日本では「Go To トラベル」として、国内旅行を支援するキャンペーンが行われていますが、感染が再流行している東京が除外されたり、お盆休みの帰省も躊躇したという人もいるようです。イギリスもロックダウン導入後、新型コロナウイルスの流行も落ち着いてきて徐々に規制緩和され日常に戻りつつありますが、夏休みのホリデーはどんな感じなのでしょうか。
コロナによる渡航者検疫
イギリスでは入国する際に渡航者に自己隔離を義務化する措置が導入されていたのですが、7月10日になって、日本を含め感染が落ち着いている地域からの渡航者の隔離措置が免除されました。
夏休みということもあるし、7月のイギリスは雨続きだったので、いつもほどではないにせよ外国にホリデーに出かけることにした人もちらほらいました。けれども各国でロックダウンが解除されると、スペインなど観光客が多いところなので再流行が報告されるようになりました。
それで、イギリス政府は7月25日にスペインからの渡航者に再び2週間の自己隔離措置を求めると急に発表しました。スペインは毎年1800万人ものイギリス人が観光に訪れる国なので、この時もすでにスペインにホリデーに出かけていた人もたくさんいました。その中にはグラント・シャップ運輸相までいたのです。この人たちはイギリス帰国後、2週間の自己隔離をしなければなりませんでした。
それからはスペインを避けて代わりにほかの国に行く人がいたでしょうし、その多くは隣国であり飛行機だけでなくユーロスターやフェリーでも行けるフランスに向かった人もいたでしょう。
しかしフランスでも最近になってコロナの再感染がおこり、イギリス政府は8月15日土曜日からフランス、オランダ、モナコ、マルタからの入国者に隔離義務を導入すると3日前の木曜日に発表したのです。その時フランスにはすでに約16万人のイギリス人が滞在中だったそうで、ホリデー予定を変更して急遽帰国する人もいたようです。
こうなると外国に旅行するのはリスクが大きいと考え、国内旅行に目を向ける人が増えてきます。
イギリス人のホリデー
普通のイギリス人の夏のホリデーというのはどういうものなのでしょうか。1980年頃まではホリデーで外国に行けるのは富裕層だけで、庶民はイギリスの田舎や海に出かける国内旅行が主でした。
けれども、格安航空券やチャーターフライトを利用したパッケージツアーが庶民の手の届く価格で販売されるようになってから、イギリス人のホリデー先はスペイン、フランス、イタリア、ポルトガル、ギリシャ、トルコなど主に南欧諸国に集中するようになってきました。
宿泊費から食費まですべて込みになった安上がりの1~2週間の海外ツアーもあるし、物価の安いギリシャやトルコなどでは宿泊費や外食費も安くつくので、航空運賃を別にすれば国内旅行よりもコスパがいいのです。
そして何といってもイギリスは天気が予測できず、夏らしく暑い時もあれば、気温が上がらず雨が降ることもあるので、ほとんどいつも太陽がふりそそぐ南国のヴァケーションの魅力は大きいと言えます。
今年はStaycation ステイケイション
とはいえ、外国へのホリデーから帰国すると2週間の自己隔離となる可能性があるとすると、今年はやめておこうかと思いますよね。うちも冬に予約していたスペイン、アンダルシアへの2週間の家族ホリデーをあきらめました。
ジョンソン首相は海外旅行の代わりに「イギリス国内でステイケイションを楽しもう。」と国民に呼びかけています。「Staycation」というのは「Stay」と「Vacation」を組み合わせた言葉で、もともとは自宅付近でゆっくりする意味だったのですが、ホリデーというと海外旅行が主流になった最近は国内旅行のことも含めて使われています。
イギリスは今年の4~6月のGDPが20.4%落ち込み、景気悪化が深刻な問題となっています。国のトップが財布が固くなっているイギリス人のお金を少しでも国内に落としてもらおうという気になるのは当然ともいえます。そのためにわざと国境検疫を厳しくしているのではないかと勘繰りたくもなります。
とはいえ、イギリスでは日本の「Go To」キャンペーンのような国内旅行支援はありません。
似たようなもので「Eat Out and Help Out」というキャンペーンで8月にレストランなどの外食費の半額を政府が支援する政策が導入されていますが、月から水曜だけ、金額も一人10ポンド(約1400円)までと比較的少額です。
また、政府は通常日本の消費税にあたるVATの減額も導入しました。今年7月15日から年末まで、レストランなどの外食費、ホテルやキャンプサイトなどの宿泊費、映画や劇場などのエンターテイメントにかかる消費税を現行の20%から5%に引き下げるものです。
お金だけでなく、実例でも示そうとでもいうように、ジョンソン首相も生まれたばかりの子供を含め家族3人でスコットランドに2週間のホリデー中だということです。この時期はエリザベス女王も毎年スコットランドのお屋敷に夏休みを過ごしに行き、乗馬や散歩を楽しんでゆっくりするのがならわしです。
ステイケーションの行き先は?
それでは、イギリス国内のステイケーションにはどんなものがあるのでしょうか。
イギリスにも名所旧跡や娯楽アトラクションなどといった、いわゆる観光地もあります。けれども一般イギリス人、特にロンドンなどの都会に住む人は美しい風景や自然を見たり触れたりすることに魅力を感じる人が多いです。ソーシャルディスタンスが尊重される状況ではことのほか、混雑しない田舎や国立公園などの大自然が好まれます。
イギリスでは天気が良かった4~5月のロックダウン中、自宅やその周辺に数か月も閉じ込められた経験もあってか、今年は特に「自然あふれる田舎」への希求が強いようです。
自然あふれる田舎というと南西部のコーンウォールやデヴォン、イングランド北部の湖水地方やヨークシャー、スコットランド、西部のウエールズなどが思い浮かびます。イギリス各地にある国立公園やビーチがある海岸部も人気です。
そういうところで、のんびり時間を忘れて数週間特に何もせず本を読むだけという人もいれば、ハイキング、湖巡り、山登り、カヤッキング、乗馬、バードウォッチング、庭・城・邸宅めぐり、ビーチで日光浴、砂遊び、水泳、サーフィン、ボディーボーディングなどアクティヴに過ごす人もいます。
宿泊先は?
泊まるところは各人の好みや経済状況に応じて様々なスタイルの宿泊スタイルが選択されます。短期の滞在だとホテルやB&Bと呼ばれる朝食付きのゲストハウスも多いのですが、夏休みとなると2週間とか週単位のホリデーになることが多いこと、また今年は「ソーシャルディスタンス」が重要視されるため、ほかのタイプの宿泊先が人気です。
キャンプ
テントでのキャンピングは一番安上がりですが、雨が多く、気温も低いことが多いイギリスではあまり一般的ではありません。
イギリス各地にキャンプサイトがあって、そういうところに泊まればトイレやシャワー、炊事場などの設備があるし、ユースホステルなどでも戸外にキャンプスペースを設けているところもあります。けれども、ステイケーション需要で今年に限ってはそういうキャンプ場が軒並み満杯だとのこと。そのため、ワイルド・キャンピングと呼ばれる、何もない野外にテントを張る人も多いようです。
少人数が目立たない場所で、できるだけ遅い時間にテントを張り早い時間に片づける、ごみなどを残さないなど、特に問題を起こさない限り、ワイルド・キャンピングは許容されているようです。湖水地方の国立公園スタッフの報告によると、6月末の1晩だけで野外キャンプをする人を200人見つけたということ。中には山頂で20人ほどでパーティをしていたグループもあり、ここまで来るとちょっと行きすぎなので注意したとのことです。
キャラヴァン・キャンパーヴァン
キャンパー・ヴァン(Camper Van)と呼ばれる、宿泊スペースのついたヴァンだと雨が降っても安心です。小さいものだと簡単なシンクと料理用コンロが付いたものだけ、大きいものだと部屋が分かれて、キッチン、トイレやシャワーも完備のものまでサイズもさまざま。
また、キャラヴァン(Caravan)と呼ばれる、車なしの居住スペースだけのものもあり、この場合は自動車でけん引して運びます。
このようなスタイルのキャンピングはキャラヴァンサイトなどと呼ばれる専用の施設を予約して利用することがほとんどです。ホテルなどに比べて安く済むので、海外格安ホリデーが一般的になる前はビーチ近くなどに数週間キャラヴァンホリデーに行くイギリス人は多かったものです。
ホリデー・カテージ Holiday Cottage
Airbnbが普及するまでは、イギリス国内でのホリデーというとホリデー・カテージと呼ばれるセルフ・ケイタリング、すなはち家具や自分で料理洗濯などをする施設付きの宿泊施設が主流でした。アパートメントスタイルもあれば、普通の家のように一軒丸ごと借りるタイプもあります。
ホテルに比べるとプライヴァシーが保たれ、長く滞在する場合低コストで済むこともありAirbnbとともに人気があります。ホテルやB&Bなどに比べソーシャルディスタンスが保たれる、このタイプの宿泊施設は今年は特に人気ですでに需要が供給を上回っており、残っているところは価格も高騰しているようです。
ホリデー・コテージをたくさん経営するある会社で今年はサイトを検索する人がスコットランドで532%、コーンウォールで325%の伸びだったということです。Airbnbも同様で、6月はイギリス人がAirbnbで予約した宿泊先の70%がイギリス国内でした。普段は国外のほうが多いのです。
我が家のステイケーション
さて、我が家の今年のホリデーはどうなったのでしょうか。うちは大体秋、冬、春に日本に行き、夏はヨーロッパにホリデーに行きます。ここ数年はイタリア、ギリシャ、トルコといったところに行きました。
今年の4月はイースター休みに2週間半の日本行きを予定していました。仕事の予定もあり、ぜひ行きたかったのですが、ぎりぎりになって諦めました。その頃は感染があまり広がっていなかった日本にイギリスから入国するのは無責任な気がしたし、入国しても2週間隔離するとなると何もできなくなってしまうからです。
7月に予定していたスペイン・アンダルシアのホリデーは冬にあらかじめ飛行機だけ予約しておいたのですが、そのうちコロナ流行が始まり、予約した飛行機がキャンセルになりました。代わりの飛行機や宿泊先を探すまでもないかと、あきらめることにしました。
スペインに行く予定だった数週間は日帰りのステイケーションをしました。数日おきに自動車でダーラム、ランカスター、ノッチンガム、ブリストルなど前々から気になっていた街に日帰りで遠出して散策したのです。数年後に控える息子の大学選択の下調べのつもりもありました。大学というものは学科そのものの内容はもちろんですが、どんなキャンパスなのか、どういう街、居住環境なのかを知っておくことも大切だと思うからです。
日本では、特に私立の有名大学と呼ばれるところが東京に集中していますが、イギリスでは各地に散らばっています。もちろんロンドンにもいくつか大学はありますが、キャンパスが狭かったり生活コストが高すぎて、学生にとって最適な環境ではないようです。
イギリスには北から南まで国内あちこちに特色のある大学があり、自分が勉強したい学科内容や、魅力的なキャンパスや学生街、住んでみたい地域によって選択肢があります。ロンドンなどといった都会一択でなく若者が大学進学で全国に散らばり、そのうちかなりの卒業生が大学のある地域に住み続けることにもなります。そのおかげで、若者やその文化、さらに知識階級が一極集中しないことにより、知識産業やクリエイティヴな事業が育つ素地が全国に散らばり、多様性と重層性を国の文化や経済にもたらします。
今年訪れた街のほかにも、過去に息子とロンドン、マンチェスター、ヨーク、オックスフォードなどの大学街にも行ってみました。彼はその中でも、緑が多く落ち着いたダーラム(Durham)が気に入ったようです。あとはそこに行けるようにしっかり勉強するだけなのですが、どうなることやら。