アイスランドで女性によるストライキ再び

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • Pocket
  • LINEで送る
Herbert Behrens / Anefo, CC0, via Wikimedia Commons

男女平等世界1と言われているアイスランドで今年10月24日に男女の賃金平等などを訴えるストライキが行なわれました。ヤコブスドッティル首相を含む多くの女性が、仕事だけでなく家事育児も休み集会に参加。実は10月24日は半世紀近い前の1975年にアイスランド女性の9割が参加した、最初の「女性の休日」ストライキが行なわれた日なのです。

1975年のストライキ

アイスランドの「女性の休日」ストライキは、1975年10月24日に行われた歴史的なイベントでした。当時、アイスランドでは男女の給与格差が大きく、女性の政治参加も限られていました。この状況に不満を抱いた女性たちは、男女平等と女性の権利を求める運動の一環として、ストライキを行うことに決めました。

ストライキの主催者は、アイスランド婦人連合(The Icelandic Women’s Rights Association)などの女性団体。全国の女性に10月24日に仕事はもちろん、家事、子育てなど家庭での無償労働をも放り出そうと呼びかけました。

1975年10月24日当日、アイスランド全国の女性たちは仕事、家事、子育てなどを一切放棄しました。学校や幼稚園も閉鎖され、多くのサービスが停止。この日、アイスランドの通常の社会活動はほぼ停滞しました。ストライキには女性の9割が参加したと言われ、多くの男性もこの運動に共感し、連帯したと言われています。慣れない家事や子育てに面食らった男性もいたかもしれません。

この1日だけのストライキはアイスランド社会における女性の役割に対する認識を変える契機となりました。このあと、同国では政治やビジネスの分野で女性の参加が増え、男女平等のための法律も制定されました。このストライキはアイスランド社会における男女平等の象徴的な瞬間として記憶され、国内だけでなく世界中で女性運動の一翼を担った出来事として広く知られています。

アイスランドは男女平等先進国

アイスランドは、世界経済フォーラム(WEF)ジェンダーギャップ報告書で、世界146か国中、14回連続で1位となっています。(日本は125位)

アイスランドでは女性の教育機会が広がり、大学の卒業生の66%は女性が占めています。女性の就業率は80%以上。男女の賃金格差の縮小も進み、他の国々に比べて比較的小さい方で、企業トップの44%も女性で占められています。

女性の政治参加も高く、国会や地方自治体の政治家の中にも多くの女性がいます。国の62議席中30議席(48%)は女性が占め、2009年から2013年にかけてはヨハンナ・シグルザルドッティルが女性初の首相を務め、現在のヤコブスドッティル首相も女性です。

1980年には、世界初の民選の女性国家元首としてヴィグディス・フィンボガドゥティルが大統領に就任し、1996年までアイスランドを代表していました。

このような状況の背景には、アイスランドで長年にわたって男女平等を推進する法律や制度が整備されてきた経緯があります。例えば、男女同一賃金の原則を法律で保障したり、両親を対象とした育児休暇制度も充実し、男女が育児を分担することが奨励されています。

今でも残る男女平等問題

そんな男女平等世界一の国なのに、アイスランドの女性は「まだ完全な男女平等が達成されているとは言えない」と語ります。

近年行われた調査でも、女性の平均所得は依然として男性に比べ10%余り低く、一部の職業では女性の収入は男性より21%低いという結果もあります。これは、リーダーシップポジションや一部の産業分野で、男女間の格差がまだ残っていることを示唆しています。清掃や介護など伝統的に女性と結びついてきたこともあって女性の就業率が高い仕事が依然として低賃金であるということも影響してるでしょう。

さらに、女性の40%以上がジェンダー暴力やセクシャルハラスメントを経験しているというデータも報告されています。性暴力の被害者の92%が女性で、さらに被害者の62%が18歳未満であるということも問題となっています。

今年のストライキは首相も参加

男女平等が進んではいるものも、未だに目標は達成されていないとして、1975年から半世紀近くたった今年10月24日、アイスランドでは再び「女性の休日」ストライキが行なわれました。

ヤコブスドッティル首相もこの日には公務を休むと事前に宣言し、全国の女性とノンバイナリーの人々に参加を呼びかけました。

このストライキでは、男女間の賃金格差をさらに埋めることとや、ジェンダーに基づく性暴力やセクシャルハラスメントを根絶することを求めています。そのための具体的な手段としては、女性が多い職業で働く労働者の賃金を公表することや、性暴力の被害者ではなく加害者にもっと焦点を当てた行動などを呼び掛けています。

当日は仕事を休んだり、家事育児を放棄して集会へ参加した人は約10万人と報道されています。アイスランドの全人口は約38万人なので、4分の1ということになり、参加者には男性の支持者も含まれます。ストライキのためにほとんどの学校や図書館、銀行が運営や営業を停止しました。首都レイキャビクには10万人ほどが集まって、男女平等の実現などを訴えるプラカードを掲げて広場を埋め尽くしました。

日本は?

ジェンダーギャップ指数において、トップのアイスランドに比べ、日本が146か国中125位なのはなぜでしょうか?

Gander Gap 2023

この指数では政治、経済、教育、健康の分野でそれぞれデータを測っていますが、日本は教育と健康の分野では世界でもトップクラス。それにも関わらず、経済、そしてとくに政治分野での女性の活躍度が極端に低いために、ジェンダー後進国となっています。政治参画では国会議員、閣僚、行政府長の男女比などが比較データに入ります。

今年9月の閣僚人事で女性の入閣が5人と過去最高に増えたのは、ジェンダーギャップ指数のデータを改善したいという狙いも少しあったのでは?この指数データに関係する女性閣僚の数が増えたのに、データには関係ない、副大臣・政務官の女性が11人からゼロになったということを聞いて、つい勘ぐってしまいました。

アイスランドの女性ストライキについて英ガーディアン紙の記事をX/Twitterで紹介すると、女性を中心にかなりの関心がありました。日本でもこれをやりたいという人も多いのですが、「うらやましい」「日本では無理よね」という、あきらめに似たようなつぶやきも聞こえます。日本でもやればいいのではないかと思うのですが、どうですか?あなたは参加したい?やるとしたらいつがいいのでしょうか。

男性は?

また、男性はどうお考えですか?表では言えないが、内心では「すでに多くの権利を勝ち取っている女性が、まだわがままを言っている、男性だって家族を養わなければならず大変なんだ」と考える人もいるかもしれません。

けれども、政治をはじめとする意思決定層が男性で占められている日本社会で真の不平等の問題を解決するためには、男性の力も必要です。アイスランドでも50年前は女性に家事育児を放り出されてぶつぶつ文句を言う男性が多かったはずです。それでも、かの国では男女共に協力して問題を少しずつ解決してきました。

背景として、人口が少ないアイスランドでは男性だけの労働力では国の生産性を最大限に発揮できないという課題があったのは確かです。女性も労働市場に参加することで、国の経済的な活力が向上したのです。また、男女ともに経済力がつくことで社会がより安定し、個人が持続的な成長やキャリアアップの機会に参加しやすくなり、社会全体の活力も高まります。異なる視点や経験を持つ人々が協力することで、より多様なアイデアやソリューションが生まれやすくなるというメリットも。

さらに、女性の社会進出は男性の家庭進出にもつながっています。仕事も家事も子育ても男女で平等に協力して分担することで、男性も幸せになることが多いのです。会社のために長時間労働、休日出勤を続け、家庭のことはすべて女性配偶者に任せ、子供との交流も少なく、気が付いたら家庭では給料を運んでくるだけの人となっていませんか。それよりも、仕事も家事育児も両親で協力して分担し、家族と長く過ごす時間を楽しんだ方がより健全で満足度の高いパートナーシップや家族関係を築くことができるはずです。男性が家族生活に積極的に参加することで、家族全体の幸福度が向上するし、男性も家族や個人のライフスタイルに応じてキャリアを選ぶ柔軟性を選び取ることもできます。

もちろん、そのためには職場や社会全体の意識改革、働きかた改革が必要となってきます。男だから女だからと役割を分担せず、個人や家族がそれぞれ自由に働きかたや人生を選ぶことができる社会になるように、意思決定者が環境を整えることが大切です。

 

参考記事:

https://kvennafri.is/en/womens-strike-2023/

https://www.theguardian.com/world/2023/oct/23/icelands-first-full-day-womens-strike-in-48-years-aims-to-close-pay-gap?

https://www.theguardian.com/commentisfree/2023/oct/25/middle-class-feminists-why-women-went-on-strike-iceland

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • Pocket
  • LINEで送る

SNSでもご購読できます。

メルマガ登録フォーム

* indicates required