イングランドで国家都市計画政策 National Planning Policy Frameworkが6年ぶりに更新されることになりました。これについて、2018年3月4日メイ首相がイギリス都市計画会議でスピーチをしました。イギリスでは近年住宅不足問題が懸念となっていますが、メイ首相はこの問題を解決するために都市計画の法律を改正するなどの取り組みをすると言っています。
住宅不足問題
メイ首相のスピーチは住宅不足と価格高騰のため、若い人や低所得者層がマイホームを購入することができないという問題に焦点をあてています。
2017年には217,000件の家が建てられましたが、全体的に見て住宅需要に対しての供給数は低いままです。そのためもあり住宅価格が高騰しているため、新たに住宅(フラット=マンションも含む)を購入したいと思っている若い人々や低所得者層は市場に参入することができません。住宅価格が高いので、結果的には賃貸の家賃まで高騰しています。
メイ首相はこのことで社会の一定層が住宅を購入することができないだけでなく、格差が世代にまたがって継続、また広がっていく結果となると言います。なぜなら、裕福な家庭の子供は最初の住宅を親の援助によって購入し、その後それを売却してもっと高価格の住宅を購入していくという、いわゆる「住宅すごろく Housing Ladder」の恩恵を受けることができますが、そうでないものは一生賃貸しをすることになるため資産を構築できず、格差がより広がる原因となるからです。
Theresa May's housing speech in full: Prime Minister promises crackdown on landbanking developershttps://t.co/7DwflZLKpO pic.twitter.com/9VkMLTn2IB
— Mirror Politics (@MirrorPolitics) 2018年3月5日
この持ち家思想というのは、欧米でも特にイギリス人に特有なもので、メイ首相も個人的な思いを語っています。
「私が夫のフィリップと共に初めて家を買ったときに感じた安心感をよく覚えています。もう家主によって追い出され引っ越ししなければならないという心配がないという。この安心感があったからこそ、社会やコミュニティーの一員であると感じることができ、それに貢献しようと思えたのです。私たちに必要なのは屋根だけではなく、マイホームを持つという安心感なのです。」
イギリスの持ち家率は60%以上と高いほうですが、最近は住宅価格高騰のため減ってきています。さらに減っているのは公営の賃貸で2002年には民営の賃貸より下回るようになっています。公営の賃貸住宅は労働党政権のもとでは増え、保守党政策になると減る傾向があります。
Good to hear @theresa_may acknowledge the need for more social housing – here’s a chart from our research that shows the point private rented began to house more people than social rented. Reduction in numbers is a key reason for the rise in stigma https://t.co/ByIEjNQ9IF pic.twitter.com/EIPa939pTY
— Benefit to Society (@2BenefitSociety) 2018年3月5日
住宅不足の原因
イギリスの住宅不足は長い間、複雑で時間もコストもかかる都市計画制度のせいにされてきました。都市計画許可を申請し許可を受けるまでのプロセスが複雑だし時間がかかりすぎる、また、申請しても開発が許可されないからだとディヴェロパーが言ってきたのを政府も一般市民も信じてきたのです。
けれどもよく調べてみると、実は都市計画の許可を与えられてからそのまま放置され建設に至らないプロジェクトがたくさんあるということがわかってきました。
これは住宅開発をするディヴェロパーが利益を最大化するために市場にたくさん住宅が出回らないようにし、住宅価格を釣りあげているのが問題となっているのです。
Developer ディヴェロパーとは?
イギリスで「ディヴェロパー Developer」というのは文字通り「開発業者」のことで、これは単なる不動産会社や建設会社とは異なります。いうなればこの二つを合わせた業務をしている民間企業のことで、規模的にも資産的にも大きな会社が主です。
ディヴェロパーは開発を目的として土地を購入し開発計画を立て、必要な許可を取得した上で開発(建設)を行い、完成したら販売するといった一連の事業を行っています。商業開発、工業開発などを含め総合的に事業を行うディヴェロパーもありますが、主に個人住宅を開発するディヴェロパーもあります。
日本では、ハウスメーカーや建築家が1軒ずつ注文住宅を手掛けることが多いのですが、イギリスの場合、新築の個人住宅や集合住宅は多くの場合こういう住宅ディヴェロパーが開発しているので、市場全体に大きな影響力を持っているのです。
近年、こういった民間ディヴェロパーの利益が大きく、そのトップが得ている多額のボーナスに非難の声が上がっています。メイ首相はディヴェロパーが得る利益ではなく、建てた住宅の数によって彼らは評価されるべきだと言っています。
住宅供給を促す制度
更新が予定されている国家都市計画政策 National Planning Policy Frameworkでは、住宅供給を促すための施策として、土地の有効活用、都市計画規制の簡略化、地域開発計画(Local Plans)の重要性、需要と供給のバランスをとるための施策などが挙げられています。
たとえば、都市計画申請がなされた場合、地方自治体の都市計画管理担当者は申請したディヴェロパーの過去の建設実績を許可するかどうかの考慮に入れることができるようになります。都市計画許可をとった後、何もしないで市場価格が上がるのを待っているディヴェロパーではなく、実際に住宅を建てるディヴェロパーに許可を与えようというものです。
また、キーワーカーと呼ばれる主要労働者、職業で言えば学校の先生、看護婦、消防士などが購入できるような低価格住宅(affordable housing)を供給できるようにすることも施策にあげています。
しかし、グリーン・ベルトや昔からある森林、海岸地域の景観は引き続き守っていかなければならないとしています。グリーン・ベルト内での開発は極力避けるべきで、どうしても必要な場合の最後の手段とするべきであると。もし、開発するようなことがあるのなら代わりの緑地を設けるべきであるとしています。
今後の予定
国家都市計画政策 National Planning Policy Framework は、これから8週間のコンサルテーションを経て、今年夏には最終案が発表される予定です。
参考
National Planning Poliy Framework Consultation proposals (March 2018)
Prime Minister Speech on Housing to set out changes to planning rules