電線地中化:日本は無電柱化後進国、海外との比較とデメリット

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Electric cables

日本では当たり前にあるため気にならない人もいるようですが、イギリスに長く住む私がたまに日本に帰ると気になって仕方がないのが電柱と電線です。田舎だけでなく都会でも、一見おしゃれな通りでも電柱と電線が目に付くばかりでなく、狭い通りなど歩道を遮って邪魔になって仕方がありません。景観や快適さだけでなく災害時の安全性にも関わります。記憶に新しいところでは、2018年の台風被害で大阪地方の電柱が軒並み倒れていた写真がショッキングでした。イギリスでは電線はほとんど地下に埋めてあるのでこういうことがないのですが、自然災害の多い日本でどうしていまだに電柱が幅を利かせているのでしょうか。

無電柱化国際比較

ロンドン、パリなどヨーロッパの主要都市や香港・シンガポールなどアジアの主要都市では無電柱化が100%に近いのに対して日本の無電柱化率は低く、東京23区でも8%、大阪市でも6%と立ち遅れています。

シンガポールはもちろん、日本人が自国より「遅れている」と思いがちな中国、韓国、台湾などのアジア諸国でも無電柱化が進んでいます。例えば、ソウルでは1980年代に無電柱化が17%だったのが2010年には46%に進んでいます。

先進国で無電柱化がこれだけ遅れているのは、国際的に見てとても珍しいのです。

Underground Cable Rate

国土交通省「無電柱化の整備状況」

無電柱化のメリットとデメリット

無電柱化のメリット

電柱をなくすことによるメリットは様々なものがあります。

災害時の電柱倒壊による危険性がなくなる

2018年9月5日台風21号で倒れた電柱:大阪府泉南市新家(産経ニュース奥清博撮影)

日本は地震や台風などの自然災害が多い国です。1995年の阪神淡路大震災では電力4,500基、通信3,600基の電柱が倒壊しました。東日本大震災ではこの数は28,000基に上っています。地震や台風などの災害時に起こる電柱倒壊は道路の通行を阻害し、生活物資の輸送に永久を与えるほか、緊急車両の通行に支障をきたします。さらに、垂れ下がった電線に接触したり近づくことで感電の危険もあります。

架空線に比べ、地下に埋めてある電線は災害時の被害率が低く、信頼性が確認されています。台風の場合であれば地中線の被害は皆無といってもいいのです。

道路交通安全

災害時でなくても、電柱があることで道路の幅が狭くなり、歩道や路肩をふさぐように立っている電柱は歩行者や自転車に乗った人にとって危険となります。車いすやベビーカーを使っている人が電柱が歩道の真ん中にあるためにわざわざ車道に降りないといけないという場面もあるし、目の不自由な人にとってもバリアフリーの妨げとなっています。

自動車を運転する人にとっても電柱が視界の妨げになったり、電柱と接触事故を起こすこともよくあります。歩行者が車と電柱に挟まれる事故も大変危険です。

景観

電柱や電線は街の景観を著しく損ねます。せっかく美しく整えた街並みが電柱や電線のおかげで台無しになっているシーンは日本でよく見かけますが、慣れていると気にならないのでしょうか。そんな人でもヨーロッパの何でもない街並みや歴史保存地区などで特別に電柱電線をなくした日本の街を見ると「すっきり」していてきれいだと思うようです。どうしてそれを自分が住む町で実現したいと思わないのでしょうか。

Electric cables

 

日本に観光に来る外国人がよく言うのですが、日本で美しい自然風景や歴史的な街並みが残っているところでも電柱や電線があって興ざめだ、日本人は気にならないのかと。電線だけブロッキングできる特殊な才能があるにちがいないというのです。例えば京都の街並みや富士山の写真を撮ろうとしても電線が邪魔になって撮れないと言います。

電柱や電線に慣れている日本人でも、風光明媚な写真を撮ろうとして電線が邪魔になると思う人は多いのではないでしょうか。たとえば富士山の写真を電線なしで撮影する場所ってありますか。

日本では電柱に限らず街の景観に無関心な人が多いのですが、毎日目にする街並みを整えることはとても大事なことです。電柱や電線をなくし景観を整備することによって散歩が楽しくなる落ち着いた公共空間を生み出すことはその街の魅力を高め、そこにある家などの不動産価値を上げる可能性もあります。

無電柱化のデメリット

無電柱化によるメリットを書いてきましたが、逆にデメリットはあるのでしょうか。

一番の問題はコストでしょう。電柱設置に比べ電線を地下に埋めることはコストが数倍かかります。そのコストをだれが負担するかという線引きも必要になってきます。

さらに、電線などを地下に埋めた場合、故障や破損個所の特定や復旧作業に時間がかかるということも上げられます。

けれども、このようなデメリットは上記したメリットに比べれば重要ではないと思えます。故障や破損個所の特定や復旧作業に時間がかかることについては、電線などが地下にあることで、そもそも地震や台風の被害を受けないというケースも多いでしょう。

コストについてはこれまで避けてきた公共インフラ整備のためとして、道路や水道工事と同様に負担していくしかありません。考え方によっては公共事業による経済効果や雇用促進というメリットがあるという見方もあります。

このコストをだれが負担するのかという調整が必要なため、政府が地方自治体、電気会社、通信会社など関係団体と話し合いを進めることが重要となってきます。

日本での無電柱化の取り組み

どうして日本では無電柱化が遅れているのでしょうか。歴史を紐解いてみると、戦後復興時、コストとスピードが重要視されとりあえず「一時的に」電柱を使って電気を供給したというのがその要因のようです。その後電線の地中化をするつもりだったのが、高度経済成長期に突入してそのままどんどん電柱を立てていってしまったということらしいのです。都市計画などにおいても長期のヴィジョンに基づいた展望と政策実施ができない日本らしい話ではあります。

国土交通省の無電柱化政策

とはいえ、政府も無電柱化をすべきだということは認識しており、国土交通省では昭和61年(1986年)から無電柱化の取り組みを行ってきました。

国土交通省では無電柱化を推進目的として下記の3点を挙げています。

  1. 景観・観光:景観をよくする
  2. 安全・快適:歩道の幅を広げ通行空間の安全性・快適性を確保
  3. 防災:地震や台風などの災害時に電柱の倒壊による事故を防止

しかし、国土交通省の無電柱化の取り組みは遅々として進んでおらず、その成果は特別な地区を除いてはほとんど出ていないと言っていいでしょう。

無電柱化の方法

国土交通省は無電柱化のための政策として、緊急輸送道路において電柱の新設を禁止する措置や、防災上重要な道路における無電柱化を促進するため、電気事業者などに対し、無電柱化を行うために取得した電線にかかる固定資産税の特例措置を実施するとしています。さらに、地上機器を設置する際にも景観に配慮した取り組みを推進しています。

無電柱化のためにかかる費用負担は道路管理者と電力・通信事業者が分担して負担します。

無電柱化の具体的な方法としては地中化による方法のほかに、沿道家屋の軒下は軒先に配線したり、裏通りに電線を配置する方法も検討されています。

萩市の浜崎地区では軒下に電線を配線する方法で街並みを整備していました。

萩浜崎

山口県萩市浜崎伝統的建造物群保存地区

まとめ

日本での無電柱化に関してはもう何十年も言い続けているのですが、バブル期を含めこれまで手が付けられていなかったのが不思議なほどです。現状ではやっと緊急輸送道路や伝統的建造物保存地区などの特別な地域で無電柱化が推進されるようになっています。

けれども、普通の人が住む住宅地や駅前通りなどの生活空間にある道の無電柱化も同じように大事です。そのためには、政府や自治体、関係者だけでなく一般住民が無電柱化のメリットについて関心を深め自分事として考えていくことが必要でしょう。

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コメント

  1. てい より:

    同感です。海外に長く住んでいると、電柱電線だらけの街がみっともなく感じます。近年はインターネットの線も相まって、カオスになっています。

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