高齢化している地方の話だと思いきや、東京や大坂などの都心でも空き家が増えているというニュースが話題になっていました。高級住宅街も多い「世田谷に空き家5万戸の衝撃」という記事があります。どうして都会の一等地に空き家が増えているのでしょうか。

日本の空き家率は増加傾向にある

総務省の報告によると、日本では総住宅数は増えているのに空き家率は一貫して増加が続いています。全国平均で1960年代には2.5%だった空き家率が、2018年には13.6%となっています。

日本での「空き家」の定義は1年以上人が住んでおらず、使われていない状態をさし、別荘も空き家として集計されています。

総住宅数に占める空き家率は13.6%ということですが、これには別荘が含まれており、別荘をのぞくと12.9%となるそうです。10軒に1軒以上が空き家ということなので、これでもかなり高い数字といえます。

Akiya Soumusho

日本で空き家率が高い県の筆頭は山梨県の21.3%、それから和歌山県、長野県、徳島県と地方が続きます。

過疎化や高齢化が進む地方では空き家率が増えるのも想像がつきます。空き家には別荘なども含まれるので、山梨県や長野県などは別荘住宅も空き家に含まれているのかもしれません。

空き家は地方の問題だけかと思いきや、都会でも空き家が多くなってきていて、大阪府の空き家率が15.24%、東京都の空き家率が10.6%とかなり高いのが注目されます。

東京など都会でも空き家増加

日本では一極集中が衰えを見せない中、過疎化とは縁遠い首都圏で空き家が増加しているというのは一見不思議な現象です。

けれども、東京都内には空き家が全住宅のおよそ1割に当たる約81万戸あり、その7割は23区内にあるというのです。そのうち、人口92万人の世田谷区の空き家は5万戸で都内で最多です。賃貸しや売却など市場に流通していないものが約1万2千戸あるそうです。

たとえば世田谷区の高級住宅街として知られる田園調布に近い住宅地は高齢者世帯が多いところです。このような高齢者が死亡したり病院や施設に入ると空き家が増えるわけですが、それを売却したり貸したりしようにも、不動産価値が高すぎるため若年層には手が出ないことが多いのです。

さらに、古くからの住宅地は路地が狭く接道の問題があったりして再開発も簡単にはいかないケースもあります。また低層住宅地では都市計画制限のため高層マンションなどの開発が難しく、開発業者からも敬遠されることが多いようです。

日本で空き家が増える理由

日本ではこのように、過疎化で空き家が増える地方とはまた異なった理由から都会でも空き家が増える状況があるのです。

この背景には、日本が明治以降の国家開発と戦後の高度経済成長下、確固としたグランドデザインや長期的な都市計画不在のまま、目先の必要に迫られてその場しのぎのスクラップアンドビルドを続けてきた顛末ともいえます。「新しくて便利なもの」をとりあえず開発し、大急ぎで建てていったため、一国の首都である東京でさえ、建物が支離滅裂に立ち並ぶマスタープランのないメガロポリスと化してしまいました。

そして都市計画規制がほとんどない中、個々の土地所有者や施主の需要にこたえて、最初から長く使うことを目的としていない安普請の材料とデザインを使ったちぐはぐな建築物や狭い道路が、全体としての景観を無視し公的空間をほとんど残さない形で、都市をおおいつくしてしまったのです。

この結果、東京という大都市圏はグリーンベルトなどの緩衝地帯もなくアメーバのようにアーバンスプロール(都市拡張)し、道路も空路も体系的に整備されないまま交通状況は混乱し、都市空間・生活圏を問わず景観や公共スペースはないがしろにされ、「一時的に」建てられた電柱は埋設されることなく増え続け、住居環境は「小さく、狭く、遠く、高い」劣悪条件のまま今に至っています。

急速な復興と経済成長を言い訳にして、とにかく目先の問題をとりあえず片付けていったつけが今になって日本社会の問題となってきているともいえます。

少し前まで日本は、そして東京圏は経済成長、人口増加を続けてきたため、その場しのぎで何とかやってきました。けれどもこれからは否が応でも人口減少と高齢化の世の中になります。様々な政策にもかかわらずブレーキがかかるどころか加速しつつある少子化の背景で、移民を大量に増やさない限りは人口減少傾向は続くだけではなくさらに拍車がかかるでしょう。

そんな状況で増え続ける空き家問題をどうやって解決したらいいのでしょうか。

イギリスには空き家が少ない

2015年の調査によると、イングランドで半年以上あいている空き家は約20万戸でした。2014年の空き家率は2.6%です。ロンドンだけを見ると、2015年の空き家率が1.7%と極めて低くなっています。そんなロンドンで空き家となっている住宅の多くは外国人が所有する不動産と言われています。中東アラブの富裕層など外国籍の個人や企業が投資目的や税金逃れなどの目的で購入していることも多いようです。それ以外の住宅では空き家はほとんどないと言ってもいいのです。

イギリスでは住宅不足が問題となっていて、特にロンドンは家賃や住宅価格高騰のため、若者や低所得者層が住むところが足りないのが大きな課題です。なのでロンドンの一等地にある不動産を空き家にしておくなんてもったいないというわけで、状態のよくない建物でも修理・改築されてすぐ不動産市場に出回るのです。

またロンドンに限らず、イギリスでは住宅売買の多くが新築ではなく中古市場です。新しく家庭を持つ人も、引っ越したり、現在の住居を手放して新しい住宅を買う人も、その多くが中古物件を物色して購入します。ヴィクトリア朝時代に建てられた、100年以上たった住宅を代々何世帯もの人々がそれぞれ改修・改善しながら今でも使い続けているのが常なのです。家は新しく建てるものではなく、古い建物を自分流にアレンジし直し、現代生活に適した設備を整えて使い続けるものというのが常識となっています。

イギリスだけではなく、歴史が古いヨーロッパ社会ではおおむねこの傾向があります。ヨーロッパの「高度経済成長時代」といってもいい19世紀から20世紀初めの建物などを主に維持修理、改修改築し、現代の生活に役立てています。

もちろん、これらの建築物がもともと改修するに値するだけの堅牢な素材とつくりでできているということもあります。煉瓦や石、鉄などを使った昔ながらの建築物が厳しいヨーロッパの天候にも、時折訪れる火事にもびくともしないのは、「三匹の子豚」のおとぎ話の通りです。かといって、物理的耐久性という理由だけで古い建物を使い続けているわけではなく、一般市民や建築家、政府や自治体の強い意志によって支えられてもいるのです。

イギリスでは70年代から80年代にかけて不景気が続いていました。私が最初にイギリスに来た1986年には煉瓦造りの古い工場や倉庫、テラスハウスと呼ばれる2階建ての長屋住宅など、使われないまま古びた状態で放置されたままの建物をあちこちで目にしたものです。けれども、今ではそういう「空き家」はみな改修・改築されて快適そうな住居やモダンなアパートメントやオフィスに生まれ変わりました。ロンドンだけでなく、マンチェスターやリヴァプールなどの地方都市でも少し遅れて同じような再開発ブームを迎え、かつて荒廃した都市に活気が戻っていく様子を目のあたりにしてきました。

イギリスでは都市計画法や政府・自治体の政策もこのような再開発プロジェクトを後押ししています。安易にスプロールを許容し、郊外の田園地帯(Greenfield land)を開発して新築することを許さず、市内の低利用地(Brownfield land)を再開発することを奨励するのです。

これによって未開発の自然を保護するだけでなく、都市内の荒廃地域を改善し、有効な土地利用を促進し、地域全体の不動産価値を高め、地元活性化や景観の向上につながるという結果になります。そして、ひいては犯罪や暴動、落書きなどの非社会的行動の抑止や住民の地元に対する愛着やプライド復活など、人々の日々の生活における満足度や幸せ度向上にもつながるのです。

さらに、古い建物を簡単に取り壊して、全く異なる素材やデザインの建物を土地所有者や建築家が勝手気ままにてんでんばらばらに新築することで、まとまりのある景観が損なわれてしまうことも避けられます。とはいえ、ヨーロッパ諸国では新築開発でさえ周りの景観を損なわないように慎重にデザインするし、自治体や地元コミュニティから社会的義務としてそれを求められてもいますが。

イギリス人は住宅を探すとき新築物件は「キャラクターがない」という理由で退け、ヴィクトリア時代の邸宅を改修したようなものやこじんまりとしたコッテージスタイルの古い家を好む傾向があり、そうした物件は新築より不動産価値も高いのです。

空き家問題を解決するためには

ヨーロッパと違って日本では守るべき町並みも保存するに値する住宅も少ないのかもしれませんが、京都の町家など木造住宅でも長く使い続けられているものもあります。また、不便なところにあるなどの理由で昔ながらの景観が残っている街を特別な文化財や観光資源として保存していることもあります。

そのような特別なケースでなくても、これだけ多くの空き家が存在しこれからも増え続けていくのであれば、その中で維持修復できるものは活用したいものです。もちろん、もともと長く使えるように建築されていなかったり耐震基準に達しないなどして取り壊すしかないケースもあるでしょう。

この機会に、私たちはこれまでのようにただ新しいものをありがたがり何でも使い捨てにする消費型社会を反省し、資源を大切にしていいものを長く使う、また直して使い続けるようにすべきではないでしょうか。これは家だけに限ったことではないのですが。

建築家や開発業者など建設に携わっている専門家も、今一度自分たちが建てる建築物が長く使えるものなのかを自らに問うべきだと思います。これから新築するものでも30年たったら取り壊さなくてはならない家ではなく、手を入れることで長く使える建築物を建てるのだという意識をもってほしいのです。個々の建設活動が資源を有効に使い、人々の生活空間の質を高め、広く社会に貢献するのではなく、逆に町の景観や公共空間をおびやかし、数十年間でやっかいな粗大ごみとなることに責任を感じてほしいと思います。

もちろん、そのような住宅を依頼する側も、自分の所有する土地なのだから好きにしてもよい、自分だけが、今だけ、よければいいという考えではなく、個々の住宅が都市空間の一部を構成するものであり、そこに長く存在していくものであるという意識をもってほしいのです。

そのような考えのもとに建てる住宅は使い捨ての材料や工法で建てるものよりコストがかかるかもしれません。けれども、長期的には維持修理してずっと使える資産になるはずです。長い目で見て「安物買いの銭失い」というのは住宅にこそ当てはまる言葉ではないでしょうか。

社会全体が建築物を一過性のスクラップアンドビルド対象として扱わず、都市空間を構成する重要な資産だと考えることで、空き家になるような家を最初から建てず、長く使える建物に手を入れつつ使い続けるようになります。そうすることで空き家がなくなり、抜けた歯がない、落ち着いた街並みや快適なまちづくりができるのです。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • Pocket
  • LINEで送る

SNSでもご購読できます。

メルマガ登録フォーム

* indicates required




コメントを残す

*

CAPTCHA