最近、よく耳に入ってくるのが、公営の施設や公園が閉鎖されたり、商業施設になったりするという話です。それまで、市民に公開されて親しまれていた公共空間がなくなってしまったり、商業化されることで広く一般市民がアクセスすることができなくなり「公共」スペースの私物化が行われてしまうのは憂うべき現象でしょう。
渋谷のふれあい植物センター
2021年の12月にツイッターに印象深い動画が載っていました。植物センターの前でマスク姿で懸命に訴えている女性の姿です。それは渋谷のふれあい植物センターの園長さんのメッセージでした。
この植物センターは閉館することに決まったということで、園長さんが「植物園だけではなく、文化や喜びや皆さんに大切なものを誰かにつなげていく必要がある。」と訪問者によびかけていたのです。
園長からの最後のお願い。
失いたくない施設を失うのはここで最後にしましょう。皆さんの街にある植物園や博物館に行ってその施設が良かったら素敵で失いたくなかったら是非その声を行政に届けましょう。それがこれからの私達がすべき事、私達に出来る事。失った後はもう残していくしかないのだから。 pic.twitter.com/jd9lBpnlBj— えみまる (@Homo_sapiens_E) December 28, 2021
実は私はこの植物園を知らず、渋谷にこんなところがあったのかと思いましたが、2005年に開園以来17年続いている施設だそうです。地元の人や植物好きから愛されてきた「日本で一番小さい植物園」で、入場料はわずか100円です。
ガラス張りの2階建て吹き抜けの温室構造になっていて、熱帯植物からハーブまで、多種多様な植物を展示していました。
この施設がリニューアルされることになり、「農と食の地域拠点施設」として改修される予定がきまっています。リニューアル後は温室はなくなり、野菜の栽培や販売、その野菜を使ったレストラン施設となります。
リニューアル後は、これまでの自然と触れ合う機会提供に加え「農と食の発信拠点」に。
改修、緊急時避難通路、エレベーターや多機能トイレ、高効率省エネ機器
植物展示のほか、水耕野菜栽培、野菜ワークショップ、料理教室、野菜や種、庭道具販売、カフェ・レストラン機能。https://t.co/0od2g9pA1c— グローバルリサーチ【都市計画・地方創生】Global Research (@GlobalResearc16) December 30, 2021
渋谷区は改修内容決定に際しアンケートを行ったようですが、一部の機能に誘導するかのようなものだったという声もあります。
植物センターがなくなるのを残念に思っている人も多いのに、聞き入れてもらえなかったという意見もありました。
渋谷区ふれあい植物センターリニューアルに関する
アンケート調査報告書https://t.co/zU8NBBV90J pic.twitter.com/fxAb6nDQ8K— グローバルリサーチ【都市計画・地方創生】Global Research (@GlobalResearc16) December 30, 2021
宮下公園を商業施設にしたり植物園をレストランにしたりして(渋谷に限らないが)それでなくても公共の空間が少ない日本の都市は個人と商業スペースだけになってしまい、他人がふれあう場所が少なくなる。
カネにならなくても、芸術文化や自然に触れる施設は公的機関が維持しないと残れない。 https://t.co/R5P6N9ABOZ— グローバルリサーチ【都市計画・地方創生】Global Research (@GlobalResearc16) December 29, 2021
宮下公園からミヤシタ・パークへ
渋谷と言えば、少し前にも宮下公園が「ミヤシタ・パーク」として複合型の商業施設に生まれ変わったことが話題になっていました。宮下公園と言えば、かつてはホームレスが住む場所としても知られていましたが、そのリニューアル計画が何度か浮上しては、反対運動が起きて、なかなかスムーズに進んでいませんでした。
そして最終的には、官民連携によるPPP(パブリック・プライヴェート・パートナーシップ)で、商業施設とホテル、公園からなる複合型開発が行われました。2020年にオープンした施設には、高級ブランド店や飲食店、屋上に有料スポーツ施設と夜間以外は一般に開放されている公園があります。
渋谷図書館
渋谷区では図書館も閉館案が出ています。とはいえ、これには反対する声も多く、区議会定例会では「地元への説明が不十分」として継続審査となり、今のところ閉館決定は見送られています。
けれども、空調設備故障のため夏季は臨時休館し、現在は一部利用のみとなっています。これからどうなるのかを心配する声も聞こえてきます。
渋谷図書館も閉館案が出ているが、区議会定例会では「地元への説明が不十分」として継続審査となり、閉館決定は見送られた。
空調設備故障のため夏季は臨時休館し、現在は一部利用のみ。年度末で閉館の方針を固めた。
https://t.co/jOZeSf6krR— グローバルリサーチ【都市計画・地方創生】Global Research (@GlobalResearc16) December 30, 2021
各地で児童館が閉館
少子化により子供の数が少なくなっている中、児童館も閉館とする自治体が増えてきました。豊島区では児童館をすべて廃止することになり、杉並区でも廃止の議論が行われ、児童館で行われていた学童クラブの機能を小学校に移転する予定だとのことです。
児童館の多くは昭和の時代に建てられ、建物の老朽化による補修や建て替えコストが必要となる時期に入っています。けれども、自治体にはそのようなコストを支払うほど財政の余裕がないということで、この機会に閉館してしまおうという結果になるようです。
年齢の違う子供が学校以外で触れ合う貴重な施設がなくなることについて、反対意見も聞こえてきますが、予算に制限がある自治体にとっては致し方のない決断となるようです。
公共空間が消えると?
室内外問わず、誰でもその場所に行くことができ、その機能を利用できるパブリック・スペース(公共空間)というものは、あらためてその重要性に気が付かないものかもしれません。
利用者にとっては便利だし、あると助かるものではあっても、なくなるとなって初めてそれに気が付いて、手遅れになることもあるでしょう。自分にとってなくなると絶対に困るほど大切なものだと自覚する人は、それほど多くはないのかもしれません。
でもだからといって、公園や図書館が消えるのを住民やそこで働く人たちが何も言わずに受け入れていると、そのうち街は私的空間と商業空間だけになってしまいます。住宅と、職場と、ショッピングセンターだけの街に。そうなると家族や同僚、友人以外の人と触れ合わなくなります。
別にそれでもかまわないと思うかもしれません。でも、家族や仲間だけ、年齢や社会行動など属性が同じ人達だけとしか会わないような社会では成熟したコミュニティができません。普段、話をしないような人と偶然すれちがったり、何かのきっかけで行きずりの人と話したり、ただ様々な人々やその言動を見ることだけでも私たちは多様性のある社会について学びます。
そのような、誰でも拒まず、お金をはらわずともそこにいることができるみんなの「居場所」というものは、都会では特に、公的な機関が提供しない限り得難いものです。だからこそ国や自治体がそのような公共空間を、お金にならなくとも維持しないといけないのです。
日本の都会には公園や広場など、屋外のパブリック・スペースが少ないのが特徴です。例えばロンドンと東京を比べると、それが顕著です。ロンドンでは、都心部でも歩いて行ける範囲に公園や広場、散歩道があり、ベンチで休んでいる人や芝生に寝そべっている人を見かけます。テムズ川沿いにはゆったりとした歩道があって、ベンチがたくさん置かれています。
けれども東京では、歩き疲れてどこかで休みたいと思ってもカフェに入るしかなかったりします。
数年前に渋谷に行ったとき、いい天気だったので、イギリスでよくやるようにテイクアウトのコーヒーとおやつを買ってどこかで一休みしようと思いました。どこかにベンチがある広場があるはずと、うろうろ歩き回っても見つからず、結局立ったまま飲むはめになったことがありました。
今なら、ミヤシタ・パークに行けばいいんでしょうか。今度渋谷に行く時はそうするつもりです。