映画と噴水と知らない誰か―ロンドンの公共空間

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夏休みになると、子どものいる親にとって毎日どう過ごすかは日本でもイギリスでも大きな課題です。ロンドンでは夏の間、公園や広場、ミュージアムなどがにぎわい、噴水広場やプレイエリアには子どもたちの笑い声があふれます。スポーツやエンターテインメントのイベントも数多く開催され、その多くが無料で誰にでも開かれているのが特徴です。富裕層は海外旅行に出かける一方、どこにも行けない家族もお金をかけずに街の公共空間を楽しんでいる光景をよく見かけます。

私自身は子どもを見守る必要がない分、静かに公園やガーデンめぐりを楽しむことができます。そしてロンドンに引っ越した今年は、ここならではの「Summer Screens」と呼ばれる屋外シネマにはまりました。ロンドンでは夏になると各地にアウトドア映画館が登場します。有料のものもありますが、キングスクロスの運河沿いで開催される「Everyman on the Canal」では、夏の間、ほぼ毎日のように無料で映画上映が行われています。

作品は家族向けから話題作まで幅広く、予約も不要。近くのカフェやバーでドリンクを持ち混み、階段状の席に腰掛けて映画を楽しむ人々、運河沿いの散歩ついでに立ち寄る人、橋の上からのぞき込む人―。映画の最中にボートが通過したり、ランナーがスクリーン前を横切ったりする、そんな偶然も含めてリラックスした雰囲気です。

私は午後2時半からのファミリー向け上映を3回訪れました。『天気の子』や『君の名は。』、そして『ニュー・シネマ・パラダイス』。炎天下ではさすがに暑くて途中で木陰に移動したこともありましたが、噴水広場のそばでベビーカーを押す親子と並んで地べたに座り、映画を共有する時間はとても心地よいものでした。

映画に限らず、ロンドンの公園や広場、ミュージアムは「誰にでも開かれている」からこそ、多様な人々とふれあう機会を与えてくれます。直接会話を交わすことは稀ですが、互いにちょうどよい距離を保ちながら同じ空間を過ごす。その体験はショッピングセンターやレストランでは得にくいものです。時に声が大きすぎる人やちょっと怖そうに見える人もいますが、そうした多様さに触れること自体が「社会の一員として共に生きている」ことを実感させてくれます。

だからこそ、まちに公共空間が存在すること、そしてそこを誰もが利用できることは大切です。もし自宅から自家用車でドアツードアの移動しかしない生活を送っていたら、異なる背景を持つ人々への理解や共感は育ちにくいのではないでしょうか。

公共空間は、社会における結びつきや帰属意識を育み、他者への思いやりや尊重の感覚を養う場です。人は一人で生きるのではなく、社会の一員として暮らしています。だからこそ、自分と同じように他者も尊重されるべき存在だと実感できる環境を整えることが大切なのです。

まちづくりにおいて、誰もが利用できる公共空間を守り、必要であれば新たに創り出す努力をすること。それこそが、よりよい社会を築くために欠かせない視点だと強く思います。実際、イギリスではまちづくりにおいて公共空間の重要性が真っ先に考えられ、都市計画の仕組みにもしっかり反映されています。たとえば、キングスクロスの再開発では民間の開発業者によるプロジェクトでありながら、敷地の約40%を公園や広場などの公共空間として提供しています。

このような手法は、日本のまちづくりにも積極的に取り入れるべきだと思います。こうした取り組みによって、さまざまな人が自然に集まり、互いに関わりながら安心して過ごせる社会のつながりが育まれるでしょう。かつてのコミュニティ意識が薄れつつある日本では、こうした場の重要性がますます高まっていると感じます。

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