7月半ばの今週、南欧を中心にヨーロッパでは40℃を超える高温が続くと警告が出ています。また、最近日本の人と話すと第一声が「暑くて大変です」ということで、今年も暑い夏になりそう。気候変動による影響もあり、アーバンヒートアイランド現象は都市部でますます深刻化している問題です。対策として行われている手法にはどんなものがあるのでしょうか。
アーバンヒートアイランドの理由
夏は暑いというのは当たり前ですが、その度合いが年々強まっています。特に都会では、周りの田園地帯にくらべ、10度以上気温が高くなることもあります。その要因として、様々な要素が考えられます。
都市化と建築活動
都市化により、建物や舗装が増え、地表面が非透水性となります。これによって太陽の放射熱が建物や道路などに吸収され、都市内の温度が上昇。都市部では、アスファルトやコンクリートなどの熱吸収性の高い素材が多く使われますが、これらは太陽の放射熱を吸収し、周囲の気温を上げる要因となります。
道路だけでなく、建築物の材質も都市の温度に影響します。コンクリートもですが、最近の建築物によくある、ガラスを多用したものもデザインによっては致命的な問題が出てきます。少し前に、ロンドンのガラス張りのビルの前に駐車していた高級車ジャギュアのミラーが溶けるという「事件」もありました。太陽光がガラスに反射して、駐車エリアが卵が焼けるほどの高温になっていたそうです。
緑地の減少
緑地は太陽の放射熱を吸収する代わりに、植物の蒸散作用によって涼しさを提供するため、緑の少ない都市部では高温になりがち。植物の葉は太陽光を遮り、地表の温度を抑え、木は日陰を与えてくれます。
排熱や排気ガス
自動車や工場、発電所などの排熱や排気ガスは、都市部において熱源となります。建物内を涼しくするために使用されるエアコンの排熱もしかり。これによって周囲の気温が上昇し、アーバンヒートアイランド現象を引き起こす一因となります。
2020年までにエアコンに使われるエネルギーは世界で3倍になったと言われています。たとえば、暑いドバイでは戸外のショッピングストリートにエアコンを使っていますが、その熱気は表通りの裏側に出てきて、そこで芝生のメンテナンスをする労働者はさらに過酷な暑さのもとに働いています。カタールのワールドカップでも、野外スタジアムに使うエアコンについて、環境の観点から批判する声が上がっていました。
気候変動
気候変動によって地球全体の気温が上昇しているため、都市部でも気温上昇の影響が増幅されます。気候変動はアーバンヒートアイランド現象を悪化させる要因の一つと言えます。
アーバンヒートアイランド対策
高温環境は人々の健康や快適性、エネルギー消費に悪影響を及ぼし、都市の、さらには地球全体の持続可能性に脅威を与えます。気候変動による温度上昇は、短期的な方策でどうにかできるといったものではなく、国際的な協力による、持続的な対策が必要です。いっぽう、都市化や人間の活動による要素に対する対策については、すぐにでも効果がある方法もあります。都市計画や建築方法の改善、緑地の保全と増加、持続可能な交通手段の促進など、総合的なアプローチができると、より効果的。アーバンヒートアイランド現象への対策として取り入れるべき手法にはどんなものがあるのでしょうか。国内外の実施例とともに紹介します。
緑地の増加と保全
都市内に緑地を増やすことは、アーバンヒートアイランド現象を緩和する効果があります。緑地は熱を吸収し、蒸散によって冷却効果を生み出すからです。特に、コンクリートジャングルとなりがちな都市の中心部に、誰でも利用できる公園や広場を設けることで、公共の自然環境を創出することは、都市住民に等しく自然に触れる機会を提供するために大切です。
緑地が少ない東京でも、皇居外苑の気温は周辺市街地よりも約1.0℃低く、8月中、最大では約2.8℃の気温差が観測された時間帯もあったと環境省が報告しています。このような公共の場所が都市のあちこちにあれば、都会民の生活環境に大きな影響を与えるでしょう。
ヨーロッパの調査で、都市の植樹は夏の気温を0.4度抑え、暑さ要因の死亡を39.5%減らすという結果が出ています。欧州都市の樹木割合を今の14.9%から30%にした場合の試算です。 樹木割合が低い街では暑さによる死亡率が高いのです。高温によるとされる6700人の死亡者のうち、2644人は都市の植樹によって命を取り留めることができたのではないかということなので、まさに「木が命を救う」。
都市計画:緑の回廊や風の通り道
コンクリートなどの高層建築とアスファルト道路で埋め尽くされがちな都会では、風が遮られ熱がこもり、日中にたまった高熱が夜間にさめることがないまま翌日まで残ることになります。適切な都市計画により、建物や道路、緑地や水面の配置によって風の通り道を確保することで風による換気や排熱が可能になります。さらに、都市内の道路や歩道に緑地帯や植栽を設けることで、緑の回廊を作るのも効果的です。
緑の回廊(Green Corridor):
緑の回廊は、都市内の道路や歩道、公園などに沿って緑地帯や植栽を設け、緑の通り道を形成する手法。これにより、都市内の緑地を連結し、自然の生態系を再生し、アーバンヒートアイランドの緩和や生物多様性の保全に寄与します。風の通り道を確保し、冷風の流れを促進するだけでなく、都市の住民に快適な環境を提供でき、自然の美しさに癒される精神的な安定感を与えることができます。
植樹や植栽によって緑地を形成するだけでなく、適切な道路設計や歩道の拡充、自転車レーンの設置などを含めた緑のインフラ整備を行うことも効果的です。これにより、都市内の涼しい風の通り道を確保し、熱気の排出や冷風の流れを促進するだけでなく、歩行者や自転車利用者に快適な移動環境を提供し、生活の質を向上させる役割も果たします。散歩やジョギングをする人にとっても貴重な都会のオアシスとなるでしょう。
建物の建築手法やデザイン
都市計画だけでなく、個々の建築物も高温を抑えるための効果があります。たとえば、サントリーニ島などが有名ですが、地中海の建物の外壁を白く塗るのは太陽を吸収することなく拡散するため。ニューヨークなど、建物の頂上部分を白く塗るように呼び掛けているところもあります。
色だけではなく、建物の屋根や外壁に高反射率の材料を使用することで、太陽光の反射を増やし、建物の熱吸収を軽減し、周囲の気温上昇を抑える効果もあります。例えば、ロサンゼルスでは、市政府の建物に高反射率のクールルーフを採用する取り組みが行われています。
断熱や換気についても、窓の外側のブラインドやオーニング、上部と下部が開く縦型の窓(暖かい空気が上から出て、涼しい空気が下から入る)など、昔から使われていた建築デザインにも効果的なものがあります。日本にもすだれやひさしなど建物内を涼しく保つ工夫がありますね。
緑の屋根と壁
最近では、建物の屋根や壁面に緑を取り入れることで、都市の熱吸収を軽減する手法もよくみられます。
緑の屋根(Green Roof):
緑の屋根は、建物の屋根部分に植物を植え、緑化する手法。屋上に土壌や植物を設置し、屋根面全体または一部を緑化します。この手法は、都市の熱吸収を軽減し、建物の冷却効果を高めると同時に、雨水の保持や浄化、大気中の二酸化炭素の吸収などの環境効果ももたらします。また、緑の屋根は建物の断熱効果を高め、エネルギー消費量を削減することもできます。屋上に草や低木、多肉植物、花などを植え、屋根面を緑化することが一般的ですが、さらに、適切な排水システムや保護施設を備えることで、緑の屋根の維持管理を行ったり、農業や屋上庭園を作ることもあります。
緑の壁(Green Wall):
緑の壁は、建物の外壁やフェンスに垂直に植物を設置し、壁面を緑化する手法。緑の壁は、都市の熱吸収を軽減し、建物の冷却効果や断熱効果を高めるだけでなく、都市の美観や空気品質の改善にも寄与します。
一般的には、鉄骨やコンクリートなどの構造に固定された垂直の構造物に、植物を栽培するためのフレームや支持体を取り付けて構築されます。植物は壁に取り付けられた容器やハンギングポット、ツル性の植物を活用して育てられます。緑の壁には自動散水システムが組み込まれることがあり、植物に必要な水分を供給します。
みんなで涼しく過ごす
夏が暑いと言っても、都会で働く人にとっては職場はエアコンで涼しいし、外での移動時をのぞいてはそれほど苦にならないのかもしれません。イギリスでは、夏でもそれほど高温にならないため、普通の家にはエアコンはないし、職場や店舗でも古い建物などだと、ついていないことも多いです。だから、まれに高温になると、暑さに慣れていない人にとっては身体的、精神的に悪影響を与えることも多いのです。
夏の暑さも冬の寒さも同様ですが、生活するうえで一番苦難を強いられるのは低所得者層となりがちです。エネルギー危機の冬にイギリスではウォームバンクが広がりましたが、暑い夏にもみんなで涼しく過ごそうという試みがあります。たとえば、ロンドンでは「ロンドンのクールスペース」マップを公開し、誰でも無料でアクセスできる、屋内外の公共の涼しい場所をマッピングしています。
エアコンや給水機がある、誰でも座って休めるところがある屋内施設(コミュニティセンター、宗教施設、図書館や美術館など)や涼しい木陰のベンチがある公園や広場など。ちなみにイギリスでは公立の美術館や博物館は(特別展をのぞいて)誰でも無料で入れるので、夏も冬も便利に利用できます。
イギリスは涼しい
と、ここまで「暑さ」について書いている私が住んでいるイギリスの温度は7月で18℃。天気予報によると今週は20度を超えなさそう。ヨーロッパ大陸では40℃を超える暑さだというのに、イギリスは天気までヨーロッパを離脱してしまったのかもしれません。ま、6月は異例の暑さで雨も降らず、芝生が茶色くなってしまっていたので、みんなそれほど文句もなさそうです。