
普段は夏でも涼しいイギリスですが、今週のロンドンは様子が違います。30℃を超える日が続き、今日の予報は最高32℃。エアコンのない家が多く、暑さに慣れていないロンドンの人々にとっては、少し過酷な日々です。
暑くても散歩に行きたい
それでも、散歩が日課になっている私たちは、朝のうちなら…と、朝食後すぐに散歩に出かけます。それで気が付いたのは、同じロンドンの街でも、歩くルートによって体感温度がまるで違うこと。
焼けたアスファルトの大通りでは、まるでサウナのような熱気。でも、一本裏道に入って街路樹の並ぶ道を歩くと、ひんやりと心地よい風が通り抜けていきます。公園や川沿いの遊歩道では、緑のトンネルに守られるように涼しく、ゆっくりと深呼吸できる場所すらあります。
そんな体験をした後で、ふと思い出したのが、以前書いた記事『アーバンヒートアイランドを涼しくするには』です。
アーバンヒートアイランド
都市がコンクリートやアスファルトに覆われることで、日中に吸収した熱が逃げず、夜になっても気温が下がらない現象「アーバンヒートアイランド」。この記事では、都市における緑の重要性が、データとともに詳しく紹介しています。
都市部ではアスファルトやコンクリートの熱吸収・蓄熱、排熱の増加によって、郊外に比べて気温が数℃高くなる現象が深刻化しています。そんな「アーバンヒートアイランド」でも、樹木などの緑地の増加が夏の気温を0.4℃抑制し、暑さによる死亡率を約4割減らす効果も示されています。
ロンドンの散歩中に感じた「木陰の涼しさ」は、まさにその実例でした。
日本の猛暑日
たまに30度超えるくらいでまいっているわたしに、日本からはもっと深刻な声が聞こえてきます。連日35℃を超える猛暑日が続き、家族からは「暑くてたまらん」という知らせ。昨日読んだ記事では、子どもたちが日傘を差して登下校することを許すべきかどうかという論争。
いやいや、子どもたちが日傘を差す前にできることがあるのではと思うのです。日本の都市にも、もっと“木陰をつくる工夫”が必要ではないかと。日傘も役に立つのでしょう。でも、街そのものを涼しくするには、街路樹や緑の空間という“やさしいインフラ”が欠かせません。
気候変動が進み、イギリスのような「元・涼しい国」でも猛暑が日常になりつつある今。緑のチカラを、もっと見直してもいい時期に来ているのかもしれません。
暑い夏の日、涼しさをくれるのはエアコンや扇風機だけじゃない。
「木陰」という自然のエアコンこそ、都市に必要な“秘密の装置”なのです。
日本の都市は、街路樹の数が欧州に比べて少なく、その配慮をもっと増やす必要性を感じています。日本の都市でも、皇居外苑などでは周囲より最大約2.8℃低い気温が観測されるなど、緑の効果は明確です。それなのに、樹木伐採の話は聞いても、植樹や緑を増やす話はあまり聞こえてきません。
街路樹と緑のインフラ強化
木陰は「自然のクーラー」。子どもたちの学びの時間、通勤の道にも涼しさと心地よさをもたらします。私たちが普段通う通学路、職場までの道沿いに、もっと多くの街路樹を。
緑の回廊(街路樹で連なる道筋)ができれば、散歩やジョギングルートとしても大きな魅力になります。そういう場所があることで、真夏でも外出しよう、散歩しようという人が一人でも多くなれば、心身の健康にも寄与します。
ロンドンの 「クールスペース」
エネルギー危機の冬にイギリスではウォームバンクが広がりましたが、暑い夏にもみんなで涼しく過ごそうという試みがあります。たとえば、ロンドンでは「ロンドンのクールスペース」マップを公開し、誰でも無料でアクセスできる、屋内外の公共の涼しい場所をマッピング。これも、街なかで快適に過ごす工夫として注目すべき取り組みです。
エアコンや給水機がある、誰でも座って休めるところがある屋内施設(コミュニティセンター、宗教施設、図書館や美術館など)や涼しい木陰のベンチがある公園や広場など。イギリスでは公立の美術館や博物館は誰でも無料で入れるので、夏も冬も便利に利用できます。
まとめ
緑は本物の涼しさをくれるし、街路樹や公園は、気温だけでなく心も和らげる存在です。日本でもエアコンや日傘だけに頼るのではなく、緑のインフラを増やすことで、街をやさしく涼しくする発想をもっと広めていけたらと思います。酷暑が続く夏ですが、緑と共に暮らす都市ならではの「本当の涼しさ」を探してみましょう。