市営バスを無料に:エストニア・タリンやフランス・ダンケルクの試み

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Dunkirk Bus

ヨーロッパの小国エストニアの首都タリンはあまり知られない街ですが、画期的な試みを始めたところでもあります。2013年にヨーロッパの首都で初めてバス、トラム、トロリーバスといった公共交通機関の運賃を無料にしたのです。これに続き、世界中様々な街で同様のサービスを導入するところが表れています。その一つフランスのダンケルクでは2018年の9月にバスを無料にしてから1年がたちました。

ダンケルク

フランス北部にあるダンケルクは人口約9万人の湾岸都市。戦後に、石油や製鉄業などで栄えてきた地方都市で、現在も沿岸に大規模な風力発電所などを備えています。

ダンケルクでは「グリーン」な街づくりを目標に、2018年9月1日から市内中心部でバス運賃を無料化するサービスを導入しました。

ダンケルクの交通事情

ダンケルクはヨーロッパの他の地方都市と同様に、自家用車を利用する人が多く公共交通機関の利用者は低迷していました。自家用車保有率は高く、住民の2/3が移動にマイカーを使っていたのです。

公共交通機関であるバスを使うのは車を持たない高齢者、学生、低所得者などに限られていました。

無料バスサービス導入前の市内の移動手段の割合は下記の通りでした。

65%
徒歩 29%
バス 5%
自転車 1%

利用者が少なかったため、バスはがら空き状態のことも多く、バスサービスを提供する年間コスト4700万ユーロのうち、バス運賃からの収入は10%しかありませんでした。それ以外のコストは60%を企業に課す事業税、30%は市の予算でまかなっていました。

バス運賃無料サービス

ダンケルクは2018年9月に市内と近隣にある複数の街を繋ぐバスの運賃を、全て無料にするという試みを導入しました。

新しいバスサービス

新しいバスサービスは運賃を無料にしただけではありません。これまでは利用者が少なかったためまばらだったバスサービスネットワークも拡充されました。

ダンケルクと近郊の街をつなぐバスネットワークが開設され、バスの数は100から140台に増えました。ナチュラルガスを利用したグリーンなバスも導入されました。

主要ルートには10分おきに5本の快速バスを運行。ほかにも、12本のルートでサービスを提供することで市民の利便をはかりました。

このおかげで、これまで移動手段にマイカーを使っていた住民の多くがバスを利用するようになりました。

バス利用者の増加

Dunkirk Bus
バス運賃が無料になり、サービスネットワークも拡充したことでバスの利用客は大幅に増えました。ルートによって50%から80%も乗客数が増えたのです。

バス利用者は平均すると平日で約60%増し、週末は利用率が2倍以上になりました。

バス利用者2000人を対象にした調査では、半数が以前より多くバスに乗っていると答えました。また、新たにバスを使うようになった人の48%が車の代わりにバスを定期的に利用していると答えました。

回答者の約5%はバスを利用するようになったことで、自家用車を売ったり2台目の車の購入をやめたと語っています。

車の利用が減った

以前はバスを使う人は高齢者や若者、低所得者など車を持たない、持てない人だけでした。けれどもバスが無料になってからは様々な人が利用するようになりました。

車の運転をしなくていい、ガソリン代を払わなくてもいい、交通渋滞にまきこまれることもない、駐車料金を払ったり駐車場探しをする必要もないなどの理由で、通勤やショッピングなどの移動のために車よりバスを選ぶ人が増えました。

運転免許を取るつもりだった若者がバスでどこにでも行けるため、車も免許も必要ないという結論に至ったという話もあります。

このように車を運転する人が減ったことで市内全体の交通量が減り、交通が緩和され、CO2排出量が削減されました。

自由をもたらした

ダンケルク都心部には労働者階級や低所得者層の人が多く暮らしています。バス代を心配することがなく移動できるおかげで、これらの人々が仕事を見つけたり、友人や親せきを訪問したり、街のイベントや文化活動などに参加する機会も増えました。

また、調査したバス利用者のうち33%が以前には全く行ったことがなかった場所をバスで訪れる機会が増えたとも答えています。

車に乗らない学生やお年寄りにとっても同様です。お金のことを気にすることなく気軽にバスを利用できるため、外出の機会が増えたという高齢者が多く、結果的に精神的にも肉体的にも健康なライフスタイルを送ることができています。

また、ダンケルクの無料バスは市民だけでなく訪問者にも適用されるため、他の都市からダンケルクへ来る人も増えました。

バスの無料化によって利用者が増えただけではなく、住民の生活や自由度も変わったのです。無料化による恩恵はすべての人々に自由と解放をもたらす結果となりました。

バス無料のコスト負担は?

バスを無料にするのはいいのですが、そのコストは誰が負担しているのでしょうか。

前述したとおり、ダンケルクでは無料化の前、バス運賃からの収入は10%しかありませんでした。その10%は事業税に上乗せすることでまかなうことにしたので、市に余計な負担はかかっていません。事業税は従業員が11人以上いる企業が支払うことになっています。

パリでは?

ダンケルクの試みに興味を示したパリ市長は去年ダンケルクを訪問し、無料バスの乗車体験をしました。そして、パリでもダンケルクのシステムを部分的に導入しました。

運賃が無料だった子供の年齢を11歳未満まで引き上げ、ハンディキャップのある20歳未満の若者にも無料にしたのです。これまでバス運賃が無料だったのは子どもと月収2000ユーロ未満の高齢者のみでした。

パリではバスの運賃収入がコストの半分を占めるため、すべての乗客を対象に無料にすることは難しいといえます。また、パリのような都会の場合、自家用車保有率が低いので、バスを無料にして増える利用者は車を使っていた人というよりは徒歩や自転車で移動していた人になるだろうと想像されます。

他の都市での試み

バスをはじめとする公共交通機関を無料にする試みは部分的には世界の様々な街で導入されています。

2013年にヨーロッパの首都で初めてバス、トラム、トロリーバスを無料にしたエストニアのタリンでは市民だけを対象にしてサービスを提供しています。グリーンカードを2ユーロで購入することで、市民は公共交通機関を無料で利用できるというものです。

2017年の調査によると無料公共交通サービスを行っている街は世界中に99ありました。ヨーロッパに57、北米に27、南米に11、中国に3、オーストラリアに1か所です。それらはすべてダンケルクより小規模な街であり、時間、ルート、対象客など何らかの制限をもうけています。

中国のChangningでは2008年からバスが無料になり、乗客数が60%増えたという報告があります。

まとめ

公共交通機関の無料化による恩恵はそれぞれの街の環境によってさまざまです。ただバスを無料化しても街の在り方そのものが車中心に作られていたらダンケルクほどのメリットは得られないでしょう。

タウンセンターに職場や店舗、サービス業、飲食店、公共サービスをまとめ、郊外の住宅街からタウンセンターにバスで通うような街にすると公共交通機関を中心とした移動方法が最適になります。

そして、そのような街はすべての人がアクセスできる、民主的で活気あふれる街になるでしょう。

 

参考記事:‘I leave the car at home’: how free buses are revolutionising one French city

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