ウクライナから国外に避難した難民が500万人を超えました。ポーランドやルーマニアなど近隣ヨーロッパ諸国を中心に難民の受け入れが進んでいます。日本政府もかなり早い段階でウクライナから避難する人を受け入れると表明しましたが、日本がこれまで他の国からの難民の受け入れに消極的だったことを考えると異例の対応と言えます。これを機会に世界中のすべての難民受け入れへの議論が広がることを期待します。
ウクライナからの難民
ロシアによるウクライナ侵攻開始から2か月近くとなった4月19日時点で、ウクライナから国外に避難した難民が500万人を超えたとUNHCR(国連難民高等弁務官事務所)が発表しました。国内で避難生活をしている人、避難できずに現地にとどまっている人もさらに多くいます。
ウクライナの人口は約4400万人なので、国民の9人に1人以上が国境を越えたことになります。その多くがポーランド、ハンガリー、モルドバ、ルーマニア、スロバキアといった近隣諸国に逃れています。
日本でも岸田首相が侵攻後1週間という早い段階でウクライナからの「避難民」の日本への受け入れを発表し、4月17日時点でウクライナから日本へ逃れてきた人は600人を超えました。4月5日にはポーランドを訪問した林外相が20人のウクライナ人を伴って帰国するなど、日本にしては「異例」の対応をしています。
難民鎖国日本
どうしてウクライナのケースが「異例」なのかと言うと、これまで日本は世界の難民問題にほとんど関与せず、「難民鎖国」としてのレッテルをはられてきているからです。
難民が多く発生したのは今回のウクライナに限らず、これまでも世界のあちこちで起きてきたことです。直近では2021年タリバンによって制圧されたアフガニスタンの例を思い出す人もいるでしょう。
シリア、アフガニスタン、ミャンマー、スーダン、ロヒンギャなど、身の危険のために避難を余儀なくされている人は、国内避難民4,800万人を含め、8,240万人に上ります(2020年末時点)。けれども、これらの国からの難民については日本はほとんど何もしてきませんでした。
日本の難民認定数は2020年で47人と、年間1万人を超える欧米諸国に比べてとても低いのです。このことをあまり知らない人に聞かれて答えると「桁を間違えているのではないか」と言われることもあります。
難民の数が少ない理由は日本に来たい人がいないからではありません。日本へもコロナ禍前は毎年1万人が難民申請をしていましたが、難民認定率は0.5%で、こちらも諸外国に比べ、けた違いに低い数字となっています。
どうして日本では難民として認められる人の数が少ないのでしょうか?
日本では誰が難民かという定義、審査の基準、手続き方法などが、いずれも非常に厳しいというのが理由です。このためもあり、今回ウクライナから逃れている人を海外では普通に「難民(refugee)」と呼ぶのに対し、日本では「避難民」と呼んで、他の難民とは区別しています。
UNHCRをはじめ国内外で日本の難民受け入れが低い問題について指摘する声が長年ある中、ほとんど何もされてこなかったのは、この分野における政治的な関心が低いためでしょう。そして、その陰には日本人全体の意識として、外国で困っている人を助けるべきだという意識が低かったり、あまり関心がないために、政治的に重要な課題として認識されていないことがあると思われます。
難民申請や在留資格の更新をする人々が収容される入管施設についても、2021年に名古屋入管に収容されていたスリランカ女性が死亡したことで、その実態を非難する声が上がったことも記憶に新しいことです。日本では難民受け入れだけでなく、日本で暮らしたいと願う外国人の対応全般について厳しく、「受け入れ」や「保護」ではなく「管理」という観点で議論されてきているように見えます。
日本と関係があるアジア諸国の人々は受け入れず
国際法に違反して武力で他国に侵攻し、民間人へも攻撃するというロシアによる人権侵害は許されないことであり、そのために国を追われてしまったウクライナ人を受け入れるということは、国際社会の一員として果たすべき当然の責任です。
とはいえ、ウクライナほど遠いところではなくとも、日本に近いアジア諸国でも同じような理由で故郷を追われてきた人はたくさんいるし、その中には、日本と関係がある人も多くいます。
ミャンマーの国軍クーデター発生後、日本に関係する仕事をしていたミャンマー人の中には「反国軍活動」に関与したとして逮捕される恐れがあるため、日本に難民として受け入れてくれるように要請したのに、入国できない人々がいます。
タリバンのアフガニスタン制圧で米国軍などが撤退した時、日本大使館や日本企業、日本のNGOで働いてきたアフガニスタン人がタリバンによって危険な目に遭っているのに、日本に来ることができないということもありました。当時イギリスは即時にアフガニスタン人1万人(その後も合計2万人まで)を受け入れると発表しましたが、日本政府は日本大使館スタッフでも本人だけで家族帯同を許可しなかったため、日本へ来るのをあきらめたという人も多くいました。
世界中で難民は豊かな先進国だけではなく、むしろ近隣の途上国が多く受け入れています。たとえば、シリア難民600万人のうち400万人はトルコに、ロヒンギャ難民はアジアの最貧国バングラディシュに90万人います。ウクライナでも紛争前はアフガニスタンやシリアからの難民を5,000人以上受け入れていました。その人たちの中には今ウクライナからさらに難民となってなって逃れている人もいるでしょう。
豊かで平和な先進国であり、G7の一員としての国際責任もある日本が難民受け入れについてはこれほど消極的であるということは、もっと議論されるべき課題ではないでしょうか。
過去には日本でも難民を積極的に受け入れた歴史があります。1970年代後半にインドシナ難民が出た時です。この時は国際的に難民を受け入れるべきだという動きがあり、日本も難民条約に加入して難民を1万人以上受け入れました。
2019年に亡くなった緒方貞子はUNHCR国連難民高等財務官を1991年から10年間つとめましたが、自国である日本についてこのような苦言をていしていました。
「難民の受け入れくらい積極性を見出さなければ、積極的平和主義というものがあるとは思えない。」
紛争下の混乱した地域でも現地に赴いて難民救済活動を行ってきた緒方貞子が、今の日本の難民受け入れ状況についてとても満足するとは思えません。
全ての難民に公平な対応を
これまでに日本に逃れてきたさまざまな国からの難民申請者、入管施設に長年収容されている人々、さらにアフガニスタン退避者への対応についても、入国後の生活や在留資格についていまだに多くの課題を抱えている状況です。ウクライナの「避難民」にだけ特別なことをするのではなく、これを機会に紛争や迫害から日本へ逃れてきた人全員に対して、包括的な受け入れ体制を標準化していくことを進めていくべきです。
人種や国籍などの属性によって難民受け入れの優先度に違いがあるのは不公平です。何らかの理由で身の危険や人権侵害があって自国から逃れてきている人たちの命は同等であり、分けて考えるべきではありません。
国民の関心にしてもウクライナについては高いようですが、これまでシリア、レバノン、ミャンマーなどで起こった紛争、攻撃や人権侵害についてはあまり知らない人も多いようです。大手メディアの発信する内容に偏りがあるのもその一因かもしれません。
今回のウクライナ危機に関しては、ウクライナ政府やSNSでの発信力の高さにも助けられ、日本でもメインメディアやオンラインサイト、SNSなどでかなり広範に取り上げられているようで、ウクライナ難民に対しての認知度も上がっています。
これを機会に、世界中で避難を余儀なくされるすべての難民に対しての受け入れや支援について、国内で議論が進むことを期待します。
SDGs 16. 平和と公正をすべての人に:
PEACE, JUSTICE AND STRONG INSTITUTIONS
世界中の人に紛争や戦争のない平和で包摂的な社会を提供し、効果的で説明責任のある包摂的な制度や司法を構築する。
UNHCRはウクライナ難民のための寄付を募る特別支援サイトを立ち上げていて、こちらで寄付ができます。