パリが時速30㎞制限を市内全域に導入

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Paris cars

8月30日からパリでは、市内全域で制限速度を原則として時速30キロにする規制を導入しました。この規制案は前から計画されていたのですが、反対意見も多く、本当に実行できるのかだろうかと内心あやぶんでいました。けれども、夏休み中の交通量が少ないうちに始めたほうがいいというねらいで、今の時期のスタートとなったらしいのです。

車社会から自転車と徒歩へ

フランスの首都として経済も文化も一極集中の感がある人口200万人都市、パリ。人口が密集するだけでなく、世界中から年間8000万人の観光客が訪れる街でもあり、華やかなイメージの陰で交通渋滞や大気汚染問題も深刻です。パリでは大気汚染のために市民の寿命が6か月間短くなっているという調査結果もあるほどです。

パリには地下鉄、電車、バスなど公共交通機関もありますが、古くからのインフラが老朽化していたり、たびたび行われるストライキによって交通サービスのキャンセルや遅延もあり、自家用車で通勤する人も少なくありません。

今年深刻化した新型コロナウイルス流行により外出禁止となったパリでは交通量が減りましたが、ロックダウンが緩和されると公共交通機関を敬遠する人も出てきて、通勤に車を利用する人が増える懸念もあります。

さらに、頻繁に起こる交通事故、大気汚染による環境破壊、自動車の排気ガスによる大気汚染で健康を害する人も多く、この問題は命にかかわってもきます。

自家用車の利用を減らすことは、地球規模の気候変動問題にも貢献します。パリはオリンピックが開催される2024年にはディーゼル車を、2030年までにはガソリン車の利用禁止を発表しています。

パリ15分シティ政策 (15 minute city)

2014年からパリ市長を務める左派イダルゴ市長は2020年6月再選の際の会見で「これからパリを市民をにとってさらに住み心地がいいところにしていきます。」と述べました。

イダルゴ市長はパリ市長選挙キャンペーンの公約として15分シティー計画(“ville du quart d’heure”) を掲げていました。これは、「車を使わず、日常生活を自転車で15分でアクセスできる街にする」という、環境に考慮した都市計画政策の一環です。

自家用車保有と道路建設に基づいた自動車優先のパリから、みなが歩いたり自転車に乗ったりして日常の用を足せる街への変容を目指しているのです。

パリ市長の「15分シティ」構想:徒歩や自転車で行ける界隈

 

道路を市民のために取り戻す政策

徒歩と自転車で移動するといっても、パリ市内は自動車がひしめいていてあまり安全な環境とはいえません。イダルゴ市長の提案は車に占領されたスペースを市民のために取り戻すというものです。

2024年までに6万台分の駐車スペースをなくし、すべての道路に自転車レーンを導入するために3億5千ユーロを計上する計画です。特に交通渋滞がひどいパリ中心地の主要道路は車両進入禁止として歩行者や自転車利用者に開放します。

さらに学校のそばには「子供通り」が作られ、車両通行を制限することで、子供が徒歩や自転車で安全に通学することができるようにします。そして、そのエリアは週末や休み期間には市民に開放されコミュニティスペースとして活用される予定です。

パリのサイクリングブーム

パリには以前から「ヴェリヴ」と呼ばれる公共のレンタサイクルがあり、市民や観光客に利用されてきました。とはいえ、ロンドンなどと同様、自動車やバスがひしめく市内では慣れないと自転車に乗るのに安全な心持がしないものです。

コロナによるロックダウン中に自動車の交通量が激減した中、パリには650㎞のポップアップ「コロナサイクルレーン」が導入されました。

また、郊外からパリ市内に自転車で通勤する人のために、750㎞のサイクルルートが整備されました。これまで利用していた地下鉄の利用を躊躇する人のために、3つの主要メトロ路線に沿って自転車専用レーンがつくられたのです。

このほか自転車の駐輪スペースがもうけられ、無料サイクリングレッスンが提供され、自転車修理や電動自転車・折り畳み自転車の新規購入のための補助金制度も設けられました。

このような一連の政策で、パリのサイクリング利用は1年で54%増えました。自転車だけでなく、電動も含め、キックボードの利用も増えてきています。

時速30キロが導入されるのは

パリ市内ではこれまでも、すでに道路の3/4程度は時速30キロ制限が導入されていましたが、今回はこれを原則としてすべての道路に適用します。

一部例外も設けられており、パリ市を囲む環状道路は時速70キロが継続されます。このほか、目抜き通りで車線も多いシャンゼリゼ通りやいくつかの幹線道は時速50キロのままとなります。

この制限速度は自動車だけでなく、すべての車両が対象となっており、自動二輪車や自転車にも適用されます。

賛成派と反対派

制限速度導入に賛成するパリ市民は59%と過半数で、反対は39%しかありません。自分の車を持たない人が多いパリ市民にとって、交通事故リスクや騒音、環境汚染などを起こす自動車にはうんざりといったところが見て取れます。

しかし、パリ市民以外ではこの制限速度に反対が61%となっていて、市外から車でパリに乗り入れる人にとっては人気が悪い政策のようです。また、パリ市内のビジネスや、野党議員、タクシーや自動車利用者からはかなり強い反対の声も上がっています。

とはいえ、交通渋滞や信号待ちのため、現在パリ市内を走る一般道路の平均速度は約15キロに過ぎないという調査結果も出ています。それなら(電動)自転車の方が早いくらいかもしれません。

パリ市民が車で移動する距離は5キロ以下が3/4であるというのですから、一般道路に制限速度を課すことによって、車から自転車に乗り換える人も出てきそうです。

徒歩と自転車を交通手段の中心に据えた「15分シティー」を目指すイダルゴ市長にとっては、車の交通量を減らすこと自体が目的です。車に占領されたパリを人々のもとに戻そうという試みは着実に進んでいるといえます。

パリにはよく行っていますが、これまでは自動車の交通量が多い上に乱暴な運転手が多く、道を横切るのも命がけということもありました。

コロナ騒ぎが始まってから訪れていないのですが、次回に行く時は一味違うパリの街を見ることができそうで、今から楽しみです。

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