ロンドン中心部の中国「スーパー大使館」計画承認:都市計画の観点から考える

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2026年1月20日、英国政府がロンドン中心部「ロイヤルミント」跡地での中国大使館建設の都市計画開発案を承認しました。ロンドン塔の近くに位置するこの敷地周辺は、私自身もこれまで何度も歩いてきましたが、交通量の多い道路に面しながら、高いフェンスに囲まれ、歩行者が近づける余地の少ない場所となっています。

中国「スーパー大使館」計画

中国大使館計画地は歴史的な建物と豊かな樹木を抱えた広大な敷地でありながら、その多くは高い塀の内側にあり、外部から都市と関わる方法は、狭い歩道を歩きながらゲート越しに内部をのぞくことに限られています。都市にとって重要な敷地であるにもかかわらず、内部の空間がほとんど都市に開かれていない点には、以前から課題を感じてきました。この場所には単なる建物ではなく、都市と敷地をつなぐ公共空間のあり方が重要になると感じてきました。だからこそ、この場所には単なる建物の建設ではなく、都市と敷地をつなぐ公共空間のあり方が重要になると考えてきました。

まず、2023年の記事で中国大使館が計画されていることを取り上げ、都市景観と公共空間、歴史的建造物の保全といった都市計画上の観点から課題を整理しました(参照:「ロンドンの中国大使館が都市計画不許可で政治問題に」)。当時は計画自体が住民や自治体の賛否をめぐる議論段階にあり、地方自治体(タワーハムレット区)と中央政府との関係性も焦点となっていました。

その後、2025年にもこの案件について触れ、歴史的敷地における大規模な大使館建設計画が承認プロセスで停滞している現状と、英国の都市計画制度の仕組みについて述べました(参照:「ロイヤルミントに計画される中国スーパー大使館」)。

今回はこの計画が最終的に承認されたという新たな動きを受けて、都市計画・公共空間の観点から今一度、考えてみます。

承認された計画の概要と経緯

今回英政府に承認された計画は、ロンドンの ロイヤルミント・コート における中国大使館の新設です。中国政府は2018年にこの歴史的敷地を取得し、当初から欧州最大規模とされる大使館建設を目指していました。過去の記事でも述べたように、この場所は700年以上にわたり造幣局が稼働した歴史的な敷地であり、都市の景観・公共空間としてのポテンシャルも高い場所です。

都市計画開発許可(Planning Permission)のプロセスでは、当初2022年に タワーハムレット区議会が計画を却下しました。その理由には住民の意見や影響評価が考慮され、歴史環境や公共安全に対する不安の表明がありました。

一般的に英国の都市計画制度では、地方自治体が開発許可を審査・決定しますが、この件は国家的重要案件として中央政府の判断に移管(コールイン)されました。政府は「外交施設の設置は国際的義務であり、国家安全保障上の評価を踏まえた措置が取る」と説明、そして2026年1月に申請を正式に承認するという発表があったのです。

都市計画制度における手続き

英国の都市計画制度は書類上は複雑に見えますが、実務に関わると「想像以上に人が介在する制度」だと感じます。公開審査や意見提出の場では、制度そのもの以上に、誰がどう語るかが結果に影響することも少なくありません。

英国の都市計画制度では、地方自治体が地域の開発許可を最初に審査し、環境影響評価や住民意見、公的利益を検討します。また、歴史的建造物がある地区や景観の保全が求められる区域では、Listed Building consent(歴史建造物に対する同意)も必要になります。

今回の案件は中央政府に移管されたため、地方自治体の判断は最終的な結論には至りませんでしたが、都市計画の基準体系や申請資料の公開手続きと透明性は焦点となりました。英国では公開審査が一般的に行われるため、申請案にある内部レイアウトの一部が黒塗りになっているという点が議論を呼び、専門家からの質問書提出や住民説明会要求が続きました。

計画承認後の都市空間への影響

私が特に気になるのは、この場所が「通り過ぎるだけの場所」から「近づけない場所」に変わってしまうのかどうか、という点でした。都市計画の議論では数値や条件で整理されますが、日常的に歩く人にとっては、その変化は直感的に感じられる「体験」となります。

承認された計画では、敷地の一部が都市とつながる公共空間として提供される案が示されており、現在の閉ざされた状態に比べれば、都市との関わりが増えるという点で一定の改善が期待できるでしょう。

こうした視点から見ると、注目すべき点はいくつかあります。まず、敷地の公共性とアクセス性です。ロイヤルミント・コートは歴史的な敷地として市民にとって重要な景観の一部であり、周辺にはロンドン塔のような観光地や公共空間があります。敷地の前面に新たに提供される公共空間がどのように街とつながるかは、都市計画上の重要な検討点です。

また、周辺インフラとの関係も。計画地周辺には光ファイバーケーブルをはじめとする重要な都市インフラが存在し、これが計画承認の議論対象となりました。都市計画の観点からは、地下・地上インフラとの共存やリスク評価が不可欠です。これらは建築物単体の設計だけでなく、公共空間の整備、保全すべき歴史的資源とのバランスといった複合的な評価を必要とします。

さらに、周辺の生活環境への対応も課題です。大使館の規模が大きい場合、利用者や来訪者の動線、セキュリティ確保のためのバリケード設置、警備計画などが地域住民の日常生活に影響を及ぼすことがあります。都市計画制度ではこうした用途転換に伴う環境条件の設定や周辺住民への配慮が審査要件となることが多く、英政府はこれらを考慮した上で承認したと発表しています。

都市計画の観点から見る国際的な施設設置と比較

大使館や国際施設の設置は、一般的に特別な計画許可プロセスを経ることが多いです。日本でも大使館移転や拡張の場合には、外務省と東京都など自治体の協議が行われ、都市計画手続きや景観条例、交通計画などが適用されます。英国の場合は、手続きの公開性が比較的高いことや地方自治体の初期判断が制度として強い点が特徴的です。

また、計画承認後の社会合意形成の観点も重要です。英国では住民や市民団体が司法レビュー(法的審査)へ進む可能性を示しており、都市計画が単に「許可」されれば終わりではなく、法的手続きや政治的対話を通じて都市空間のあり方が再検討される可能性があります。これは開発効果の社会受容性も都市計画の一部であるという視点を示しています。

まとめ

ロンドン中心部の中国「スーパー大使館」承認は、単に一つの開発計画が認められたというだけではありません。都市計画制度、地方自治体と中央政府の関係、国際的な外交課題、歴史的景観や公共空間の価値評価、安全保障インフラとの共存、住民意見の集約など、複合的な課題が絡む事例です。英国の都市計画制度は公開性や市民意見の反映、自治体の初期判断の重みが大きく、こうした国際的かつ政治的要素の強い案件で制度がどのように機能するかを知るうえでも意義があります。

今回の「スーパー大使館」案は、都市計画の専門家から見ても特別なケースです。歴史的都市空間における公共性の確保、国際的施設の設置、開発プロセスの透明性、社会的合意形成と制度的保障という視点から、多くの示唆を与えてくれる案件といえるでしょう。

承認された計画は3年以内に工事が着工される予定です。計画が具体的なかたちになる過程で、都市との接点がどの程度増えるのか、私自身ロンドンのまち歩きで確認したいと思っています。

ところで、あなたの住むまちでも、都市の中心部にある敷地が閉ざされていることはありませんか?また、そのような敷地が皆に開かれていたとしたら、どのように感じるでしょうか。

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