ロンドンの景観を守る「こだわり」の都市計画

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少し涼しくなり、さわやかなイギリスの夏。週末に家族でロンドン郊外のリッチモンド・パークへ出かけました。

リッチモンド・パーク

ここは、ロンドンにある8つの「ロイヤル・パーク(王立公園)」のうち最大のもので、955ヘクタールという広大な敷地に、森や庭園、湖、散歩道が広がっています。半日かけても回れるのは、そのごく一部だけ。自然の中で鹿がたわむれる姿を眺めながら歩き、公園内で最も高い場所にある「ヘンリー王のマウンド(King Henry’s Mound)」を目指しました。

この丘は見晴らしがよく、特に有名なのが、約16km離れたロンドン中心部にあるセント・ポール大聖堂を望む眺望です。そこには親切に望遠鏡が設置されていて、覗くと、生垣が丸く刈り取られた「額縁」のような隙間から、大聖堂の美しい丸屋根がくっきりと見えるのです。

高層ビルが林立するロンドンで、なぜ16kmも離れた場所からの視界が今も遮られていないのでしょうか? それは偶然ではなく、この眺望が都市計画によって厳格に守られているからです。

「ヴュー・コリドー」とは

この視界は「ヴュー・コリドー(眺望回廊)」と呼ばれ、都市景観計画の一環として法的に保護されています。セント・ポール大聖堂まで続く直線状の眺望軸が地図上で明確に線引きされており、その範囲内や周辺で建物の新築や増築を行う場合、高さや形状について厳しい審査が義務づけられています。

ロンドンではこの他にも、プリムローズ・ヒル(リージェント・パーク北)やハムステッドの丘などからのパノラマ、バッキンガム宮殿やウェストミンスター、テムズ川沿いの主要スポットからの景観が、同様に都市計画規制で保護されています。

近年はロンドンも他の世界都市と同様に超高層ビルの建設が進んでいますが、それらはこのような規制のない地域(例えばロンドン・シティの「タワー・クラスター」など)に誘導されています。そのため、東京のようにバラバラな高さの建物がパッチワーク状に開発されるということがなく、ロンドンならではの景観が保たれているのです。

大切な風景を守るために

それにしても、16kmも離れた一点からの「たったこれだけのヴュー」のために、その間の開発を何十年にもわたって規制し、ロンドン中の複数の自治体が連携して保護し続けているとは。実際に足を運んでその眺望を目にしたとき、その徹底ぶりに納得すると同時に、「たかが眺め」とせずに守り抜く—この「こだわり」がイギリスらしいと感じました。

 

参考

London View Management Framework

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